国別対抗戦ルールの再検討

目次

この記事の概要

この記事の目的は、フィギュアスケート国別対抗戦のルールを再検討することです。先日終了した2023年国別対抗戦では、1位アメリカ、2位韓国、3位日本となりました。前年2022年北京オリンピック団体戦では1位ロシア、2位アメリカ、3位日本となっており、上位国の変化が確認できます。2023年国別対抗戦に出場していないロシアはともかく、韓国が2023年国別対抗戦で2位に入るという快挙を達成しています。

韓国は2022年北京オリンピックでは、団体戦に出場すらしていません。その韓国がなぜ?どのようにして?2023年国別対抗戦で銀メダルを獲得したのか、オリンピック団体戦と国別対抗戦のルールを比較することで検討していきたいと思います。

ルールの概要

オリンピック団体戦

出場国:最大10か国

ショートプログラム(SP)が予選、フリースケーティング(FS)が決勝として競技が行われる。

予選では、男女シングル、アイスダンス、ペアの4カテゴリで各国代表選手1名がSPを演技する。そして、獲得したスコア順位で1位は10点、2位は9点、3位は8点・・・10位は1点というように、各国に順位点が与えられる。

予選競技で獲得した順位点の合計により、上位5か国のみが決勝競技へ進出できる。そして、予選同様に男女シングル、アイスダンス、ペアの4カテゴリで各国代表選手1名がFSを演技する。なお、決勝(FS)において演技する選手は、各国最大2名(組)まで予選(SP)に出場していない選手へ交代が可能。また、順位点の付与は予選と同様に1位は10点、2位は9点…となるが、決勝進出国は上位5か国であるため、決勝(FS)では最下位の5位でも順位点6点が付与される。

ここで注意すべき点は、予選・決勝ともに最大獲得順位点が1位の10点である一方で、最小獲得順位点は予選が10位の1点、決勝が5位の6点になっている点でしょう。予選は首位と最下位の順位点差が9点となるのに対して、決勝の首位と最下位の順位点差は4点となる。つまり、予選であるSPの方が順位点の差がつきやすく、決勝であるFSの方が順位点の差が付きにくい構造となっている。

最終的に予選と決勝で獲得した順位点の合計で、総合成績が決定する。

参考資料:オリンピックHP

国別対抗戦

出場国:最大6か国

ショートプログラム(SP)、フリースケーティング(FS)で競技が行われる。オリンピック団体戦のように予選・決勝という区分はないため、全出場国がSP・FSで演技することが確定している。

SP・FSともに、男女シングル各2名、アイスダンス1組、ペア1組の各国代表選手が演技する。そして、獲得したスコア順位で1位は12点、2位は11点、3位は10点・・・12位は1点というように、各国に順位点が与えられ、SP・FSで獲得した順位点の合計で最終順位が決定する。

ここで注意すべきは、アイスダンス・ペアは各国1組、全6組のみの出場であるため、最大獲得順位点は1位の12点に対して、最小獲得順位点は6位の7点だということである。男女シングルは首位と最下位の順位点差が11点となるのに対して、アイスダンス・ペアの首位と最下位の順位点差は5点となる。つまり、男女シングルの方が順位点の差がつきやすく、アイスダンス・ペアでは順位点の差が付きにくい構造となっている。

参考資料:INTERNATIONAL SKATING UNION(2023),WORLD TEAM TROPHY in Figure Skating 2023 ANNOUNCEMENT

ルールの比較検討

オリンピック団体戦、国別対抗戦のルールの概要を確認したところで、これら2つのルールを比較してみていきましょう。ざっくり表にまとめてみました。出場国数は違っていてもそこまで問題はない、また順位の決め方は同じ。両者の違いは予選の有無、そして競技者である。

  オリンピック団体戦 国別対抗戦
出場国数 最大10か国 最大6か国
予選の有無 予選あり(SP) 予選なし
競技者 男女シングル各1名
アイスダンス・ペア各1組
男女シングル各2名
アイスダンス・ペア各1組
順位の決め方 スコア順に順位点を獲得 スコア順に順位点を獲得

 

オリンピック団体戦

先に指摘したとおり、オリンピック団体戦ではSPが予選として取り扱われ、FSは上位5か国で行われているため、SPの方が順位点の差がつきやすく、FSでは順位点の差がつきにくい。そのため、予選の順位を決勝で大きく上げることが困難となる。事実、2022年北京オリンピックでも、予選での順位(ロシア、アメリカ、日本、カナダ、中国)が決勝において変化することはなかった。

SPを行う予選重視のルール設計となっているが、これは誰の目からも明らかであり参加国は対応が可能である。各国最大2名・組は予選と決勝で競技者を変更することができるので、当該ルールを活用するのであればエース級の競技者を予選に出場させ、エース級の競技者に次ぐ競技者を決勝に出場させる。変更可能な競技者がいない場合は、エース級の競技者を予選・決勝の両方に出場させれば良いだけである。

オリンピックという大会の特性上、決勝での逆転があるようなルール設計が望ましいのではないかとは思うが、何らかの考えがあるのだろう。オリンピック団体戦のルールはとくに問題がないように思われる。

国別対抗戦

一方で、国別対抗戦はオリンピック団体戦とは異なり予選がないため、SP(予選)とFS(決勝)の重みは同じである。しかし、先に指摘したとおり、男女シングルの方が競技者が多いため、男女シングルの方が順位点の差がつきやすく、アイスダンス・ペアでは順位点の差が付きにくい構造となっている。

オリンピック団体戦では、SP(予選)とFS(決勝)の重みの差があったものの参加国は対応可能であったため大きな問題はなかった。一方で、国別対抗戦は男女シングルにより重点が置かれたルール設計となっているが、競技者の育成は一朝一夕にはいかない。男女シングルに重点が置かれているからといって、男女シングルの競技者を急ぎ育成して対応するというわけにもいかないわけである。4カテゴリ内で一部カテゴリが重視されているというのはやや問題があるだろう。

国別対抗戦は2014年のソチオリンピックでの団体戦開始を見越して2009年に開始した(だった気がする。ソースは見つけられなかった。)が、開催国は日本として開催国枠で日本の出場が事前確定しているという関係上、2009年当時の日本フィギュアスケート界(男女シングルが強く、アイスダンス・ペアがそもそもペア数が少ない)に合わせたルール設計としたのかもしれないが…。

 

2023年国別対抗戦の結果を考察

冒頭であげたとおり韓国チームは2023年国別対抗戦において銀メダルを獲得したが、国別対抗戦の男女シングルにより重点を置いたルールに韓国チームが非常に合っていたということが理由としてあげられるだろう。

女子シングル

2023年国別対抗戦はアメリカが圧勝、韓国・日本・フランス・イタリアの4国でのメダル争いとなった。とくに女子シングルで多くの順位点を稼いだことがわかる。フランス・イタリアに対して2倍以上もの差をつけて、日本からの2ptのリードを奪った。女子シングル獲得した順位点で見ると、女子シングルは以下の順位になる。

  1. 韓国 40pt
  2. 日本 38pt
  3. アメリカ 33pt
  4. フランス 17pt
  5. カナダ 16pt
  6. イタリア 12p

男子シングル

男子シングルでもチャ・ジュンファン選手がFSで首位を獲得する等順位点を大きく獲得した。イタリア・フランスとの差を最小限に抑え、最終的に2位争いを行うことになった日本との差を10ptつけることに成功した。

  1. アメリカ 39pt
  2. イタリア 30pt
  3. フランス 30pt
  4. 韓国 27pt
  5. 日本 17pt
  6. カナダ 13pt

ペア

ペアでは韓国はSP・FSともに6位(最下位)となったが、男女シングル種目と比較してペアは点差が開きにくい。SP・FSともに首位となったアメリカと比較しても10ptしか順位点差は開いていない。他のメダル争いをしていた国(日本・イタリア・フランス)との順位点差も最大で日本との8pt差であり、男女シングルで作ったリードを覆すことはできていない。

※1点付け加えておくと、今回のメンバーは非常にレベルが高かったが、その中でこの韓国ペアは非常にレベルの高い演技を披露した。

  1. アメリカ 24pt
  2. 日本 22pt
  3. イタリア 19pt
  4. カナダ 19pt
  5. フランス 16pt
  6. 韓国 14pt

アイスダンス

ペアに続き、アイスダンスも韓国ペアは6位(最下位)となったが、ペアと同様にアイスダンスも男女シングル種目と比較して点差が開きにくい。メダル争いをしていた日本・フランスとは3pt差、イタリアとは8pt差しか開いていない。そもそもペアとアイスダンスでは最大で各10ptしか順位点差をつけることができないため、男女シングルで21pt差以上がついてしまうと逆転が困難なのである。

※またまた付け加えておくと、アイスダンスでも韓国ペアは非常にレベルの高い演技を披露した。

  1. アメリカ 24pt
  2. イタリア 22pt
  3. カナダ 20ot
  4. フランス 17pt
  5. 日本 17pt
  6. 韓国 14pt

2023年国別対抗戦の結果総括

2023年国別対抗戦では、アメリカチームが3カテゴリで首位を獲得するなど圧勝した。今回2位に入った韓国は順位点差がつきやすい男女シングルで貯金を作ってアメリカ以外の国に対してリードを築き、順位点差がつきにくいアイスダンス・ペアでのビハインドをひっくり返したと言えるだろう。日本は点差がつきやすい男子シングルで、イタリア・フランスは同じく点差がつきやすい女子シングルで韓国から後れを取った。

似たような構造で日本はこれまで国別対抗戦でメダルを獲得し続けていたため、今回韓国が銀メダルを獲得したことは非常に私にとっては印象深い出来事であったのである。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ただのフィギュアスケートファン。フィギュアスケート現地観戦し始めて10年前後。現在も日本国内の大会・アイスショーに出没しています。
このブログでは現地観戦の感想、日々感じたことをのんびり書いています。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次