2023/24シーズン振り返り:鍵山優真

2022/23シーズンは怪我のためシーズンをほぼ全休。2022年全日本選手権のみ強行出場しましたが、それ以外の大会はすべて欠場。2023/24シーズンは怪我からの復帰シーズンとなりました。

しかし、鍵山選手自身が「ここまで戻るとは思っていなかった」と話していたように、復帰シーズンとは思えないくらい順調なシーズンであり、出場した全大会で表彰台に上りました。

目次

プログラム

ショートプログラム:Believer

昨シーズンから継続のプログラムです。通称「ゆまーバー」。振り付けはシェイリーン・ボーンさんです。

2シーズンかけて、よりプログラムの強弱のつけ方が上手くなったように感じます。彼の得意路線ではありませんが、新しい一面を魅せてくれました。これは余談ですが、最後のポーズはオオアリクイの威嚇ポーズのようだと一部界隈で話題になっていました。

フリースケーティング:Rain,in your black eyes

こちらも昨シーズンから継続のプログラム。通称”Rain, in Yuma black eyes”です。(文法めちゃくちゃ)。振り付けはローリー・ニコルさんです。

ショートプログラムが挑戦のプログラムだったのに対して、こちらは完全に彼の得意路線のプログラムでした。静けさから始まり、最後得意のステップシークエンスで魅せる名プログラムです。曲の世界観がまず先にあって、それらを表現するためにジャンプ・スピン・ステップシークエンス等の要素が配置されているという印象を受けました。

エキシビション:Werther

怪我をした2022/23シーズンに用意していたUnderground(鈴木明子さん振り付け)を継続するかと思いきや、新プログラムWertherを用意してきました。通称「ゆまテル」。こちらもローリー・ニコルさんの振り付けです。

初披露時に「ミラノ五輪のショートプログラムにするかも」との話があったことからもわかるように、かなり気合の入ったプログラムとなっています。まるで芸術作品のように美しいプログラムなんですが、本人は「イタリアはオペラが流行っている」というくらいの認識だったのが逆に天然すぎて面白いです。

大会結果

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大会名SPSP順位FSFS順位合計総合順位
木下トロフィー争奪フィギュアスケート大会70.984140.493211.493
チャレンジャーシリーズロンバルディア杯91.471174.121265.591
東京選手権89.801194.951284.751
西日本学生選手権198.061198.061
グランプリシリーズフランス大会97.913175.234273.143
グランプリシリーズNHK杯(日本大会)105.511182.882288.391
グランプリファイナル103.723184.934288.653
全日本選手権93.943198.161292.102
全日本学生選手権94.141188.861283.001
四大陸選手権106.821200.761307.581
世界選手権106.352203.303309.652
2023/24シーズン 鍵山優真 大会結果

怪我からの復帰戦となった木下トロフィーでは精彩を欠きましたが、次戦のロンバルディア杯で復調のきっかけをつかみ、以降は完全復活を印象づける大活躍となりました。

2023/24シーズンのシーズンベストはショートプログラム:106.82、フリースケーティング:203.30、総合;309.65といずれも2021/22シーズンに記録したパーソナルベストに肉薄しました。

技術点(TES)

ジャンプ

ショートプログラムでは、4S,3Lz+3T//3Aの1クワド構成でシーズンスタート。6戦目となったグランプリシリーズNHK杯から、4S,4T+3T//3Aの2クワド構成にジャンプ構成を上げてきました。この構成は怪我前のジャンプ構成と同じになります。

フリースケーティングでは、4S,4T+1Eu+3S,3Lo,3A+2A+SEQ//3F+2T,3Lz,3Fという2クワド、1トリプルアクセルの安全構成でシーズンスタート。東京選手権でこのジャンプ構成をノーミスでこなすとトリプルアクセルの本数を2本に増やし、4S,4T+1Eu+3S,3Lo,3A+2A+SEQ//3A,3Lz+2T(3T),3Fに。全日本学生選手権以降は新しい四回転としてフリップを投入し、4S,4F,4T+1Eu+3S,3A+2A+SEQ//3A,3Lz+3T,3Fという3クワド構成まで上げてきました。ちなみに、2回以上跳んでいる3回転以上のジャンプはトリプルアクセルのみなので、まだジャンプ構成に余裕はあります。

鍵山ゆまちんはフリーザなのではないか?(=フリーザのように変身を何個も残しているのではないか?)という主旨から書いた記事が以下ですが、ようやく第2~第3形態まで来たというところでしょうか。

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4F(4回転フリップ)

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SP/FS要素大会基礎点GOE最終得点
FS1F2024 全日本学生選手権0.50-0.180.32
FS4F2024 四大陸選手権11.00-3.467.54
FS4F2024 世界選手権11.004.5615.56

全日本学生選手権以降にフリースケーティングに取り組んだ4Fについては、初挑戦時に1回転とパンク、2回目は回転できたもののステップアウト。3回目の挑戦となった世界選手権で初成功になりました。シーズンの成功率は33.3%ですが、これから上がってくるでしょう。4FはGOE+5で16.5点になるため、初成功となった世界選手権での評価はかなり高いものと言えるでしょう

4S(4回転サルコー)

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SP/FS要素大会基礎点GOE最終得点
FS2S2023 GPF1.300.191.49
FS4S2023 木下トロフィー9.702.2611.96
FS4S2023 CS ロンバルディア杯9.703.6913.39
FS4S2023 東京選手権9.703.8813.58
FS4S2023 西日本学生選手権9.704.2013.90
FS4S2023 GPS フランス大会9.703.8813.58
FS4S2023 GPS NHK杯9.704.3014.00
FS4S2023 全日本選手権9.704.3014.00
FS4S2024 全日本学生選手権9.703.8813.58
FS4S2024 四大陸選手権9.704.4314.13
FS4S2024 世界選手権9.703.8813.58
SP4S2023 木下トロフィー9.70-4.854.85
SP4S2023 CS ロンバルディア杯9.703.8813.58
SP4S2023 東京選手権7.76-3.883.88
SP4S2023 GPS フランス大会9.703.4613.16
SP4S2023 GPS NHK杯9.703.7413.44
SP4S2023 GPF9.703.8813.58
SP4S2023 全日本選手権9.70-4.854.85
SP4S2024 全日本学生選手権9.70-4.854.85
SP4S2024 四大陸選手権9.704.1613.86
SP4S2024 世界選手権9.703.6013.30

フリースケーティングでは11本中10本成功という抜群の安定感でしたが、ショートプログラムでは10本中6本成功で21本中16本成功の成功率は76%となりました。鍵山選手の4Sのミスはジャンプの軸が曲がりすぎて転倒というパターンが多い印象があります。より緊張感が高いショートプログラムの方が上手くコントロールができなくなるのかもしれません。全日本選手権では、「気が付いたら演技スタートしていて、気が付いたら転倒していた」という緊張感が伝わる面白発言をしていました。

彼の4Sは非常に質が高く、成功させれば満点近いGOEがもらえています。満点評価だと14.55点ですが、14点越えが数回あります。最も評価が高かったのが四大陸選手権フリースケーティング冒頭で跳んだ4Sであり、ここでは14.13点というハイスコアを稼ぎました。

4T(4回転トーループ)

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SP/FS要素大会基礎点GOE最終得点
FS2T2023 CS ロンバルディア杯1.300.051.35
FS4T2023 木下トロフィー9.50-2.536.97
FS4T+1Eu+2S2023 GPS NHK杯11.302.4413.74
FS4T+1Eu+3S2023 東京選手権14.303.4817.78
FS4T+1Eu+3S2023 西日本学生選手権14.303.8018.10
FS4T+1Eu+3S2023 GPS フランス大会14.303.2617.56
FS4T+1Eu+3S2023 GPF14.302.7117.01
FS4T+1Eu+3S2023 全日本選手権14.302.3116.61
FS4T+1Eu+3S2024 全日本学生選手権14.302.8517.15
FS4T+1Eu+3S2024 四大陸選手権14.303.2617.56
FS4T+1Eu+3S2024 世界選手権14.303.6617.96
SP4T+3T2023 GPS NHK杯13.702.7116.41
SP4T+3T2023 GPF13.701.9015.60
SP4T+3T2023 全日本選手権13.702.8516.55
SP4T+3T2024 全日本学生選手権13.702.5316.23
SP4T+3T2024 四大陸選手権13.702.8516.55
SP4T+3T2024 世界選手権13.703.3917.09

4Tでミスが出たのは復帰戦木下トロフィー、復帰2戦目のCSロンバルディア杯で跳んだ2本のみです。その他は不発となることなくジャンプを成功させ、17本中15本成功・成功率88%という高い成功率でした。GOEについては、4Sほどではありませんが、安定して+3.0前後の加点を取っていました。

怪我前はショートプログラムに1本、フリースケーティングに2本入れていたジャンプですが、現在はショートプログラムに1本、フリースケーティング1本と抑え気味となっています。2022/23シーズンの怪我が左足首とトーループで負担がかかる箇所なので、まだセーブしているのかもしれません。

トリプルアクセル(3A)

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SP/FS要素大会基礎点GOE最終得点
FS1A2023 GPS フランス大会1.100.061.16
FS3A2023 西日本学生選手権8.802.4011.20
FS3A2023 GPS NHK杯8.80-4.004.80
FS3A2023 GPF8.801.9410.74
FS3A2023 全日本選手権8.802.8611.66
FS3A2024 全日本学生選手権8.80-1.876.93
FS3A2024 四大陸選手権8.802.5111.31
FS3A2024 世界選手権8.80-3.775.03
FS3A+2A+SEQ2023 CS ロンバルディア杯11.302.4013.70
FS3A+2A+SEQ2023 東京選手権11.303.4714.77
FS3A+2A+SEQ2023 西日本学生選手権11.301.3312.63
FS3A+2A+SEQ2023 GPS NHK杯11.302.4013.70
FS3A+2A+SEQ2023 GPF11.302.4013.70
FS3A+2A+SEQ2023 全日本選手権11.302.4013.70
FS3A+2A+SEQ2024 全日本学生選手権11.303.2014.50
FS3A+2A+SEQ2024 四大陸選手権11.302.5113.81
FS3A+2T2023 GPS フランス大会10.232.0612.29
FS3A+SEQ+2A*2023 木下トロフィー8.00-2.405.60
FS3A2023 木下トロフィー8.80-4.004.80
SP3A2023 CS ロンバルディア杯8.802.4011.20
SP3A2023 東京選手権8.803.2012.00
SP3A2023 GPS フランス大会8.802.6311.43
SP3A2023 GPS NHK杯8.802.8611.66
SP3A2023 GPF8.802.5111.31
SP3A2023 全日本選手権8.802.4011.20
SP3A2024 全日本学生選手権8.802.1310.93
SP3A2024 四大陸選手権8.802.4011.20
SP3A2024 世界選手権8.802.4011.20

本人が苦手意識を持っていたトリプルアクセル(3A)については、4Sとは対照的にフリースケーティングよりもショートプログラムの方が成功率が高く、フリースケーティングの19本中14本成功に対して、ショートプログラムでは10本中9本が成功となりました。合計29本中23本成功と成功率79%になり、この数字だけ見ると4Sの成功率とさほど変わらないです。

ちなみに、ミスのほとんどがフリースケーティング後半に跳んだものになります。ここは来シーズンに向けての課題でしょうか。

スピン

復帰戦となった木下トロフィーではスピンのレベル取りこぼしがあり、尚且つフリースケーティングのFCCoSpでは足が攣ってしまい回転が出来ずノーカウント扱いとなりました。しかし、木下トロフィー以外はすべての大会でレベル4を獲得するという抜群の安定感でした。幼少期スピンが好きで、スピンの練習ばかりやっていたという逸話もあるスピナーなので、この安定感はさすがです。

足換えコンビネーションスピン(CCoSp)

グラフ内の「最高」は各要素で獲得できる最高得点(スピンやステップシークエンスであれば、レベル4かつGOE+5)のスコアを、「平均」では鍵山選手獲得スコアの平均値を示しています。

足換えコンビネーションスピン(CCoSp)はショートプログラムではプログラムの最後、フリースケーティングではステップシークエンスの直後、最後のスピンの1つ前に実施しています。レベル4かつGOE+5だった場合、5.25点稼ぐことが出来ますが、安定して4点台の後半を稼ぐことが出来ています。

興味深いのはショートプログラムよりもフリースケーティングの方が評価が高いという点です。ジャッジは同じなので、音楽への調和も含めてジャッジした結果フリースケーティングの方が高く評価されたと言えるでしょうか。

足換えキャメルスピン(CCSp)

足換えキャメルスピン(CCSp)は、ショートプログラムで4回転2本跳んだあとに実施しています。満点評価に近い評価を得ているCCoSpと比較して、やや評価は抑えられ気味です。これは、おそらくプログラムのつなぎとして配置されているため、音楽の調和という点で点数が伸び悩んだものと思われます。

足換えフライングコンビネーションスピン(FCCoSp)

足替えフライングコンビネーションスピン(FCCoSp)はフリースケーティングの最後に実施されています。スピン自体の質も非常に高いことは言うまでもありませんが、フリースケーティング”Rain,in your black eyes”では終盤のステップシークエンスからものすごい盛り上がりを見せ、先に紹介したCCoSpとFCCoSpを実施します。曲調との調和という点でも評価を得ているように感じました。

レベル4かつGOE+5の満点評価で5.25点となりますが、西日本学生選手権で5.13点世界選手権で5.05点ほぼ満点評価を得ています。

足換えフライングシットスピン(FCSSp)

足換えフライングシットスピン(FCSSp)は、フリースケーティングの前半ジャンプの連続が落ち着いたタイミングで実施しています。ここはかなりのスピナーでないとGOE満点近く稼ぐのは難しいため、繋ぎのスピンといった感じですね。

次のフライングシットスピンにも言えますが、彼はプログラムの最後等の盛り上がりで持ってくるスピンはより基礎点が高く点数を稼げるものを入れてGOEでも大きく点数を稼ぎ、基礎点が劣るスピンは中盤の要素間の繋ぎに持ってきていますね。非常に良い戦略だと思います。

フライングシットスピン(FSSp)

フライングシットスピン(FSSp)はショートプログラム後半のトリプルアクセル着氷直後、ステップシークエンスの直前に実施しています。ここも繋ぎのスピンと言った感じなので、回転速度をさらに上げるしかこれ以上の点数アップは難しいように思います。

ステップシークエンス

復帰直後はレベルを落とすことが多かったものの、グランプリシリーズ以降は安定してレベル4を獲得できています。特筆すべきは西日本学生選手権でのフリースケーティングです。なんとこの大会ではステップシークエンス満点を獲得しました。その他、満点にあと0.1~0.2点という実施が複数あり、ステップシークエンスが彼の強みの一つであることを証明しました。やはりショートプログラムよりもフリースケーティングの方が評価が高いですね。

数年前までは「ステップシークエンスが一番苦手」と話していたとは思えないレベルの高さでした。

コレオシークエンス

満点近い評価を得ていることが多いステップシークエンスと比較して、コレオシークエンスはやや評価が抑え目となっています。鍵山選手のコレオシークエンスは優雅なイナバウアーからのステップですが、激しく動く方が評価されやすいという面もあるのかもしれません。

それであれば、プログラムの盛り上がりに各要素を持ってきたいところですが、ずっと強い箇所のみでもプログラムとして成立しないので、構成上仕方ないですね。

演技構成点(PCS)

PCSはシーズンの早い段階から全要素を9点台の前半でまとめていました。特にスケーティングスキルが高く評価されています。来シーズンに向けては、9点台前半から9点台後半にいかにのせていくかという点が課題になってきますが、ジャンプをミスなく決めて良い演技を続ければ自ずと点数は上がってくるものと思われます。

来シーズンに向けては、スピン・ステップ・コレオシークエンスはほぼこれ以上ないくらいの点数を獲得しているので、4回転を増やした上でPCS9点台後半に乗せるのが課題となります。今シーズンは足の状態を見ながらシーズンを進めてきて、四大陸選手権と世界選手権のみ鍵山選手の父親兼コーちである正和さんからGOがかかったような状態だったので、エンジン全開で来た時にどうなるかが楽しみです。

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この記事を書いた人

ただのフィギュアスケートファン。フィギュアスケート現地観戦し始めて10年前後。現在も日本国内の大会・アイスショーに出没しています。
このブログでは現地観戦の感想、日々感じたことをのんびり書いています。

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