優れた代表選考会とは~MGCを事例に考える~

日本のフィギュアスケート界はレベルの高い選手が揃っており、世界選手権、オリンピックの代表選考は毎回非常に激しい争いとなっています。代表選考の激しさが増せば増すほど、代表選考で様々な論争が巻き起こります。

今回は、マラソンのオリンピック代表選考を事例として、優れた代表選考会は何かを考えていきます。

目次

マラソンの五輪代表選考

代表選考会の改善に至る経緯

マラソンのオリンピック代表選考は、毎回「なぜこの選手ではなく、この選手なのか」と大きく議論を巻き起こしていました。その一番の要因が「代表選考会が4大会あるにもかかわらず、代表枠は3枠しかない」という制度面に起因する問題でした。

つまり、4つの代表選考会において、4人の優勝者(日本人トップ)が生まれることになる。同じ代表選考会に出場した選手間の優先順位をつけることは簡単だが、異なる代表選考会に出場した選手の優先順位をどのようにしてつけるのかという点が大きく問題になります。

記録で比較しようにも、当日の天気、レース展開が異なれば記録の価値は全く異なります。同じ記録だとしても、気温が高い悪コンディションの中で出した記録なのか、涼しい絶好のコンディションで出した記録なのかで価値は異なりますし、順位で比較しようにも、各代表選考会に集まった選手のレベルで高い順位を獲得する難易度も異なってきます。

「代表選考会が4大会あるにもかかわらず、代表枠は3枠しかない」という状況下では、事前に定めた選考基準をどのように解釈して3人を選ぶのかという、人が主観的に判断する場面が出てきます。結果的に、選ばれなかった選手やその関係者からすると、「なぜこの選手ではなく、この選手なのか」という不満が出てくるわけです。

こういった代表選考に対する不満と併せて、2020年東京オリンピックで本当に実力を発揮できる選手を選考するという観点から代表選考会を改善することになりました。そして、2020年東京オリンピックの代表選考会として実施されるのがマラソングランドチャンピオンシップ(略称:MGC)です。

2020年東京五輪代表選考会:MGC

2020年東京五輪代表選考会として、実施されたMGCの概要を説明していきましょう。あくまでもMGCの詳細を説明することは目的としていないので、気になる方はMGCの公式HPをご確認ください。

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MGC参加資格の獲得

MGCは誰でも参加可能ではなく、高いレベルの結果を残して参加資格を得る必要があります。

細かい条件がありますが、主となるのは、指定された大会において特定の順位と記録を出すことです。

MGCが2019年9月に開催されるため、2017~18シーズン、2018~19シーズンの2シーズンの大会において、参加資格を得る必要がありました。この参加資格を獲得したのが、男子34人、女子15人でした。

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MGC

2019年9月に実施されたMGCでは、一発勝負で2位以上の選手がオリンピック代表に内定します。

3枠のうち2枠がこの一発勝負で決まるわけで、大事な試合で実力を出す勝負強さが求められます。

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MGCファイナルチャレンジ

MGCファイナルチャレンジでは、MGC参加資格を有している競技者であり、2019~20シーズンの指定大会において派遣設定記録を突破した最上位者に、最後のオリンピック3枠目が与えられます。

この派遣設定記録は、MGS参加資格を得るための2シーズン中の日本人最高記録を上回る記録が設定されることから、非常にレベルの高い記録となっていました。

もし、派遣設定記録を上回る選手が発生しなければ、MGC3位の選手にオリンピック3枠目が与えられることになります。

男子は1人、女子は2人派遣設定記録を上回る選手が現れたため、男子はその1人が、女子は2人のうち記録がより速い1名が最後の3枠目を掴むことになりました。

MGCの優れた点

徹底した代表選考の主観性排除

MGCの優れた点の1点目は、「徹底した代表選考の主観性排除」です。

MGCでは、MGC参加資格を得るための基準、MGCでの代表内定基準、MGCファイナルチャレンジでの代表内定基準、すべての基準が明確に示されています。結果が出た後に、人が主観的に判断する場面が1mmたりとも発生しません。

そのため、選手からすればどうすれば代表になれるのかが明確であり、「なぜこの選手ではなく、この選手なのか」と言った疑念は全く発生する余地がありません。

勝負強い選手の選考

MGCの優れた点の2点目は、「勝負強い選手の選考」です。

MGC以前の代表選考では、4大会代表選考会があったので、例えば2大会目に出場して実力を発揮できなかった選手が、4大会目に出場してオリンピック代表に再チャレンジするといったことも可能でした。しかし、MGCでは一発勝負でその日に自らの状態を合わせねばなりません。

結果として、勝負強い選手を選考することが可能になりました。

MGCで外した有力選手の救済

MGCの優れた点の3点目は、「MGCで外した有力選手の救済」です。

MGC一発勝負と聞くと聞こえは良いですが、圧倒的な実力を持った選手がMGCに状態を合わせられないという事態もあります。その場合、真に実力のある選手を代表選考ができないといった危険性を孕んでいます。

その危険性を排除するために、MGCファイナルチャレンジが設定されています。派遣設定記録の難易度は高く、尚且つ1枠のみですが、MGCファイナルチャレンジが存在していることで、MGCで外した有力選手を救済して代表選考ができるような仕組みとなっています。

一発勝負と有力選手の救済のバランスが非常に良いと感じます。

フィギュアスケートの代表選考

現行の代表選考基準

現行の代表選考基準は以下記事にて詳細を解説しています👇

世界選手権の代表選考基準の概要を説明すると以下になります。

  • 1枠目:全日本選手権優勝者
  • 2枠目:全日本2~3位、GPF上位2名、SB上位3位のうち総合的に判断
  • 3枠目:2枠目の基準を満たして選考から漏れた人、WS上位3位、シーズンWR上位3位、2試合の平均得点上位3位の中から総合的に判断

現行の代表選考基準の問題点は、何と言っても「代表基準の不明確さ」ではないでしょうか。

全日本、GPF、SB、WSのいずれの基準が重要視されるのか明記されていないため、どうすれば代表選考されるのかがわかりにくくなっています。「総合的に判断」って何をどう総合的に判断するんですか?となります。

ただし、代表基準に遊びの部分を持たせておくことは悪いことばかりではありません。先に確認したマラソンの五輪代表選考基準は非常に優れた方法でありますが、欠点として「MGC参加資格を有しておらず、MGC直後に覚醒して一番勢いがある選手を代表選考できない」と言った点があります。

身近で似た例としては、2022年北京オリンピックのアメリカ代表選考が挙げられます。全米選手権だけでなく、これまでの競技成績が重視される代表選考基準を明確に定めた結果、全米選手権で300点オーバーの得点で準優勝したイリヤ・マリニンは、代表選考基準に則り順当に代表選考から漏れることになりました。

日本のフィギュアスケートにおける代表選考基準では、解釈のしようによってはある程度柔軟に代表選考を行うことが可能です。そう言った意味では、必ずしも悪い基準ではありませんが、先に確認したマラソンの五輪代表選考基準を参考に、より良い代表選考基準を作ることが可能でないか?と思います。

代表選考基準の改善案

改善案1

1枠目:全日本選手権優勝者

2枠目:全日本選手権準優勝者

3枠目:1~2枠目の選手を除くSB最上位者

改善案の1つ目は、全日本選手権2位までの選手を1~2枠目として代表選考。最後の3枠目をSB最上位者としました。

マラソンの代表選考と合わせて、全日本選手権の一発勝負で2位までの選手を代表選考し、最後の3枠目は全日本選手権で外した有力選手の救済としてSB最上位者を選出することとしました。

ただ、この選考基準だとグランプリファイナル出場のメリットがほとんどないことになってしまいます。そこで考えたのが次の案になります。

改善案2

1枠目:全日本選手権優勝者

2枠目:全日本選手権準優勝者

3枠目:1枠目・2枠目の選手を除くグランプリファイナル3位以内の日本人最上位者、いなければSB最上位者?全日本選手権3位?

改善案の2つ目として、3枠目の代表選考をSBではなくGPFの結果を採用することにしました。

対象者がいなければ、全日本選手権3位、SB最上位者のいずれかを選考するのが良いと思います。

改善案1と2で共通ですが、2枠目の全日本選手権準優勝者は指定スコアをクリアすることが求められるのも良いかと思います。

まとめ:優れた代表選考とは

この記事では、マラソンの五輪代表選考であるMGCを事例として、フィギュアスケートの代表選考基準はどうあるべきかを考えてきました。

マラソンの五輪代表選考は一発勝負と有力選手の救済という要素を含んでおり、また基準が明確であること点が非常に優れています。つまり、代表基準を明確化しつつ、代表選考の目的である真に実力のある選手を選考することにも成功しています。

フィギュアスケートの代表選考基準は、真に実力のある選手を選考するということには成功していますが、代表基準は不明確な状態です。この両者のバランスをいかにとるのかという点において、マラソンの五輪代表選考は示唆に富んでいます。

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この記事を書いた人

ただのフィギュアスケートファン。フィギュアスケート現地観戦し始めて10年前後。現在も日本国内の大会・アイスショーに出没しています。
このブログでは現地観戦の感想、日々感じたことをのんびり書いています。

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