「〇〇越え」報道への違和感を考える

昨シーズン怪我のため全日本選手権1試合以外の大会を欠場した、北京オリンピック銀メダリストである鍵山選手の記事が出ています。この記事タイトルで用いられている「宇野昌磨越え」という言葉、フィギュアスケート界だけでなく、スポーツ界でしばしば用いられる「〇〇越え」という言葉への違和感の言語化を試みました。

目次

記事の概要

最初に指摘すべき事項として、記事の内容、本文は非常に良い内容でした。内容としては、鍵山選手の現在の充実っぷりについて記されています。

2022年12月の全日本選手権に強行出場し、その後の長期休養を経てイタリアでカロリーナ・コストナーさん、ローリー・ニコルさんらと合宿を行い、プログラムを演じ表現する力が非常に上がっている。昨シーズンと全く同じプログラムを滑っているにもかかわらず、全く別物と言えるくらい完成度が高まっている。そして、フィギュアスケートのシングル種目において鍵となるジャンプも順調に戻しつつある。7月上旬に行われたシニアの全日本強化合宿で非常に際立っていたと記事内で述べられています。

既出の情報ばかりではありますが、昨シーズンのほぼ全休を経て今シーズンに向けてどのように歩んできたのか、そして現在地としてどのような状態にあるのかがまとめられた良い記事だと思います。

良い記事であるだけに、余計にタイトルにつけられた「宇野昌磨越え」という言葉に違和感を感じました。(ちなみにですが、筆者は鍵山選手の大大大ファンです。)

なぜ違和感を感じたのか

この「〇〇越え」(ただし、ここにおける「〇〇越え」は天城越えは含まないものとする。)は、私がフィギュアスケートを応援している間しばしば目にした記憶があります。「浅田真央越え」「羽生結弦越え」等、「〇〇越え」という言葉はフィギュアスケート界、スポーツ界において頻繁に使用されています。

結論から言うと、少なくともフィギュアスケートにおいては、第三者が「〇〇越え」という言葉を使用することは適切でない場合が多いのではないかというのが私の意見です。

何をもって越えたと判断するのか

陸上競技や水泳等、明確に記録が出るスポーツであれば、記録を越えたという意味で「〇〇越え」は不自然はないと思います。世界記録や日本記録が誕生した際も、誰の記録を越えたのかを述べることは当然のことです。

ただ、フィギュアスケートのような採点競技において、「〇〇越え」はどのように判断するんだろうと思いました。

パーソナルベストが上回ったら?直接対決で勝利したら?

大会によってジャッジが異なれば点数の出方は変わってくるし、直接対決と言っても一方の選手の状態が悪い時もある。

「〇〇越え」と言われても、どのような状態になったら「〇〇越え」を達成したのかがわかりませんでした。

他者との勝負よりも自分との勝負ではないか

フィギュアスケートの競技特性を考えると、他者との勝負というよりも、自らとの勝負の方が適切ではないかと思います。例えば、陸上競技であれば一緒にトラックやロードで走る他者がいて、彼らとの勝負になります。また、サッカーや野球でも同様に、相手チームの他者との勝負になりますよね。

しかし、フィギュアスケートでは、競技中はリンクに1人きり。他者は誰もいません。他の競技とは異なり、他者との勝負にいかに勝つかというよりは、自らとの勝負にいかに打ち勝って良い演技をするのかという競技ではないでしょうか。その証拠に、フィギュアスケートでは「自分に勝ちたい」という選手からのコメントが多く聞かれるような気がします。

そう考えると、フィギュアスケートにおいて「〇〇越え」と第三者が強調することにどんな意味があるんだろうと思ってしまいます。

第三者が言うべき発言なのか

先ほど「自分に勝ちたい」の方が適切ではないかと述べましたが、本人が「〇〇選手に勝ちたい」と発言するのは理解できます。スポーツなので「勝ちたい」「1位になりたい」という気持ちを持つことはおかしいことではないからです。

一方で、メディア等の第三者によって用いられる「〇〇越え」は、現在の当該スポーツ界の権威を、若手選手が越えると述べることで新しいスターを作ろうとしている思惑が透けて見える。そして、「〇〇越え」と述べるときの「〇〇」選手に対しても敬意が感じられない。「〇〇越え」に対して、私が違和感、嫌悪感を感じる一番の理由はここかなと思います。

おわりに

フィギュアスケートにおいてメディアが「〇〇越え」と騒ぎ立てることについて、違和感を感じる理由の言語化を試みました。結論としては、以下のとおりになります。

・「〇〇越え」という言葉は、フィギュアスケートの競技特性を鑑みるとそぐわない。

・新しいスターを作りたいという思惑が見える。

・「〇〇越え」で越えられる側への敬意が感じられない。

繰り返しになりますが、私は鍵山選手の大ファンですし、宇野選手も大好きです。

両選手のグッズもたくさん持っています(身に着けて観戦に行っています)。

選手同士が非常に良い関係であるだけに、余計に第三者が変なこと言わないでほしいな~と思った出来事でした。

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この記事を書いた人

ただのフィギュアスケートファン。フィギュアスケート現地観戦し始めて10年前後。現在も日本国内の大会・アイスショーに出没しています。
このブログでは現地観戦の感想、日々感じたことをのんびり書いています。

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