はじめに
皆さん、こんにちは!今回は「ドリームオンアイス2024」の観戦記です。
今年は例年のドリームオンアイスとは大きく異なるリニューアルが施されました。試合形式の導入や、場内での明かりをつけたまま照明なしでの競技プログラムの披露など、数々の新しい試みが行われました。この記事では、その素晴らしい変更点や気になった点、そしてとくに印象に残った選手の演技について詳しくご紹介します。
大幅リニューアルの内容
試合形式への変更
過去のドリームオンアイスでは、場内の明かりを消して、照明ありで通常のアイスショーのように選手が競技プログラムもしくはエキシビションプログラムを滑る形式でした。しかし、今年のドリームオンアイスは、これまでの形式から大きく一新されて試合形式となりました。具体的には、場内の明かりはつけたまま照明なしで、各選手は6分間練習を行った後に競技プログラムを演技します。この変更により、まるで試合のような高い緊張感がありましたし、何よりも6分間練習の存在により、選手はより精度の高い演技を行うことが可能になりました。
これは、ロシアで毎年行われているテストスケートに近い形式で、新シーズンに向けて選手たちが新しいプログラムを試合形式で試す絶好の場となりました。
開場時間の見直し
また、金曜日の公演のみですが、開場時間が大幅に早められて開演前の選手の練習を見ることが可能になりました。
スケートファンには選手の練習を見たいというニーズが高く、この変更により学校や仕事を休んででも金曜日の公演を見に行くというファンが増えたのではないでしょうか?ここ数年は金曜日のみ座席が全然埋まっていないということも多かったのですが、土曜日とほぼ同じ座席の埋まり具合に感じました。
一方、土曜日の昼公演と日曜公演はアイスクリスタル有料会員の抽選にしているため、こちらも開演時間を早めることを検討してほしいところです。
気になった点
グランドフィナーレでの写真撮影
昨年のドリームオンアイスで観客アンケートを行っており、その結果として今年大きくリニューアルされたドリームオンアイス。リニューアルされたドリームオンアイスは概ね満足するものでしたが、数点気になった点もありました。
まず、グランドフィナーレでの写真撮影についてです。通常演技中の写真・動画撮影は禁止されているのですが、これも新しい取り組みとして、グランドフィナーレにおける写真撮影が解禁されました。しかし、初日の金曜公演では、いつから写真撮影をして良いのかアナウンスがなく、私を含む観客は戸惑いながら写真を撮っていました。2日目以降は「音楽が変わった後は写真撮影OK」という旨のアナウンスが入りましたが、どの音楽からどの音楽に変わったらOKなのかわかりません。そもそも、「曲が変わったら」というアナウンスは、全体構成がわかっている運営側の視点であって、観客視点ではないという点でやや不親切だったと思います。私は複数回観戦したため、なんとなくわかりましたが、周囲にはフライングして写真撮影を始める人や、戸惑いながら写真撮影を始める人がいました。ここから写真撮影可能です!という明確なアナウンスをしてほしいです。
この点については、プリンスアイスワールドの公演後に実施しているふれあいタイムでも写真撮影可になるため、参考になる事例はあります。来年に向けて改善をお願いしたいところです。
演技前コメントの廃止
次に、選手からの演技前コメントがなくなったことです。これまでは、事前録音された選手のコメントが演技前に流され、プログラムの見どころを教えてくれるのが楽しみでした。選手の見てほしいポイントを聞いた上で演技を見ると良さがよりわかる気がしていたので、このコメントがなくなったことは残念でした。
提案としては、事前に選手から文章でコメントをもらい、6分間練習の選手紹介時に読み上げると良いのではないでしょうか?さすがに事前録音されたコメントを流すとせっかく作った試合感が薄れてしまうので、あくまでも場内アナウンスとして行うのが良いと思います。
席の配置
また、席の配置についても気になる点がありました。今回、東側がジャッジ側とされていましたが、ジャッジ席がないため、リンクまでの距離はジャッジ側、ジャッジ裏側のどちらも同じです。そして、演目はエキシビションプログラムではなく、競技プログラムなので、選手も当然ながらジャッジ側を意識して演技しています。
それならばジャッジ側の方が明確に良い席となります。演技するグループによってジャッジ側を変えるなどの工夫があると良かったかもしれません。もしかしたら素人が考える以上に難しいところがあるのかもしれませんが…。
ゲストスケーターの6分間練習
最後に、ゲストスケーターだけ6分間練習がない点です。特に、イリヤ・マリニンは競技用プログラムで4回転ジャンプも跳んでいたため、6分間練習を取り入れて万全な状態で見たかったという気持ちがあります。
練習なくいきなり出てきて競技プログラムを滑ってもらうのも申し訳なかったなと思いました。もちろん、昨年まではこの形式だったのですが、同じアイスショーに出演している他の日本人選手が6分間練習で通常の試合と同様に準備をして演技している一方、ゲストスケーターはいきなり演技をしてください!というのはやや不公平さを感じました。スケーターのメンツにも関わりますしね。
印象に残った選手の演技
周藤集さん
新ショートプログラム「Take Five/キャラバン」。
Take Fiveの音楽が流れた瞬間、心の中でガッツポーズをしたのは私だけではないでしょう。年末の全日本選手権で大けがをした後、半年ぶりの復帰となりましたが、トリプルアクセルも戻してきていて安心しました。久しぶりに元気な姿を見ることができて本当に良かったです。体の可動域が広く、柔らかい演技は健在で、ジャズの抜け感もあり、とても良い演技でした。
年末の怪我からの復帰戦ということで、まだエッジ系のジャンプが中心で、トー系のジャンプは難しそうでしたが、それでも彼の表現力に魅了されました。シードを持っているので、全日本ジュニア選手権に向けて合わせてくることが理想ですね。
中田璃士さん
新ショートプログラム「Aroul/Uccen」。
フラメンコの演技です。まるで氷上でフラメンコを舞っているかのような迫力がありました。まだ動きが荒い部分もありますが、完成度の高さには驚かされました。フラメンコと後述するタンゴは「止める動き」が重要ですが、彼は「止める動き」がしっかりできているので、非常に見栄えがします。この完成度は驚異的です。
また、ジャンプも非常に軽く、4回転トーループ、4回転サルコーは軽々跳んでいましたし、6分間練習では4回転ループにも挑戦していました。昨シーズンの彼とは完全に別人です。この状態を維持できるのであれば、世界ジュニア選手権でも圧勝するでしょうね。
上薗恋奈さん
新フリースケーティング「鐘/Chronos」。新ショートプログラム「Voila」は残念ながら見れなかったので、フリーの感想です。
演技冒頭、「鐘」が流れ始めたときはかなりびっくりしました。この曲はジュニア2年目にさせる曲ではないからです。2010年バンクーバーオリンピックシーズンに浅田真央さんが演じたことで有名で、当時19歳の浅田真央さんに対してですら、シーズン当初「まだ早い」「真央ちゃんには合わない」との声がありました(そしてそれら意見を、鐘を完璧に演じることでねじ伏せたというのもまた周知の事実でしょう。)。14歳の上薗選手が鐘を演じるというのは、かなりチャレンジングな選曲です。
後半のChronosは彼女の特異路線なので問題ありませんが、鐘の重さを表現することで、前半後半のコントラストがより際立つように思います。今のところ、軽さの方が前に出てきているように感じるので、いかにして鐘の重さを表現できるようになるかで、このプログラムの評価が決まるのではないでしょうか。
島田麻央さん
新ショートプログラム「Defying Gravity」。
久しぶりに年相応の曲ですね。ここ数年は女神になったり、戴冠したり、十代前半とはという選曲ばかりでしたが、今回は軽やかな年相応のプログラムでした。本当に空を飛んでいるような軽やかさがありました。少し身長が伸びたように感じましたが、ジャンプは盤石です。ジュニア無双はもちろんのこと、全日本選手権でも坂本花織選手を脅かす演技を期待しています。やはり競り合ってこそ勝負は面白いので。
千葉百音さん
新ショートプログラム「Last Dance」。
今までの彼女にない楽しくノリノリで踊るプログラムでした。ダブルアクセル着氷後の溜めがお気に入りポイントです。やはり彼女は踊りの才能があります。どんなプログラムでもしっかりと演じてくれますね。ただ、個人的には、もっと弾けて演技してほしい!と思っています。まだ2割くらい「生徒会長」感が残っているように感じるんですよね。もっともっと自由に弾けてほしいです。
彼女は練習途中から、何度も何度も4回転トーループの練習を続けていたのが印象的でした。良くてアンダーローテーション+転倒だったので完成はまだこれからといったところでしょうか。彼女もパワーがあるタイプではないので、普通に4回転跳びに行くのではなく、折れ線で跳びに行ってほしいところですね。
坂本花織さん
新ショートプログラム「タンゴ」。
彼女の弱点である止める動きが必要なタンゴですが、止める動きは最小限として、動きの強弱を活かしてタンゴを表現することに成功しました。他の人にはない坂本花織のタンゴですね。現地で見るとあまりの運動量の多さに驚かされます。練習・本番でもコンビネーションジャンプの失敗が多かったですが、リンク内に氷上席がある会場での競技プログラムは、彼女のスケートの伸びとダイナミックなジャンプでリンクが足りなくなってしまいます。土曜日の夜公演でも氷上の観客席まで飛び出そうになっていました。これはさすがに仕方ないです。
同じ中野門下生の三原選手にも言えるんですが、坂本選手は曲かけ練習でミスが出ると、ノーミスできるまで曲かけ練習を続けるんですよね。彼女たちの強さの理由を見ました。
三浦佳生さん
新フリースケーティング「シェルブールの雨傘」。
初日だけジャケットを着ていましたが、演技しにくかったらしく脱ぎました。
三浦佳生×シェルブールの雨傘が全く想像できなかったので、意外に合うじゃんと思いました。あとは映画の世界観がもっと出てくると良いですね。シェルブールの雨傘のストーリーは、愛し合う恋人が引き裂かれ…という結構よくある内容なんですが、最後のシーンを見るとハッピーエンドにもバッドエンドにも見えるんですよ。そのなんとも言えない表現のしようがない感じが出てくると良いなと思います。
最初から最後までずっと強いので、プログラムの感傷に浸る隙が全く生まれないことが原因かなと思いました。中盤付近でもっと弱いところを作って強弱をつけられるようになればといったところでしょうか。シーズンを通してどう変化していくのか楽しみです。
佐藤駿さん
新ショートプログラム「ラベンダーの咲く庭で」。
内に秘めた感情が溢れていくような情感ある演技で、新しい彼の魅力を引き出してくれました。彼は年々表現が化けていくので本当に驚かされます。同じ曲を演じていた宇野昌磨さんのようにも見える瞬間が何度もありました。まさか、ここまで表現お化けだとはジュニア時代思っていませんでした。ジャンプも悪くなく、今シーズンは世界選手権の表彰台争いに入ってきても全く驚きません。
ところで、練習では久しぶりに4回転サルコーも成功させていました。フリースケーティングでは、ルッツ、サルコー、トーループで3種4本の4回転で臨むのでしょうか?4回転のフリップとループも持っているので彼の選択が気になるところです。
鍵山優真さん
新ショートプログラム?「サウンドオブサイレンス」。
?をつけたのは、もう1つショートプログラムを作っているみたいな話があったからです。
5月のプリンスアイスワールドでもこの演目は見ていましたが、2か月での進化に非常に驚かされた演技でした。この2か月で一気にプログラムが熟成されたようで、演技の深みが増していました。前半の静けさ、後半の感情溢れる演技のコントラストが素晴らしいです。どうしてこんなに自由に動けるんだろうと思いながら、彼の演技に見入っていました。
プログラムの完成度のみでなく、ジャンプも既にシーズン前とは思えないくらい仕上がっています。土曜日夜公演では、4回転サルコー、4回転フリップ+3回転トーループ、トリプルアクセルの新構成をノーミスで披露。練習中でも昨シーズン実戦投入した4回転フリップの成功率と質がすさまじく、4回転ルッツを狙う動きも何度かしていました。練習を見る限り、今シーズン彼が想定しているジャンプ構成は以下だと思います。
- SP:4S,4F+3T//3A
- FS:4S,4Lz,4F,4T+3T//4T+1Eu+3S,3F+3Lo,3A
ところで、髪の毛が明るくなっていますね?大谷翔平の真似をして髪を染めない!という宣言をしていたので目を疑いましたが、どう見ても茶髪です。まあ、大学生なので、いろんな髪型を楽しんでほしいところです。
まとめ
ドリームオンアイス2024は、大幅なリニューアルにより、新シーズンの競技プログラムを競技に近い形式で楽しむことができる素晴らしいアイスショーへと生まれ変わりました。一方で、まだまだ改善の余地もあり、今後さらに良いアイスショーになることを期待しています。来年も楽しみにしています!