アダム・シャオ・イム・ファのバックフリップを考える

目次

事実関係の整理

ISU規程によるバックフリップの取り扱い

フィギュアスケートにおいて、縦回転のジャンプ(=サマーソルト型ジャンプ)、不正なホールドでのリフトは違反要素/違反動作とされています。今回話題になっているバックフリップはサマーソルト型ジャンプであり、違反要素/違反動作として定められています。

そして、違反要素/動作が実施された場合、実施された回数ごとに2点減点となります。

違反要素/違反動作は以下のとおり.

  • サマーソルト型ジャンプ
  • 不正なホールドでのリフト
国際スケート連盟『特別規程、技術規程』p.105

ステップシークエンス、スピン等の要素実行中に違反要素/動作が実施された場合、実行中だった要素のレベル判定にも影響があります。要素実行中に違反要素/動作が実施された場合、実行中だった要素のレベルは「レベルB」もしくは「レベルなし」扱いとなります。

あまり見かけないですが、レベル1の下にはレベルBがあり、さらにその下にはレベルなしがあります。

要素実行中に違反要素/動作が実施された場合、2点減点された上で、実行中だった要素のレベルは、レベルB以上(レベルB~4)の要件を満たしているものであれば「レベルB」、そうでなければ「レベルなし扱いとなります。

演技中,第610条(シングル&ペア・スケーティング),第704条第21項(リズム・ダンス),第710条第3項(フリー・ダンス)で定められた違反要素/違反動作/違反ポーズを行った場合,それぞれに対して減点が与えられる(第353条第1項n)参照).

要素実行中に違反要素/違反動作を行った場合,違反要素/違反動作/違反ポーズに対する減点が適用されるとともに,当該要素は以下のようにコールされる.

  • シングル&ペア・スケーティング:レベルB以上の要件が満たさ
    れた場合はレベルB
  • アイス・ダンス:レベルB以上の要件が満たされた場合はレベルB
    満たされなかった場合はコレオグラフィック要素として認定されな
    い(ノーレベル).
    上記以外の要素は「レベルなし」となる
国際スケート連盟『特別規程、技術規程』p.82

アダム選手の採点結果

続いて、2024年ヨーロッパ選手権のフリースケーティングにおけるアダム選手の採点結果を見ていきましょう。同選手はコレオグラフィック・シークェンス(ChSq)の途中において、バックフリップを実施しました。

まず、バックフリップという違反要素/動作を1回実施したことにより、2点の減点が課せられています。

ChSqの途中にバックフリップが実施されたものの、ChSq自体はとくに減点されていません。むしろ、かなりプラスの評価となっています。この点について、「違反要素だけど、ChSqの表現として評価されていたから減点されていないんだ!」という主旨の感想を見かけましたが、この認識は誤りです。ChSqの実施中に実行された違反要素/動作は、減点する規則がないから減点されていないのです。

これは、ChSqがレベル判定がなく、GOEの評価のみが行われることと関係があります。例えば、ステップシークエンス(StSq)であればレベル判定があるため、StSq実施中にバックフリップが実行された場合は、StSqのレベルが「レベルB」もしくは「レベルなし」となります。ChSqはレベル判定がないので、要素実行中に実行された違反要素/動作については、要素のレベル判定を落とすという定めが適用されません。

2024年ヨーロッパ選手権のアダム選手については、ISU規程に則って順当に採点された結果、違反要素/動作の実行による2点減点のみが適用されています。

私見

2023/24シーズンから、アダム選手は事あるごとに演技中、場合によっては演技後にバックフリップを実施しています。違反要素/動作であることを認識した上で、あえてバックフリップを実施しているという点について、批判が少しずつ集まっているような印象があります。この点について、私の考えは、大多数の意見とは少し違うのかな~と思ったので私見を記してみます。

まず、アダム選手のバックフリップについては、マジョリティの意見である「今すぐにやめなさい!!」ではなく、「実施するメリット・デメリット考えたら、やらない方が絶対良いよね??」になります。賛否どちらでもありません。

とくに、彼がバックフリップを実施することに対する怒りもありません。違反要素/動作を実施し、規程に則って減点されている。これらが現行ルールに則って問題なく行われているためです。ただ、自らのスコアも下がりますし、故意で違反要素/動作を実行するということに対する嫌悪感を抱く人がいるもの理解できます。

彼は、以前インタビューにおいて「バックフリップを導入することによって、フィギュアスケートのプログラムにより多様性を~」と言った主旨の発言をしており、彼が競技大会でバックフリップを実行することで、現行ルールの変更への圧力になることは間違いないでしょう。しかし、これらメリットを鑑みても、デメリットの方が大きく割に合わないのでは?と思ってしまうのです。

違反要素/動作だと認識した上で実行しているので、怪我をしたとしても自己責任だと思いますし、リンクへのダメージという点では、主観や自らが見かけた単一・少数事例だけでダメージが大きいと判断するのではなく、ISUが調査していくべき事項だと思います。バックフリップの危険性、リンクへのダメージを吟味して、解禁するのか、より罰則を強化して絶対に競技会で実行しないようにするのかをISUで考えていくべきではないでしょうか。

あとは演技後、リンク外に出るまでに実行されるバックフリップについてですね。フラワーガール/ボーイがリンク内にいるので、演技中よりも危険性が高まります。演技後については、何秒以内にリンクから出なさいといった定めは特にありません。2022年ロシアグランプリシリーズにおいて、観客等からの圧力もあり、最終滑走のカミラ・ワリエワ選手が4回転トーループに挑戦していたこともありましたが、演技後についても何らかの定めが必要になってくるのかもしれませんね。

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この記事を書いた人

ただのフィギュアスケートファン。フィギュアスケート現地観戦し始めて10年前後。現在も日本国内の大会・アイスショーに出没しています。
このブログでは現地観戦の感想、日々感じたことをのんびり書いています。

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