スポーツにおける怪我や病気の美談化の是非

はじめに

スポーツの世界では、時に怪我や体調不良を抱えながらも競技に出場するアスリートが称賛されることがあります。

選手にとっては、日々の厳しい練習を耐え抜いてたどり着いた舞台。多少無理をしてでも競技に出場したいという気持ちは理解できます。また、競技に出場するも、欠場するも、結局のところその結果が返ってくるのは自らになります。そのため、前提として、このような状況下における選手の決断に対して、外野である私たちがとやかく首を突っ込んで「出場すべき」「欠場すべき」と意見すべきではないと考えています。何よりも、選手の決断が尊重されるべきです。

私が今回疑問を投げかけたいのは、怪我や体調不良を抱えながらも競技に出場するアスリートに対してではなく、怪我や体調不良を抱えながらも競技に出場するアスリートを過度に称賛し、美談化する風潮に対してです。

怪我を押しての出場は美談ではない

しばしば見られるのは、駅伝などで、競技中に怪我をして足を引きずりながらも襷を渡すシーン、脱水症状でふらふらになりながらも襷を渡すシーンなどです。これらに対して、解説は感動を煽るようなコメントをして中継を盛り上げようとします。

フィギュアスケートにおいても、怪我や体調不良を抱えながら競技に出場する事例はしばしば見られます。例えば、2014年グランプリシリーズ中国大会では、羽生結弦さんが6分間練習中に別の選手と衝突。ひどい流血が見られましたが、頭部に包帯が巻かれた状態で競技を続行しました。2022年全日本選手権では鍵山優真選手が左足首の怪我が治りきっていない状態で、2023年グランプリファイナルでは三浦佳生選手がショートプログラム後に胃腸炎にかかりながらもフリースケーティングでそれぞれ競技を続行しました。

先に述べたとおり、私はこれら選手の決断に対して異を唱えるつもりは一切ありません。選手がコーチ、連盟関係者、医療関係者らと連携して出場を決断したんですから、外野からとやかく言われる筋合いはないでしょう。

問題視すべきは、怪我や体調不良を抱えながらの出場が「勇気ある行動」として、メディアやファンによって美談化されることでしょう。これは、「怪我をしても、体調不良でも頑張るべき」という誤った価値観を社会に植え付け、選手たちに無理を強いることに繋がりかねません。

陸上日本記録保持者・新谷仁美選手のメッセージ

この点について、ハーフマラソンと10000mの日本記録保持者である新谷仁美選手がX(旧Twitter)で以下のとおりコメントしています。私も彼女のコメントに完全同意です。2023年世界陸上において、ある日本女子選手が疲労骨折を抱えながらも出場したことが明かされました。この新谷選手のコメントはその事実を踏まえてのコメントとなっています。

体調不良や怪我を抱えながらでも走った、と美談にしようとする人いるけど、美談で済まされる問題じゃない。「怪我をしてでも走らないといけない」っと思ってしまう選手が出てくるのでやめていただきたいです。走る、走らないを選ぶのは選手本人だけど、周囲がそれを良しとするのは違うと思います。

走る決断をした選手やサポートしている各チームに対してのコメントではありません。私でも同じ決断をしていると思います。ただそれを美談として伝えることは本来スポーツが伝えるべきものとかけ離れていて、「怪我をしても頑張ったほうが良い」という誤ったメッセージを社会に与えることになると思っています。それは、アスリートを含めスポーツに関わるすべての人がやめるべきです。

新谷仁美選手のXより
https://twitter.com/iam_hitominiiya/status/1695347195606942131?s=20
https://twitter.com/iam_hitominiiya/status/1695713641793015924?s=20
https://twitter.com/iam_hitominiiya/status/1695713720335491189?s=20

美談化することの危険性

怪我や体調不良を抱えながら競技に出場することを美談とすることは、若いアスリートに特に悪影響を及ぼします。彼ら/彼女らは、自分の体を犠牲にしてでも競技に出ることが「正しい」と判断し、結果として長期的な健康問題を引き起こすリスクを高めることになります。

怪我や体調不良を抱えながら競技に出場することを美談とすることは、本来のスポーツのあり方から外れてしまうのではないかという懸念があります。

結論

怪我や体調不良を抱えながらの出場を美談とする現状には、変えていく必要があると思います。

ファンやメディアといった、選手らの外野にいる人間は、過度に美談化するのではなく、選手の決断を尊重して応援するという姿勢が必要なのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

ただのフィギュアスケートファン。フィギュアスケート現地観戦し始めて10年前後。現在も日本国内の大会・アイスショーに出没しています。
このブログでは現地観戦の感想、日々感じたことをのんびり書いています。

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