2024-25シーズンのフィギュアスケート国際競技会の派遣選手選考基準、および選考対象選手の公開がなされたことで、国内外のフィギュアスケートファンの注目は年末の「全日本フィギュア選手権」(以下、全日本)に一気に集まりつつあります。各カテゴリーでの代表争いはすでに佳境を迎えており、選考基準や最近の傾向を踏まえ、ほぼ代表当確と見なされる選手や、全日本での一発勝負に懸ける選手が明確になってきました。
特に、世界選手権や世界ジュニア選手権はオリンピックシーズン以外でも格段の注目度を誇り、ここに出場できるかどうかは選手たちのその後の競技人生を大きく左右します。全日本はこれら大会の最終代表選考会であり、これまでの実績と、全日本でのパフォーマンスを照らし合わせて、最終的な代表が決定されます。ここでは、「2024-25シーズン フィギュアスケート国際競技会 派遣選手選考基準」と「最近の代表選考傾向」を踏まえ、全日本に向けた展望を詳しく分析していきます。
以下では、シニアの世界選手権代表争い、ジュニアの世界ジュニア選手権代表争いの行方を、男子シングル・女子シングルそれぞれに分けて考察します。
世界選手権代表争い展望
男子シングル
2024-25シーズンの男子シングル代表選考において、現段階で「全日本選手権以外の全選考基準」において頭一つ抜け出した形になっているのが、鍵山優真と佐藤駿の2名です。国際大会での実績、獲得得点、世界ランキング。そして何と言っても今季安定して好成績を残してきました。
鍵山優真は、昨シーズンの怪我明けからの復帰後、着実にコンディションを上げてきています。直近世界選手権の銀メダリストでもあり、「全日本選手権以外の全選考基準」においてトップの存在となっています。全日本がどんな結果になったとしても、世界選手権代表は当確といえます。
佐藤駿も同様で、鍵山に次ぐ形で選考ポイントを積み上げてきました。昨シーズンから今季にかけて、4回転ルッツの安定感が凄まじく増しています。4回転ルッツ・フリップをジャンプ構成に組み込む日本屈指のジャンパーです。直近グランプリファイナルでは銅メダルを獲得しており、よほど全日本で外さない限り、彼もまた世界選手権代表入りに極めて近い存在とみてよいでしょう。
では、残る1枠。すなわち3枠目を巡る争いはどうなっているのでしょうか。その有力候補として挙げられるのが三浦佳生と山本草太の2名です。今季に入ってからの成績を見ると、両者は完全に互角の争いとなっています。ここまでの戦績を踏まえると、全日本で上位に食い込んだ方が有利になることは明らかで、鍵山・佐藤が全日本ワンツーだったとして、全日本3位に入れば世界選手権代表が確実視されます。
この2人に対し、やや苦しい状況に立たされているのが友野一希です。友野は2シーズン前の全日本で3位、同世界選手権では6位に入りました。独自の表現力を武器に戦ってきた実績があります。しかし、今季は怪我による出遅れが影響し、選考テーブル上では三浦・山本に一歩及ばない状況です。友野が世界選手権代表入りを果たすためには、全日本で最低でも表彰台(3位以内)ではなく、それ以上のインパクトが求められる可能性があります。
具体的には、「三浦・山本のいずれかが全日本4位」で友野が3位になった場合でも、過去の傾向から「安定した成績を残してきた二人(三浦・山本)の4位の選手を代表に選ぶ」といった選考がなされる可能性があります。そのため友野が確実に代表を引き寄せるには、全日本で「2位」に入るという目標が見えてくるわけです。
その他の選手たちにとっては、ここまでに挙げた5人(鍵山、佐藤、三浦、山本、友野)からやや水をあけられている印象が否めません。島田高志郎、壷井達也、吉岡希が追いかける存在となりますが、世界選手権代表を狙うには、ほぼ「一発内定」の条件である全日本優勝が必要といっても過言ではないでしょう。
女子シングル
女子シングルにおいても、全日本前の状況は男子とよく似ています。全日本選手権以外の全選考基準でトップに立つのは坂本花織と千葉百音の2名。坂本はオリンピックや世界選手権のメダリストとして抜群の安定感と実績を誇り、今季もその勢いは衰えていません。坂本を代表から外すことは考えにくく、彼女は事実上、世界選手権代表確定といえるでしょう。
その坂本をグランプリファイナルで破った実績を持つのが千葉百音です。抜群の安定感を武器に、昨年の全日本以降世界のトップへと駆け上がりました。彼女を外す理由はないといってもよく、坂本・千葉の世界選手権代表は堅いと見てよいでしょう。
問題は3枠目。ここには現時点で樋口新葉がリードしていると考えられています。昨シーズン競技復帰を果たした樋口は今シーズングランプリシリーズ初優勝を果たし、その後の大会でも安定した力のあるところを見せてくれています。全日本優勝を狙うと公言しており、3枠目争いの筆頭として真っ先に名前が挙がるのは間違いなく彼女でしょう。
しかし、女子の場合、男子ほど明確な差がついているわけではありません。女子は今年グランプリファイナルに5人が進出するなど、層の厚さが際立っています。候補として挙がるのは、吉田陽菜、住吉りをん、渡辺倫果、松生理乃。
今季怪我の影響で出遅れている三原舞依は、世界ランキングで選考テーブルに残る可能性を残していますが、世界選手権代表入りには全日本で相当インパクトのある演技が求められるでしょう。
また、追い上げる存在として青木祐奈がいます。NHK杯で3位に入ったものの、現時点では選考テーブルに入っていません。彼女が世界選手権代表の座を掴むには、全日本3位以内、できれば表彰台の中でも上位を確保して、インパクトを与える必要があります。国内には「最強ジュニア勢」や復活を目指す有力選手がひしめいており、そのハードルは男子以上に高いかもしれませんが、彼女がショート・フリー通して完璧な演技を披露したのであれば、その可能性は十分にあります。
いずれにせよ、3枠目を巡る争いはかなり拮抗すると予想され、全日本本番の出来次第で大きく情勢が変わることでしょう。
世界ジュニア選手権代表争い展望
男子シングル
世界ジュニア選手権の男子代表争いは、すでに1枠が内定しています。全日本ジュニア優勝の中田璃士がその代表内定者です。
残る2枠のうち1枠は、高橋星名がほぼ確定的といえます。ジュニアグランプリファイナル進出を果たし、今季の国際大会実績では中田に次ぐ存在として評価されています。高橋も全日本で大崩れしない限り、2枠目は決まりと考えてよいでしょう。
問題は3枠目。ここには、シニアカテゴリーの国内大会に参戦しつつ、国際的にはジュニアを希望する中村俊介や、ポテンシャルが高く大化けの可能性がある西野太翔などが参戦します。3枠目は彼らの中から、全日本で最も良い結果を残した選手が選ばれる可能性が高く、まさに全日本が「3枠目決定戦」の様相を呈します。
女子シングル
女子シングルの世界ジュニア代表は最もわかりやすいかもしれません。全日本ジュニア優勝の島田麻央がすでに内定済み。島田は3シーズンにわたってジュニアカテゴリで負けなしを継続中。ジュニアの絶対女王として君臨しています。
残り2枠には、ジュニアグランプリファイナルでメダルを獲得した2人、和田薫子(銀メダル)と中井亜美(銅メダル)がほぼ確定的な状況です。
ここで逆転を狙うには、全日本で相当のインパクトが必要です。具体的には、和田・中井を上回り、表彰台、あるいはそれ以上の目覚ましい結果を出さなければ「ほぼ確定」状態を覆すのは困難でしょう。
一方、昨シーズン世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得した上薗恋奈は、その一発逆転を成し遂げるだけのポテンシャルを秘めています。彼女が全日本で驚異的な演技を見せ、和田・中井を凌駕するならば、状況は一気に変わる可能性があり、選考委員も頭を悩ませることでしょう。
さらに注目すべきは櫛田育良です。櫛田は、世界ジュニア選手権に出場してシーズンベストを確保しないと、来シーズンのシニアデビューが厳しくなります。つまり、櫛田にとって世界ジュニア代表は、単に今季の締め括りというだけでなく、来季以降のキャリア設計にも直結してくるのです。そのため、彼女は何としても全日本での好成績、さらには代表選出を狙いたいところでしょう。
まとめと展望
シニアでは、男子シングルは鍵山・佐藤の当確ラインが確立し、三浦・山本・友野が最後の1枠を懸けて死闘を繰り広げる構図。
一方で、女子シングルは坂本・千葉が頭一つ抜けた存在で、3枠目を巡る熾烈な競争が予想されます。若手台頭や経験値のある中堅選手、復活を期す実力者が絡み合い、その結果次第では既存の構図を大きく変える可能性を秘めています。
ジュニアでは、男子で中田・高橋が確定的、女子では島田・和田・中井の3強体制が固まりつつあります。しかし、世界ジュニア代表選考においては、全日本を重視する傾向も見られ、一発逆転の可能性も残しています。
全日本は単なる国内大会ではなく、「世界への扉」を開く試合です。世界選手権や世界ジュニアに向けて、選手たちがどのようなパフォーマンスを見せ、選考委員がどのような判断を下すのか。ファンや関係者の注目は、これ以上ないほどに高まっています。どの選手も自身最高の演技ができることを祈っています。