住吉りをん選手 4回転ジャンプ初成功までの軌跡

住吉りをん選手がグランプリシリーズ フランス大会で4回転トーループ(4T)に初成功!

練習開始後、成功まで2年を要しましたが(というより2年は早すぎる…?)、4TのISU国際大会での成功は日本女子史上初、4回転ジャンプの成功は安藤美姫さん以来の約20年ぶりの快挙であり、歴史に名を残しました。

この記事では、彼女の4回転成功までの道のりを振り返っていきます。

目次

2021~22シーズン:初挑戦

全日本選手権

報道情報を見ると、2021年の夏頃から4Tの練習を開始

その後、2021年10月頃には彼女のInstagramに完璧な4Tを成功させた動画がアップされました。

2021年12月に開催予定だったジュニアグランプリファイナルの出場が決まっていたので、ジュニアグランプリファイナルで4T初挑戦を予定していました。しかし、大会自体がコロナによる開催中止となり、初挑戦は2021年12月末の全日本選手権に持ち越しとなりました。

迎えた全日本選手権。ショートプログラム(SP)7位で迎えたフリースケーティングでは、映画「ムーラン」の音楽にのせて演技冒頭に4Tにチャレンジ。軸も奇麗で大きなジャンプでしたが、アンダーローテーション(1/4~1/2回転の回転不足)扱いとなり転倒になりました。

引用元:data0205.pdf (jsfresults.com)
住吉りをん 2021年全日本選手権フリースケーティング

プランタン杯

プランタン杯でも4Tに挑戦しましたが、ダウングレード(1/2回転以上の回転不足)として3回転ジャンプ扱いとなり、転倒になりました。

4回転ジャンプの難しいところは、成功すれば大きな得点源となる一方で、失敗した時のリスクが非常に大きい点です。プランタン杯で挑んだ4Tもダウングレートなので、ジャンプの基礎点は3回転トーループ扱いとなり、GOEでもマイナス。さらに転倒による減点1点となりました。結果として、プランタン杯で跳んだ4Tで得られた点数は1.1点のみです。

引用元:CdP_SENIORLADIES_FS_Scores.pdf (kbkfwedstrijden.be)

世界ジュニア選手権

2022年世界ジュニア選手権の動画は、見逃し配信としてFODに上がっているので是非見てみてください。

世界ジュニアで跳んだ4Tは非常に惜しいジャンプでした。全日本選手権ではアンダーローテーション、プランタン杯ではダウングレードでしたが、世界ジュニアではクォーター(1/4回転回転不足)判定での転倒と一歩前進しました。

ジャンプ離陸時の軸の作り方も非常に良く、離陸時には「これは降りた(=着氷した)」と思ったくらいでしたが、あと少しだけ回転が足りなかった影響で転倒となりました。しかし、4回転の精度としては確実に上がってきており、翌シーズンの成功を期待させました。

引用元:FSKWSINGLES-JUNIOR—-FNL-000100–_JudgesDetailsperSkater.pdf (isuresults.com)

2022~23シーズン:苦戦

新プロ披露スペシャル

2022~23シーズンは、鍵山優真選手と住吉りをん選手の新プログラムが動画で初披露されました。この動画は期間限定公開だったので、今は見ることができませんが、この時の住吉選手は新プログラム”Enchantress”において、4Tと5種7トリプル構成をノーミスで演技しています。

4T自体は若干回転が足りないように見えますが、それでもクォーター判定、もしくはアンダーローテーション判定でおさまるレベルで着氷しています。公式大会でのジャンプではありませんが、2022~23シーズン中の4T成功に十分に期待が持てる演技でした。

東京選手権~グランプリシリーズ

新プログラム披露スペシャルで見せた完璧な演技と4Tから、飛躍のシーズンになるものと思われましたがシーズンは苦戦が続きます。それでもグランプリシリーズ2戦で銅メダルを獲得する等、一定の成績は残しましたが、彼女の持つ圧倒的ポテンシャルの高さを出し切ることができていませんでした。

4Tだけに絞って言及すると、転倒になったものの、グランプリシリーズ フランス大会が初めて回転不足判定が付いていないジャンプとなりました。この大会での4Tは非常に惜しいジャンプであり、高さもあり、回転も完璧に回りきっている。しかし、着氷時にこらえることができなかったジャンプでした。回転不足が取られていないので、この水準のジャンプが跳べていれば減点を含めても3.75点が残ります。ダブルアクセル(2A)を跳んだ場合とほぼ同じ得点です。

東京選手権FS 引用元:data0205.pdf (jsfresults.com)
GPSフランス大会 引用元:FSKWSINGLES———–FNL-000100–_JudgesDetailsperSkater.pdf (isu.org)
GPS NHK杯 引用元:data0205.pdf (isuresults.com)

全日本選手権

全日本選手権でまず言及せねばならないのは、6分間練習で決めた非のつけようがない完璧な4Tでしょう。あの瞬間、会場が大きく沸きました。テレビカメラがこの瞬間をとらえていなかったことは非常に残念でした。

全日本選手権では苦しい演技となりましたが、4Tの大会での着氷は初めてでした。クォーター判定でしたが、このジャンプで7.19点獲得しています。

インカレ~ユニバ~国体

全日本選手権の結果が振るわなかったため、シーズン後半の世界選手権、四大陸選手権をはじめとした国際大会への派遣はなく、全日本選手権前に代表が決まっていたワールドユニバーシティーゲームズと国内大会(インカレ、国体)に出場しました。しかし、そこでも4Tを成功させることはできませんでした。

2022~23シーズンは出場した全大会で4Tに挑戦したものの成功ならず。4Tはもちろんですが、前半の3Lz、後半の3Sが完全に鬼門となってしまい、本人としても悪いイメージがついたまま払拭できない状態に陥っていたように思います。神プログラム”Enchantress”の完成、そして4Tの初成功は翌シーズンに持ち越しとなりました。

インカレ 引用元:data0405.pdf (jsfresults.com)
ワールドユニバーシティーゲームズ 引用元:FSKWSINGLES———–FNL-000100–__C77B_1.0.pdf (microplustimingservices.com)
国体 引用元:data0205.pdf (jsfresults.com)

2023~24シーズン:飛躍

夏の国内4大会~東京選手権

神プログラム”Enchantress”を継続したものの、ジャンプ構成、とくにジャンプを跳ぶ順番をガラリと変えてきました。演技冒頭に自信のある2A+3Tを綺麗に決めて勢いをつけた状態で、2本目のジャンプとして4Tを跳ぶ構成に。その他、鬼門となっていた3Lzと3Sについても、跳ぶ場所を変えています。

4Tを含めて鬼門となっていたパートで跳ぶジャンプはすべて場所を移動し、元々鬼門となっていたジャンプを跳んでいたパートに自らの得意ジャンプをはめ込むことで、悪いイメージを払拭するという戦略と思われます。結果として、この戦略は成功しました。7月にシーズンインし、アクアカップ、木下トロフィー杯、げんさんサマーカップ、東京夏季フィギュアと、国内の主要大会に複数出場。1か月半の間に4戦をこなしましたが、いずれも4Tは惜しいジャンプを跳び続け、そのほかのジャンプも安定感が際立ちました。

ジャンプ構成の変化
  • 4T【鬼門】→2A+3T
  • 3Lo→4T
  • 3F+3T→3Lz
  • 3Lz【鬼門】→3Lo
  • 2A+3T→3F+3T
  • 3F+2T+2Lo→3S+2T+2Lo
  • 3S【鬼門】→3F

特に最後の東京夏季フィギュアでは、4Tを片足で着氷。アンダーローテーション判定ではありましたが、この時点で「今シーズンの住吉りをんは一味違う」「4Tの初成功は時間の問題」と私は確信しました。

夏の国内4大会から東京選手権の5戦すべてで4Tを跳びましたが、実は一度も転倒していません。タイミングが合わず回転が回り切れず着氷が乱れるといった失敗がほとんどであり、昨シーズンからの成長を感じる良いシーズンインでした。

アクアカップ 引用元:data0405.pdf (jsfresults.com)
木下トロフィー data0205.pdf (jsfresults.com)
 げんさんサマーカップ 引用元:data0205.pdf (jsfresults.com)
東京夏季フィギュア 引用元:data0105.pdf (jsfresults.com)
東京選手権 引用元:data0205.pdf (jsfresults.com)

グランプリシリーズ フランス大会

良い流れで迎えたグランプリシリーズ。SP5位で折り返したFSにおいて、演技冒頭に完璧な2A+3Tを着氷した後、4Tの助走に入ると非常に大きなジャンプを跳んで着氷。GOE+1.76がつき、このジャンプだけで11.26点を稼ぎました。これが彼女にとって初の4T成功となりました

初めてジャンプ構成に組み込んだ2021年12月から約2年で初成功となりました。その間も出場した全大会で4Tに挑戦し続け15回連続で失敗し、16回目の挑戦でついに成功!演技中とても良い表情で滑っている姿が印象的でした。”Enchantress”の曲に合わせて、力強く羽ばたこうとする鳥のようにも見える素晴らしい演技でFS1位を獲得しました。

彼女は以前、「『最初の1回が跳べれば楽に跳べるようになるよ』ってみんな言うけど、その1回はいつ来るの」といった趣旨の発言をしていましたが、グランプリシリーズ フランス大会がその「1回」となりました。きっと2回目もすぐに来るはずです。そして、今回のジャンプは彼女にとってのベストジャンプではなかったように感じました。良い時はもっと力が抜けた状態で美しい4Tを跳んでいます。2回目にはきっとさらに質の良い4Tを見せてくれるはず!

4T初成功おめでとうございます!!!そして、これからも応援しています!!!

GPSフランス大会 引用元:FSKWSINGLES———–FNL-000100–_JudgesDetailsperSkater.pdf (isuresults.com)
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この記事を書いた人

ただのフィギュアスケートファン。フィギュアスケート現地観戦し始めて10年前後。現在も日本国内の大会・アイスショーに出没しています。
このブログでは現地観戦の感想、日々感じたことをのんびり書いています。

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