論文概要
概要
- 著者:井上 尊寛、竹内 洋輔
- タイトル:フィギュアスケート観戦者における観戦動機に関する研究
- 雑誌等:法政大学スポーツ健康学研究,4巻,11-17頁。
- 発行年:2013年
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どのように調査しているのか?
2012年全日本ジュニア選手権の観戦者が分析対象。
アンケート調査を実施し、302票の有効票を回収。
ちなみに、2012年全日本ジュニア選手権は、男子が日野龍樹さん、女子が宮原知子さん、アイスダンスが杉木・野口ペアが優勝した大会になります。
まだ現役を続けている人の名前もちらほらあり、男子だと宇野昌磨さん(2位)、山本草太さん(4位)、友野一希さん(10位)、女子だと大庭雅さん(6位)、樋口新葉さん(7位)、三原舞依さん(8位)、坂本花織さん(9位)がまだ現役ですね。完全に余談ですが、このころから10年以上経っていてこれだけの人数が第一線で現役を続けているのはすごいことです。
明らかになったこと
誰がフィギュアスケートを見に来ているのか?
- 観戦者の性別は女性が圧倒的に多い(女性が73.2%)
- 観戦者の年齢として最も多いのが40代(41.3%)
- 一人で来ている人(38.0%)が最も多く、次に友人と来ている人(34.7%)、家族と来ている人(33.0%)がいるが、差は大きく開いていない。
- 応援している選手がいる人が圧倒的に多い(80.1%)。
- 平均の応援歴は約8年
つまり、全日本ジュニア選手権のフィギュアスケート観戦者層として最も多い層は40代女性であり一人でフィギュアスケート観戦に来ているということになります。
40代女性という点については、先日紹介したNHK杯の観戦者とほぼ同じですね。
一方で、NHK杯では友人と来ている人が最も多かったですが、全日本ジュニアでは一人で来ている人が最も多かったようです。この辺りは、全日本ジュニアという大会の性質にもよりそうですね。NHK杯だとあまりフィギュアスケート見ない友人を誘って観戦に行けても、全日本ジュニアだとちょっと誘いにくいから一人で行っちゃいますよね。
観戦動機は何か?
以下5つの項目に該当する質問をアンケートとして行っています。
- Socialization:スポーツイベントを対人関係という側面から関連づけている因子
質問)フィギュアスケート観戦は、他の観戦者との交流の機会である等
- Performance:スポーツイベントが提供する卓越性や美しさ創造性などに個人的にどの程度価値を置いているかを示す因子
質問)美しくて華麗な演技を観たい、ありのままの美しさを見たい等
- Excitement:スポーツイベントを消費経験によって刺激を提供するものであると知覚している範囲を示した因子
質問)競技でのワクワク感・ドキドキ感を楽しんでいる等
- Esteem:スポーツイベントへの参加を代理達成の機会であると知覚している範囲を反映している因子
質問)応援する選手が勝った時、自らの勝利のように感じる等
- Diversion:スポーツイベントへの参加を日常生活や毎日の繰り返しから逃れる機会を提供してくれると認識している範囲を示した因子
質問)フィギュアスケート観戦はストレス解消、日々の息抜きになる等
調査結果は以下のとおりです。
- Excitementが最も高く、次にPerformanceが続く
- Socializationの項目はスコアが最も低い
つまり、フィギュアスケートの観戦動機は、競技会のワクワク感・ドキドキ感を楽しみたい(Excitement)、美しい演技を観たい(Performance)と思っている場合が多い。
一方で、他のフィギュアスケート観戦者と知り合ったり、交流したり(Socialization)という点は、観戦動機として比較的低い。
そして、この調査結果については、男女の性差による有意差は見られなかった。つまり、フィギュアスケートを観戦する動機は、男女で差が見られないということ。
論文を考察してみる
納得感のある調査結果
個人的にすごく納得感のある結果が出たなと思いました。
私自身、フィギュアスケート現地観戦の理由として最も大きいのは、会場で、現地でワクワク感・ドキドキ感を楽しみたい!という気持ちなんですね。この気持ちは、ここでの論文で言うところの”Excitement”に該当します。
次に、現地観戦の理由として大きいのは、現地で素晴らしい演技を観たい!という気持ちです。この気持ちは、ここでの論文で言うところの”Performance”に該当します。最も観戦動機として大きいのが”Excitement”、次に”Performance”ということで、今回の論文での調査結果と同様です。
残る3項目はフィギュアスケート現地観戦の主たる目的ではないな~という気がします。フィギュアスケート観戦は気分転換や息抜き(=”Diversion”)にはなりますが、それだけの理由であれだけのお金、時間はかけないです。また、応援している選手が勝ってくれる(=”Esteem”)と嬉しいですが、それは観戦動機にはならない。現地観戦時に知り合いのスケオタと話す(=”Socialization”)のは楽しいですが、これは別に現地観戦じゃなくてもオフ会でできます。
そう考えると、私自身の気持ちとしても今回の調査結果と完全に一致しています。
興味深い調査結果
ここで興味深いのは、調査結果に男女の性差は見られなかったということです。
フィギュアスケートは圧倒的に女性が現地観戦している場合が多いですが、現地観戦する人の動機は男女同じという点ですね。
と考えると、フィギュアスケートの魅力を伝えてファンを増やすという観点から考えると、方法は男女ともに同じで”Excitement”、”Performance”と言った側面をより重視して宣伝していくということが考えられます。あとはその方法を考える必要があるということですね。
一方で、従来フィギュアスケートに関心を示さなかった層を取り込むという観点から考えると、従来のファンが観戦動機として重要視している項目と、フィギュアスケートに関心を示さなかった層が重要視する可能性がある項目とが一致するとは限らないので、その辺りの分析も必要でしょうね。
うっさいわ!!!と思った記述
最後は完全に余談ですが、この論文の最後の方で以下の記載がありました。
今回のジュニアというカテゴリーは、将来有望な選手を集めて行うものであるため、注目度は高いものの、通常のシニアのイベントよりもコアなファンの構成比が高くなっている可能性が高い。
その通りだけどうっさいわ!!!コアなファンで悪かったな!!!と笑いながら見ていました。
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