2023年全日本ジュニア選手権と推薦枠

2023年全日本ジュニア選手権が終了しました。全カテゴリにおいて非常にレベルが高く、息をのむような演技が披露されました。しかし、この大会の裏で、全日本選手権への推薦枠に関する議論が沸騰しています。

目次

全日本選手権推薦枠の取り扱い

これまでの経緯

2021年全日本ジュニア選手権まではジュニアからの推薦枠は6枠でしたが、2022年から8枠に増枠しています。これは、シニア年齢引き上げに伴う取り扱いと考えれば妥当な対応でしょう。

この推薦枠は、これまでノービス選手、全日本選手権シード選手については除外した上で、上位から推薦枠が充てられていました。ノービス選手はシニアの全日本選手権に出場資格がなく、全日本選手権シード選手は推薦されなくてもすでに全日本選手権出場が確定しているためです。

例えば、樋口新葉選手はジュニア選手ながら2014年全日本選手権2位になっており、2015年全日本選手権ではシード選手となっていました。そのため、当時の推薦枠6枠は樋口選手を除外した2015年全日本ジュニア選手権上位6人(=7位の選手まで)に充てられました。

また、ノービス選手については、2014年全日本ジュニア選手権において、4位本田真凜選手、5位青木祐奈選手とノービス選手2名が上位に入りました。そのため、当時の推薦枠6枠は両選手を除外した全日本ジュニア選手権上位6人(=8位の選手まで)に充てられました。最近だと、2021年全日本ジュニア選手権において、当時ノービスの島田麻央選手が優勝(!)しましたが、このケースでも彼女を除外した全日本ジュニア選手権上位6人(=7位の選手まで)に当時の推薦枠6枠が充てられました。

まとめると、全日本選手権へのジュニアの推薦枠はこれまで以下のとおり運用されていました。

  • ジュニアからの推薦枠は6枠(~2021)、8枠(2022~現在に至る)
  • 全日本ジュニア選手権の上位から推薦。推薦枠すべて使い切る。
  • ノービス選手、全日本選手権のシード選手等、全日本選手権に出場資格がない者、すでに全日本選手権出場資格を有している者は除外して推薦枠はすべて使い切る

しかし、今年は女子シングルで2枠が余るという事態が発生しました。正確に言うと、全日本選手権のシード選手である島田 麻央選手を含めた7人を推薦しています。しかし、島田選手は推薦されなくてもすでに全日本選手権の出場が確定しています。

これにより、全日本選手権の女子シングルは最大30人の枠が28人で埋まることになり、多くの議論を呼んでいます。

何が変わったのか?

日本スケート連盟資料

日本スケート連盟が作成している全日本選手権の枠分配資料を見てみましょう。全日本選手権のシニア男女の推薦が、ジュニアからの推薦枠になります。推薦人数は「若干名」であり、出場枠合計が「最大30」となっています。

また、表下の計算方法に全日本男女の箇所に「推薦8」の記載があります。これらを考えると、スケート連盟としては、推薦枠は最大で8枠、結果として全日本選手権の出場者は最大で30人となる。なお、推薦枠はあくまでも「若干名」であり、「8枠」使い切ることを前提としたものではないということでしょうか…。

ちなみに、この記載は昨シーズンも全く同じとなっています。

仮説と検証

今回の結果を踏まえ、仮説を2つ立てて検証しました。

仮説
  1. 推薦枠7~8番目の選手が推薦を辞退した
  2. シード選手やノービス年齢の選手を考慮せず、順位が8位までの選手を選出した
検証
  1. 8番目(全日本ジュニア10位)の中井選手は怪我を抱えており、辞退する可能性あり。ただし、7番目(同9位)の岡選手は辞退する理由が見当たらない。この仮説は否定される。
  2. 男女ともに順位8位までの選手が推薦となっている。この仮説が現状最も妥当な解釈と思われる。

つまり、以下のような運用に変わったものと推測できます。

  • ジュニアからの推薦枠は6枠(~2021)、8枠(2022~現在に至る)
  • 全日本ジュニア選手権の上位8位までの選手を推薦推薦枠すべて使い切る。
  • ノービス選手、全日本選手権のシード選手等、全日本選手権に出場資格がない者、すでに全日本選手権出場資格を有している者は除外して推薦枠はすべて使い切る。

問題点の指摘

何が問題なのか?

しかし、この運用には問題点があります。一つは、全日本選手権のシード選手であるジュニア年齢の選手が全日本ジュニア選手権に出場し、8位以内に入ることで、全日本選手権の出場者数を減らしてしまうことです。もう一つは、ノービスからの推薦選手が8位以内に入ることで、同様の問題が生じることです。

結果として、これら選手からすれば、自らが全日本ジュニア選手権に出場しない方が、もしくは出場したとしてもミスをして上位進出しない方が周囲の選手が利するという奇妙な状態に陥ってしまいます。全日本選手権のシード選手は全日本ジュニア選手権に出るな、ノービス選手は全日本ジュニア選手権の上位に行くなというメッセージなのでしょうか…?

全日本ジュニア選手権でのキスアンドクライにおける選手たちの表情は、多くを物語っています。8枠という最大枠については多くの選手が理解しているように見えました。一方で、自らの演技終了時点で最終順位9位以下の可能性がある選手の中には、シード選手やノービス選手を除外すれば8位以内に入れると考え、安堵の表情を浮かべる者もいれば、逆に険しい表情を浮かべる者もいました。これは、選手たちが推薦枠の運用について完全に理解していないということを示唆しているのではないでしょうか。

選手への説明の重要性

ファンへの説明は、正直どうでもよいと言えるかもしれません。我々はあくまで外部の観戦者であり、応援する側の人間です。しかし、選手たちへの説明は非常に重要です。推薦を受けて全日本選手権に出場できるかどうかは、選手にとってのキャリアと将来に直結する重要事項であり、選手に十分に説明する必要があります。

昨年の全日本選手権後、世界選手権の代表選考で大きな議論がありました。その根底には、選手と連盟の間の対話不足があったと考えられます。この経験から学び、良いコミュニケーションが取られることを期待しています。重要なのは、選手たちに対する明確な説明と、選手の努力が適切に評価される環境を整えることではないでしょうか。

結論

全日本選手権への推薦枠の運用変更と問題点を中心に考察しました。

今回の推薦枠の運用変更は、私の仮説が正しいのであればあまり望ましいものではないと思います。選手に対して十分な説明ができていることだけを願っています。

そして、可能であれば、推薦枠の運用をもとの基準に戻してほしいと思います。シニア年齢が引き上げられた今、ジュニアの選手がシニアの全日本選手権に推薦出場するハードルは上がっています。ジュニアの頃から世界トップレベルの戦いが行われるシニアの全日本選手権に出場することで、非常に勉強になりますし、選手の将来にもつながります。

また、多くのファンがコメントしていますが、ジュニアの推薦枠を2022年から2枠増やしたため、シニア出場枠が2枠減少しています。シニアでギリギリで全日本選手権に進めなかった選手のためにも、ぜひ、来年には運用を改善させてほしいところです。

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この記事を書いた人

ただのフィギュアスケートファン。フィギュアスケート現地観戦し始めて10年前後。現在も日本国内の大会・アイスショーに出没しています。
このブログでは現地観戦の感想、日々感じたことをのんびり書いています。

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