スポーツ選手の不祥事への対応と処分:温情と厳罰のバランスを考える

ここ最近はフィギュアスケートのみならず、スポーツ界全体で不祥事に関するニュースをよく目にします。

体操の宮田笙子選手が飲酒/喫煙によりパリ五輪代表を辞退したことは、体操界のみならず、スポーツ界に大きな衝撃を与えました。そして、五輪代表辞退は厳しすぎるのではないのかと意見、妥当でないかという意見、賛否が飛び交っています。改めて、スポーツ選手の不祥事への処分/対応について考えてみましょう。

目次

宮田笙子選手の不祥事と対応

不祥事と対応

宮田笙子選手は、19歳でありながら飲酒および喫煙を行ったことが発覚し、パリ五輪出場を辞退しました。しかも、飲酒が行われたのは、日本代表クラスの選手がトレーニングを行う味の素ナショナルトレーニングセンターです。日本体操協会はこの問題に対し、彼女の五輪代表権を剥奪するのではなく、宮田選手自身の辞退という形で対処しました。

成年が20歳から18歳に引き下げられたものの、飲酒/喫煙は20歳からと法律において定められています。また、日本体操協会が定める「日本代表選手・役員の行動規範」において、日本代表チームとしての活動の場所においては、20歳以上であっても飲酒/喫煙は禁止とされています。今回の宮田選手の行為は法律違反であるのと同時に、「日本代表選手・役員の行動規範」違反でした。

8、日本代表チームとしての活動の場所においては、20 歳以上であっても原則的に喫煙は禁止する
※2016 年度から数年かけて段階的に全面禁止とする
9、日本代表チームとしての活動の場所においては、20 歳以上であっても飲酒は禁止とする
ただし、合宿の打ち上げ、大会のフェアウェルパーティー等の場合は監督の許可を得て可能とする

公益財団法人日本体操協会「日本代表選手・役員の行動規範」

対応への賛否

賛成の声

宮田選手が19歳で飲酒および喫煙を行ったことは法律違反かつ「日本代表選手・役員の行動規範」に違反しており、五輪代表辞退はやむを得ないとする声があります。事前に定められているルールを破ったのだから、日本代表として出場する権利が消失するのも妥当だろうという意見です。

    反対の声

    一方で、宮田選手がまだ19歳の若者であることから、処分が厳しすぎるという声もあります。若者が過ちを犯すことは少なくないことから、彼女には十分な反省の機会を与えた上で五輪出場が認められるべきではないかという意見です。オリンピック出場という機会を失することは彼女の将来に深刻な影響を及ぼす可能性があり、より寛容な対応が求められるべきだと述べています。

      スポーツ選手の不祥事に対する対応

      厳罰主義の利点と欠点

      多くのスポーツ団体は、選手の不祥事に対して厳しい処分を行います。これにより、組織の倫理基準を維持し、他の選手への警告とすることができます。しかし、厳罰主義は選手の再起を阻む可能性もあり、彼らの将来に対する影響を慎重に考慮する必要があります。

      再起を支援する温情的な対応

      一方で、選手の再起を支援する温情的な対応も存在します。これは、選手が犯した過ちを認識し、更生の機会を与えることで、彼らの未来を支援するアプローチです。この方法は、選手自身の成長とともに、他の若手選手たちにも重要な教訓を提供することができます。

      宮田笙子選手のケーススタディ

      辞退という形の処分

      宮田選手の場合、日本体操協会と彼女の話し合いの結果、彼女の選択としての五輪代表辞退となりました。

      この処分は、法律違反かつ「日本代表選手・役員の行動規範」への違反による五輪代表権剝奪でもなく、十分に反省の機会を設けた上での五輪出場を認めるのでもない、第3の選択肢だと言えるでしょう。会社で言うところの懲戒解雇ではなく、諭旨退職になったと表現した方がわかりやすいかもしれません。

      日本体操協会による五輪代表権剥奪にならなかった点に、ある種の温情的な対応が感じられます。彼女のこれまでの功績や努力、オリンピックへの重圧から逃れるための飲酒/喫煙という点を考慮した結果と言えるのではないでしょうか。辞退により、宮田選手は名誉を保ちながらも、自身の過ちを反省し、更生する機会を得たと言えるでしょう​。

      2022年北京オリンピックにおいて、ロシアのカミラ・ワリエワ選手が大会期間前のドーピング陽性が発覚し、大きくスキャンダルを巻き起こしました。当時は、スポーツ仲裁裁判所(CAS)の裁定によって、暫定的に五輪出場が認められましたが、必要以上にワリエワ選手にバッシングが集中することになりました。宮田選手がオリンピックに出場した場合、ワリエワ選手ほどではないものの、何らかの否定的な意見が集まる可能性もありました。オリンピックは普段以上に注目が集まるため、これ以上宮田選手に批判が集まることは回避できたとも言えます。

      更生と復帰への支援

      宮田選手自身の意思による五輪代表辞退になったため、日本体操協会からの処分自体は下されていません。「辞退撤回運動」などど主張してこの問題を取り上げる人もいますが、今必要なのは彼女の更生を促すプログラムの提供と競技会への復帰の支援です。

      宮田選手はあと数か月で20歳なので、飲酒/喫煙は可能になります。しかし、問題は飲酒/喫煙そのものではなく、なぜ法律違反が、「日本代表選手・役員の行動規範」違反が許されないことなのかを改めて理解するということです。こうしたプログラムの設定、そして必要以上に好奇の目で見られることのないような形で競技会に復帰できるような環境づくりが必要だと言えるでしょう。

      また、彼女が今回のような行為に及んだ背景を十分に調査した上で、体操界だけでなくスポーツ界全体として構造的な問題がないのか改めて考え直すことが必要ではないでしょうか。体操界で起こっている対岸の火事ではなく、他のスポーツ協会でも自分事として考えるべき問題だと思われます。

      フィギュアスケートにおける不祥事への対応

      韓国女子選手の飲酒とセクハラ

      フィギュアスケート界においても、近年不祥事とその対応がしばしば発生しています。

      ここ最近で最も大きい不祥事は、韓国代表チーム2名の代表合宿中の飲酒およびセクシャルハラスメントです。この不祥事が、今回の宮田選手の不祥事に最も近いかもしれません。

      本件では、2026年ミラノオリンピックに向けた韓国代表合宿において、禁止されていた飲酒を2名の女子選手が行い、そのうち1名の女子選手が男子選手に対してセクシャルハラスメントを行ったという事件です。飲酒とセクシャルハラスメントを行った女子選手を選手資格停止3年、飲酒を行った選手を同1年という処分を決定しています。処分を受けた選手2名が異議申し立てを行っているため処分は最終確定していないものの、今回の宮田選手の処分と比較してかなり重い処分だと言えます。

      カミラ・ワリエワ選手のドーピング陽性

      ロシアのカミラ・ワリエワ選手は、2022年北京オリンピックの開催期間中に2か月前の大会でのドーピング陽性が発覚しました。種々の理由により、北京オリンピックへの暫定的な参加が認められたものの、北京オリンピックから2年後の2024年1月に選手資格停止処分4年が確定し、北京オリンピックの成績も取り消しが決定しました。

      北京オリンピック期間中、彼女は暫定的に競技会への参加が認められたにもかかわらず、彼女の競技会出場について多くの批判的な意見が寄せられました。そのような状況下で観衆の前に出て演技を行い、最終的には競技成績も失効。不祥事が発生し、競技会への参加が認められたとしても選手が幸せになれるかどうかはわからないということを示した事件となりました。

      織田信成選手の復帰届未提出

      織田信成選手は2013年全日本選手権を最後に現役選手を引退。2023年に競技会に現役復帰しましたが、その際に選手復帰届提出されていなかったことにより、アンチドーピング規則違反となりました。そのため、2023年1月に出場した国民体育大会の競技成績が失効、2023年12月の全日本選手権も出場資格なしという扱いになりました。

      本事件は、日本スケート連盟にも不手際があったことから、織田選手だけに批判が集まることはありませんでしたが、心ない言葉を発する人もいました。

      不祥事への対応

      ワリエワ選手、織田選手については、アンチドーピング規則違反のため、規則で定められている処分に基づいて処分が下されました。一方、韓国の女子選手2選手については、規則内の明確な処分内容が定められているわけではないため、行為内容によって選手資格停止を決定したということになります。

      いずれもケースも処分を行っているということ、韓国の女子選手2選手については選手資格停止が年単位に及ぶことを考えると、今回の宮田選手の処分は決して重すぎるとは言えず、むしろある程度温情がある対応だったと言えるかもしれません。

      まとめ

      宮田笙子選手の五輪辞退は、スポーツ選手の不祥事への対応において、温情と厳罰のバランスを考慮した重要な事例だと言えるでしょう。選手の更生と再起を支援することは、スポーツ界全体の健全な発展に繋がります。宮田選手の今後の活躍に期待しつつ、今回の事件を対岸の火事とするのではなく、スポーツ界全体でなぜこのような問題が発生したのかを再確認する機会とすべきです。

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      この記事を書いた人

      ただのフィギュアスケートファン。フィギュアスケート現地観戦し始めて10年前後。現在も日本国内の大会・アイスショーに出没しています。
      このブログでは現地観戦の感想、日々感じたことをのんびり書いています。

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