織田信成選手の全日本選手権出場資格なしについて

全日本選手権の予選を兼ねた西日本選手権が2023年10月末に開催されました。西日本選手権男子シングルで大逆転優勝を果たした織田信成選手が、全日本選手権出場資格がないという報道がされています。

今回の鍵となった現役復帰時の手続きについて、どのような手続きが求められるのかをまとめ、私見を記しました。

目次

現役復帰時の手続き

日本アンチ・ドーピング規程や日本アンチ・ドーピング機構(以下、JADA)のホームページの記載をもとに、引退した競技者の競技会への復帰に関する手続きを見ていきましょう。

登録検査対象者リスト登録者の引退・復帰

登録検査対象者リストに登録中の競技者が競技から引退する際、そして競技への復帰する際の手続きは以下の通り定められています。

競技から引退する際の手続き
  • 「引退届」を、(おそらく自身が登録していた国内競技団体経由(今回のケースでは、日本スケート連盟)でJADAに提出する。
  • 「引退届」が受理され、「除外通知」を受け取った時点で登録検査対象者リストから除外となる。
競技に復帰する際の手続き
  • 復帰する6か月前までに「復帰届」を作成し、自身が登録していた国内競技団体を経由してJADAに提出する。
  • 「復帰届」受理後、復帰する競技者に対して、JADAから直接「復帰届」受領連絡および復帰が可能となる日付が通知される。
  • 再び登録検査対象者リストの登録者になる場合は、別途通知される。

そして、登録検査対象者リスト登録中に現役引退した選手は、復帰6か月前までに「復帰届」を提出して、競技会外検査(=いわゆる抜き打ち検査)を受けられるようになるまでは国際・国内競技大会に出場できません

この取り扱いは、現役引退期間中はドーピング検査を実施していないため、その期間中にドーピングを行った状態で現役復帰している可能性が0ではない。そのため、登録検査対象者リスト登録者の現役復帰時には検査を行いクリーンであることを確認した上で競技会に復帰するという流れを取っているものと思われます。

また、復帰届が国内競技団体を経由してJADAに書類提出という扱いになっていることから、様式が公開されていない引退届についても同様の取り扱いになっているものと思われます。復帰届については、復帰する選手の記入欄のみではなく、国内競技団体の記入欄もあります。

今回のケースでは織田くんの書類提出漏れ…という点が大きくクローズアップされていますが、一方で日本スケート連盟も「申し訳ない」というコメントを出しているのは、復帰届の提出は必ず日本スケート連盟を経由して行われるため、JADAへの復帰届未提出について気が付ける立場にあったためです。

JADAの登録検査対象者リストに含まれる国際レベルの競技者又は国内レベルの競技者が引退し、その後競技へ現役復帰しようとする場合には、当該競技者は、その国際競技連盟及びJADAに対し、6ヶ月前に事前の書面による通知をし、検査を受けられるようにするまで、国際競技大会又は国内競技大会において競技してはならないものとする。

日本アンチ・ドーピング規程 5.6.1

「復帰届」の「アスリート記入欄」に必要事項を全て入力し、自身が登録していた、国内競技団体(例:日本●●連盟)に直接、送付してください。

アスリートが所属していた国内競技団体は、アスリートから「復帰届」を受け取った場合、「競技団体記入欄」に必要事項を入力し、JADAへメールで提出してください。

JADAは「復帰届」をあなたが所属していた国内競技団体から受け取った後、必要事項が記載されているかを確認したうえで、「復帰届」の受領について、あなたに直接連絡します。

復帰届

登録検査対象者リストとは何か

ここで言及されている「登録検査対象者リスト」とは何か?ですが、具体的に誰が対象者となっているのかは公開されていないようです。JADAが登録検査対象者リストに含めるための基準を設定しており、当該基準を満たした競技者が登録検査対象者リストに含まれる競技者となります。そして、登録検査対象者リストに含まれる競技者はドーピング検査の最優先の競技者となります。

今回のケースでは、織田くんは2013年の現役引退前、オリンピック・世界選手権等にも出場していた「国際レベルの競技者」であったことから、「登録検査対象者リスト」の登録者になっていたと推測できます。

ドーピング検査は競技会での実施のほか、いわゆる抜き打ち検査も実施されています。登録検査対象者リストの対象競技者は自らの居場所情報を報告する義務があり、競技会以外でも定期的に抜き打ち検査が実施されています。

「登録検査対象者リスト」とは、国際競技連盟又は国内アンチ・ドーピング機関の検査配分計画の一環として、重点的な競技会(時)検査及び競技会外の検査の対象となり、またそのため第 5.5項及び「検査及びドーピング調査に関する国際基準」に従い居場所情報を提出することを義務付けられる、国際競技連盟が国際レベルの競技者として、また国内アンチ・ドーピング機関が国内レベルの競技者として各々定めた、最優先の競技者群のリストをいう。日本において、登録検査対象者リストは本規程第 5.5 項に定めるとおり定義されている。

日本アンチ・ドーピング規程 付属文書 1 定義

「検査及びドーピング調査に関する国際基準」に従い、登録検査対象者リストにおける各競技者は、(a) 四半期毎に自己の居場所についてJADA に連絡し、(b) 当該情報が常時正確かつ完全であり続けるよう当該情報を必要に応じ更新し、かつ、(c) 当該居場所において自己が検査を受けられるようにするものとする。

日本アンチ・ドーピング規程 5.5.4

競技大会の定義

次に、競技大会の定義について確認します。復帰届において、以下のとおり国際競技大会と国内競技大会が定義されています。

  • 国際競技大会

国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会、国際競技連盟、主要競技大会機関又はその他の国際的スポーツ団体が当該競技大会の所轄組織であるか、又は当該競技大会に関してテクニカルオフィシャルを指名している競技大会又は競技会をいいます。

  • 国内競技大会

国際レベルの競技者又は国内レベルの競技者が参加する競技大会又は競技会のうち国際競技大会に該当しないものをいいます。

「国内最高レベルの競技大会」にJADAより指定されている場合は、「国内競技大会」に該当します。

国内競技大会の定義がかなりざっくりしている印象です。この定義なら近畿選手権、西日本選手権ともに国内競技大会になるのでは?と思いましたが、織田くんは両大会には出場資格があり、問題なく出場できたということなので、国内競技大会=国内最高レベルの競技大会としているものと推測できます。国内最高レベルの競技大会に該当するフィギュアスケートの大会については、2023年度は以下の通り指定されています。

  • 第92回全日本フィギュアスケート選手権大会
  • 第78回国民スポーツ大会 ≪冬季大会≫

今シーズンの全日本選手権については、織田くんは6か月前に復帰届を提出できていないので出場ができない。ただし、2023年7月に復帰届を提出したとのことなので、2024年1月末の国体にはギリギリ間に合い出場が可能です。その他の競技会で国内競技大会と指定されていない競技会について、6か月経過前でも出場可能ということでしょうか。

ちなみに、2023年1月の国体は復帰届未提出でそもそも出場資格がない状態であったため、競技成績が失効する可能性が高いです。鍵となるのは、国体がJADAが定める「国内競技大会」だと知ることができなかった合理的な理由を示すことができるかどうかという点ですが、そもそも復帰届提出が漏れていたという状況なので難しいのではないかと思います。

「国際競技大会」とは、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会、国際競技連盟、主要競技大会機関又はその他の国際的スポーツ団体が当該競技大会の所轄組織であるか、又は当該競技大会に関してテクニカルオフィシャルを指名している競技大会又は競技会をいいます。

「国内競技大会」とは、国際レベルの競技者又は国内レベルの競技者が参加する競技大会又は競技会のうち国際競技大会に該当しないものをいいます。

(注意)オープンエントリーで参加が可能な競技大会であっても、国内競技大会である場合は、「競技への復帰」に該当します。
「国内最高レベルの競技大会」にJADAより指定されている場合は、「国内競技大会」に該当します。

復帰届

本第 5.6.1 項(=復帰6か月前までに復帰届提出が求められている:引用者注)に違反して得られた競技結果は失効するものとする。但し、競技者が、これが国際競技大会又は国内競技大会であることを自己が合理的に知ることができなかったことを立証することができた場合には、この限りでない。

日本アンチ・ドーピング規程 5.6.1

個人的な見解

今回はすごく不幸なケースだったなという印象です。

現在の引退届の様式は公開されていませんが、過去の様式は検索するとヒットして出てきました。確認すると、引退届内にも競技会への復帰手続きとして復帰6か月前に書面でJADAに通知することと明記されています。また、JADAのホームページ内には、競技会への復帰について明確に手続きの流れが示されています。JADAからすれば、「ちゃんと説明しましたよね!?」と考えるのも無理ないと思います。

日本スケート連盟についても、連盟経由で復帰届を提出するため復帰届未提出について気が付けた立場にありました。一方で、当然ながら現役復帰選手は強化選手ではないので、そこまでのサポートすべきか、できるのかという点は意見が割れるのではないかと思います。個人的には、今回起きてしまったことは日本スケート連盟に責任はないが、再び今回のようなことを起こさないためにも、登録検査対象者リスト登録選手の現役引退そして復帰に関する手続きのマニュアルを作成して共有しておくことは必要ではないかと思いました。

織田くん本人については、選手本人に責任があるということが大前提であるものの、手続きが漏れてしまうのも仕方ないような印象があります。関係機関に都度確認を行っていたようですし、また、2013年の競技引退時に復帰の流れについて説明は受けていたと思いますが、10年近く経過していますし、何よりも将来の現役復帰を見越して引退する人なんていませんよね。そう考えると、最終的な責任の所在は選手だけど、責められるようなものではないと思います。何より、この影響を受けるのも選手ですしね。

余談ですが、近畿選手権から西日本選手権の通過枠を1つ潰したのではという指摘があります。ただ、近畿選手権と西日本選手権には出場資格があったようですし、近畿選手権から西日本選手権に進出したという取り扱いは全く問題ないと思います。西日本選手権は全日本選手権の予選会である以前に、西日本地域のトップを決める大会ですし。

織田くんが全日本選手権出場資格がないことを考慮に入れて、近畿から1人多めに西日本選手権進出という配慮をするという判断を取ることも可能だったでしょうが、このような対応が必須だったとは思いません。どちらの対応を取っていたとしても納得感があります。

【2023年10月30日更新】

指摘されて思い出したんですが、近畿→西日本への進出枠が近畿選手権出場者数を上回っている状態なので、全員西日本選手権に進出していますね。考えれば考えるほど、理不尽な批判でおこちです。

今回のケースは、JADAにも、日本スケート連盟にも、選手本人にも、こうなってしまうのもやむを得ないよね…という部分があるかなり不幸なケースだったと思います。誰も悪くない。

織田くんを今年の全日本で見れないのはとても残念ですが、関係者のチェック体制をさらに整えてほしいと思います。

そして、織田くんは来年2024年の全日本選手権に出るまで許しません!!!!!

応援しています!待っています!

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この記事を書いた人

ただのフィギュアスケートファン。フィギュアスケート現地観戦し始めて10年前後。現在も日本国内の大会・アイスショーに出没しています。
このブログでは現地観戦の感想、日々感じたことをのんびり書いています。

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