2023年8月28日に、2023年全日本選手権の枠が発表されました。昨年大会の3位以内の選手に与えられるシード枠3枠、東日本・西日本選手権からの予選通過枠が19枠、そしてジュニアからの推薦出場枠が8枠です。このジュニアからの推薦出場枠について、昨年から6枠から8枠と増加していることもあり、多すぎないか?と意見が上がっています。
この記事では、全日本選手権におけるジュニア推薦枠は本当に多いのか?という観点から、現行制度を検討・考察し、全日本選手権におけるジュニア推薦枠が多いのではなく、全日本ジュニア選手権が軽視されている制度となっていることを示します。
2023年全日本選手権の枠
2023年8月28日に、2023年全日本選手権の枠が発表されました。詳細については以下記事でまとめているので、そちらを参照いただければと思いますが、概要を説明すると男女シングルでは合計30枠であり、以下の内訳となっています。
- 前回大会3位以内のシード選手:3枠
- 東日本・西日本選手権からの予選通過枠:19枠
- ジュニアからの推薦出場枠:8枠
今回スケートファンの間で論争になっているのは、ジュニアからの推薦出場枠8枠についてです。昨シーズンから6枠→8枠に増枠したこともあってか、ジュニアからの推薦出場枠が多すぎるのではないかと論争になっています。
この論争について、私はジュニアからの推薦出場枠が多すぎるというよりは、根本的な問題が他にあるのではないかと思っています。ジュニアからの推薦出場枠ではなく、何が問題なのかを以下では論じていきたいと思います。
★2023年全日本選手権の枠については、詳細を以下の記事でまとめています👇
全日本ジュニア選手権の軽視
私は根本的な問題は、全日本ジュニア選手権の軽視だと考えています。具体的には以下2点です。
- ジュニアの世界選手権の最終代表選考会が、シニアの全日本選手権となっている。
- 世界ジュニア選手権代表選考における全日本選手権の比重があまりに高い。
これらを深掘りして見ていきましょう。
シニアの大会で行うジュニアの大会の代表選考
フィギュアスケートではジュニアとシニアでルールがやや異なっており、プログラムの構成要素も異なっています。
例えば、ショートプログラムでは、シーズンごとにスピン・単独ジャンプの指定があります。今シーズンは、単独ジャンプとしてルッツが指定されているので、必ずショートプログラムに単独のルッツジャンプを入れる必要があります。シニアであれば指定はないので、自らが得意とするスピン・単独ジャンプを入れることができますが、ジュニアでは不得手であっても入れなければなりません。
また、ショートプログラムのアクセルジャンプについても、ジュニアでは2Aまでしか認められませんが、シニアでは3Aを跳ぶことが可能です。シニアよりもジュニアでは制限が大きいという特徴があります。
フリースケーティングでは、ジュニアではコレオシークエンスが入っていますが、ステップシークエンスが入っていません。シニアであれば、コレオシークエンスに加えて、ステップシークエンスを入れる必要があります。
以上で見てきたとおり、ジュニアとシニアではプログラムの構成要素が異なっています。にもかからわず、ジュニアの世界選手権の最終代表選考会がシニアの全日本選手権になっています。
参考に、2022年全日本選手権にジュニア推薦枠で出場した女子シングル選手のショートプログラムにおけるジャンプ構成を見てみましょう。
- 千葉百音 2A,3Lz+3T//3F
- 島田麻央 3F,2A//3Lz+3T
- 柴山歩 3Lz+3T,2A//3F
- 中井亜美 3A,3Lz+3T//3Lo
- 櫛田育良 3Lz+3T,2A//3F
- 村上遥奈 3Lz+3T,2A//3Lo
- 髙木謠 3Lz+3T,3Lo//2A
- 奥野友莉菜 2A,3Lz+3T,3F※実施は2A,3Lz転倒,1F
2022~23シーズンのジュニアの指定ジャンプはループです。また、先に確認したとおり、ジュニアではショートプログラムで単独のアクセルジャンプとして3Aを跳ぶことができません。そのため、ジュニアのルールでも問題ないのは、8人中2人のみです。6人がジュニアのルールでのジャンプ構成から変更して、点数を上げようとしています。
当然ながら、ジュニアのルール内で最も実力のある選手を世界ジュニア選手権代表として選出する必要があります。一方で、シニアのルールに基づいて行われる大会が、世界ジュニア選手権の最終代表選考会となっていることに強い違和感があります。
世界ジュニア代表選考における全日本選手権の重要視
先に、ジュニアの世界選手権の最終代表選考会が、なぜシニアの全日本選手権となっているのか?と問題提起を行いました。ただし、シニアの全日本選手権は多くの観客が入るので、選手により緊張感がかかる状態で実力を発揮できるかどうかを見たいという思いもあるでしょう。
こうした選考側の事情を鑑みて、あくまでもジュニアのルールで行われる全日本ジュニア選手権の結果を最重要視しており、シニアのルールで行われる全日本選手権は参考として扱うのであれば、まだ納得感はあります。しかし、実際はそのようになっていないように見えます。
全日本ジュニア選手権の優勝者は世界ジュニア選手権の代表に内定します。また、世界ジュニア選手権の代表選考基準に全日本ジュニア選手権の2,3位、ジュニアグランプリファイナル等も選考基準となってはいますが、実際のところ最終代表選考会である全日本選手権の順位が最重要視されているように見えます。2位以下の選手は全日本選手権への推薦出場枠内に入ることが最も重要であり、いわば全日本ジュニア選手権が全日本選手権の予選化していると言えるでしょう。
考察:ジュニア推薦枠は多いのか?
以上で見てきた「全日本ジュニア選手権の軽視」という状況が続く限りにおいては、全日本選手権におけるジュニア推薦枠8枠という枠数は決して多くないと思います。全日本ジュニア選手権が全日本選手権の予選となっており、世界ジュニア選手権代表選考において、全日本選手権の結果が重要視されるのであれば、ジュニアの選手でも、より多くの選手が全日本選手権に出場すべきです。
シニアの年齢制限も段階的に引き上げられていくため、昨シーズンに実施する必要があったかどうかという点は別にしても、ジュニア推薦枠を増やすという対応も理解できます。
全日本選手権におけるジュニア推薦枠が8枠あることが問題なのではなく、以上で見てきた全日本ジュニア選手権が軽視されていることが問題ではないか?というのが私の意見です。ジュニア推薦枠数を見直すのであれば、この点を是正した上で見直すべきと考えています。
まあ、一番良いのは、全日本選手権の出場総枠を増やすことではあるんですがね…。
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