【ミラノ五輪】なぜペトロシャンは6位に沈んだのか?メダルを逃した3つの理由

目次

衝撃の結末と「失速」

ロシア選手権3連覇。

とくに2024年末のロシア選手権では260点を超えるハイスコアで優勝したアデリア・ペトロシャン。

複数種類の4回転ジャンプ(フリップ、ループ、トーループ)、トリプルアクセルを武器に、ここ数シーズンはロシア国内で敵なしの状態でした。

国際大会への出場が認められていないロシア選手が、中立選手としてミラノオリンピックに出場することが認められたとき、多くの人は彼女の「金メダル」獲得を確信したでしょう。

しかし、ミラノ五輪の結果は——

ショート5位、フリー5位、総合6位。

優勝争いどころか、メダル争いさえ蚊帳の外となりました。

なぜ、ペトロシャンは「失速」してメダルを逃したのか、その理由を紐解いていきます。


理由1:度重なる怪我が奪った「本来の演技」

怪我との戦いの1年

今シーズンの彼女は、複数の怪我を抱えていました。
オリンピックという最高の舞台に「万全の状態」で臨めなかった。
これが一番の理由でしょう。これ以外にも理由を2つ言及しますが、それでもここさえクリアできていれば、少なくともメダルを取るだけの実力は十分ありました。

2025年9月ミラノオリンピック最終予選は、怪我明けギリギリ間に合った状態。
棄権も視野に入っていた状態だったとのこと。
4回転ジャンプとトリプルアクセルを回避してなんとか優勝し、オリンピックの切符を勝ち取りました。

その後、徐々に状態を上げて、ロシアグランプリシリーズ第1戦、第4戦で4回転トーループに挑戦するも転倒。
しかし、オープン参加で出場したロシアグランプリシリーズ第5戦では4回転トーループ2本を成功させました

そして、2025年末のロシア選手権では、ショートプログラムでようやくトリプルアクセルを成功
フリーではいずれもミスがあったものの、トリプルアクセル1本、4回転トーループ2本の彼女本来の構成にまで状態を戻してきました。

しかし、ロシア選手権後に再び怪我を発症。

結果として、彼女はミラノオリンピックに状態を上げきることができませんでした。

2024年末ロシア選手権の状態を100とするならば:

  • ミラノオリンピック最終予選:20
  • ロシアグランプリシリーズ2戦を経て:60
  • ロシア選手権:70
  • ミラノ五輪:55

これくらいの状態だったと思います。あくまでも私の感覚ですが…。

ミラノオリンピックは、なんとか間に合わせたといったところでしょうか。
彼女本来の演技からはかけ離れていました。

フリー冒頭の4回転トーループ転倒で大きく点数を失うことになりますが、こんなに4回転前にスピードが出ていない彼女を初めて見ました。


理由2:「国内一強状態」が鈍らせた勝負勘

ロシア国内の競争環境の変化

近年、ロシア国内(シニアのみという留保がつきますが)の競争が落ち着き、彼女の「一強状態」が続いていました。

2022年ロシア選手権こそ同シーズンの世界選手権よりもレベルが高かったと思います。しかし、それ以降は様々な理由が重なり、競争が緩やかになっていきます。

  • トゥクタミシェワの引退
  • ワリエワの資格停止
  • アカチエワとゴルバチョワの怪我
  • ムラビヨワの不調
  • 新世代台頭の遅れ

これらにより、自然とペトロシャン一強体制になってしまいました。

とくに今シーズンは、彼女を追いかける選手が(少なくともシニア年齢の選手の中では)見当たらない状態に。

「極限の競争環境」の喪失

以前のロシア女子は「ロシア選手権は世界選手権よりもハイレベル」という「極限の競争環境」でした。

あまりに競争が激しいがゆえに、国際大会に至るまでに消耗してしまうという欠点はあるものの、絶対に結果を残さなければならない大会でまとめた演技をする勝負強さが養われていたように思います。

例えば、北京オリンピック金メダルのアンナ・シェルバコワも同じくロシア選手権で3連覇しましたが、3回目の優勝は体調不良を押して強行出場。ワリエワ、トゥルソワを抑える優勝でした。体調不良で競技会に出場することの是非はさておき、追い詰められた状況下でも自らの力を最大限出すということができていたわけですね。

しかし、最近の彼女は「多少演技が乱れても、勝ててしまう」状態だった。

その結果、五輪という極限の緊張感の中で、「ここぞという場面で、勝負を決める演技をする」という、かつてのロシア勢、とくにエテリ・トゥトベリーゼ門下生が持つ研ぎ澄まされた勝負勘が失われていました。

ロシアグランプリシリーズの限界

国際大会への出場が制限されるなか、グランプリシリーズに代わりロシアグランプリシリーズが開催されていました。

開催されたは良いものの、多くの選手がシーズン前半は状態を上げられず、ロシアグランプリシリーズ前半戦から後半戦にエントリー変更するということがしばしば起きていました。
しかし、通常のグランプリシリーズでは、状態が上がらないから、怪我をしているから、エントリーを変更してください!というのは通用しないんですよね。出るか、出ないかの2択です。

ペトロシャンに限らず、ほとんどのロシア選手にとって追い詰められた中で実力を出し切る経験が不足していたのかもしれません。


理由3:国際大会の空白が招いた「演技構成点の停滞」

演技構成点の決定的な差

長らく国際大会に出場できなかったことで、演技構成点を徐々に高めていく機会を完全に喪失していました。

フリーの演技構成点を比較すると

順位選手フリーPCS
金メダルアリサ・リウ72.46点
銀メダル坂本花織74.84点
6位アデリア・ペトロシャン65.71点

約7〜9点の差。
ペトロシャンの演技構成点はフリー出場選手中12位でした。

とくに、ジュニアからシニアに移行した選手の多くが、安定した素晴らしい演技を繰り返すことで自らの評価を高めていきます。

また、国際大会でスケーティングスキルに優れた他国の選手と競い合うことで、弱点を補おうと努力するわけですね。

しかし、ペトロシャンにはその機会がありませんでした

国際大会の空白は、技術面よりも、ジャッジからの信頼と評価の蓄積という見えない資産を奪っていたと思われます。


まとめ:ペトロシャンのこれから

怪我、勝負勘の欠如、PCSの停滞。

この3つが、彼女の足枷となり、メダル争いから脱落することになりました。

ただ、この4年間、彼女は多くの機会を失い続けました。願わくば国際情勢が改善し、4年後にもう一度オリンピックの舞台で滑る彼女の姿を見たいと思います。

私は以前、ある仮説を立てました。
それは、ロシア女子選手は競争が激しすぎるがゆえに、やや競技成績を落とす時期に後輩からの追い上げに耐えられず現役引退を選ぶのであって、決して本来の選手生命は短くないという仮説です。
つまり、一時的に競技成績を落とす時期さえ越えれば、再浮上する時期が来るということです。

事実、トゥクタミシェワは一時的に競技成績を落とす時期がありながらも26歳までトリプルアクセルを成功させていましたし、ミラノオリンピックに出場したアナスタシア・グバノワ(23歳)は元々ロシア代表として活躍しており、現在も拠点はロシアです。

そして、ドーピング資格停止期間を経て競技会に復帰したカミラ・ワリエワ(19歳)は、復帰戦でいきなり4回転トーループを成功させています。彼女も競技会に出ていた最後のシーズンである2023~24シーズンは非常に苦しいシーズンでしたが、今は明らかに当時よりもジャンプ・動きのキレが増しています。

アレクサンドラ・イグナトワ(旧姓トゥルソワ)(21歳)も結婚・出産を経て、現役復帰するといきなり4回転ルッツを成功。4回転ジャンプは決して15歳、16歳までの選手しか跳べないジャンプではありません。

ずっと4年後、2030年フランスアルプスオリンピックについては否定的だったペトロシャンが、ミラノオリンピックで演技を終えて4年後に言及しました。それであれば、4年後に彼女が本来の実力を出し切れるように、応援し続けたいと思います。

【補足】町田樹氏の発言について

トリノオリンピック代表であり、國學院大學准教授であるまっちーこと町田樹さん
ミラノオリンピックでは、男子シングルとアイスダンスの解説を務めていました。

町田さんがペトロシャンについて語っていたコメントについて、一部事実誤認と思われる箇所があるため補足しておきましょう。

彼女は冒頭で4回転トウループに果敢に挑戦しました。しかし、今季の彼女はロシア国内の主要大会のFSで3度このジャンプに挑み、すべて転倒しています。成功率0%という実績の中で臨んだ大舞台でしたが、やはり本番では高さが足りず、テイクオフでうまく力が伝わらなかったのか、転倒という結果に終わりました。

勝敗分けた「一つのミス」と、坂本花織が残した功績 町田樹がフィギュア女子FSを解説

戦略にはやや疑問が残ります。成功実績のあるトリプルアクセルを封印し、一度も成功させていない4回転トウループに挑んだ采配は、私にはあまり合理的に映りませんでした。もしかしたらトリプルアクセルの調子が芳しくなかったのかもしれませんが、なぜそのような戦略を取ったのか、本人や陣営に聞いてみたいところです。

勝敗分けた「一つのミス」と、坂本花織が残した功績 町田樹がフィギュア女子FSを解説

まず、今シーズンの4回転トーループの成功率0%とのことですが、先に指摘したとおりロシアグランプリシリーズ第5戦にオープン出場した際にフリーで2回成功させています。よって、ミラノオリンピックに至るまで今シーズンの成功率は33.3%(2回成功/6回挑戦)が正しいです。

また、確かに成功率という観点だけを見ると、トリプルアクセルの方が合理的と思われるかもしれません。
トリプルアクセルの今シーズン成功率は50%(1回成功/2回挑戦)です。

しかし、今シーズンの初挑戦は、4回転トーループは2025年10月のロシアグランプリシリーズ第1戦トリプルアクセルは2025年12月ロシア選手権だったことを考えると、彼女にとってより跳びやすいジャンプはトリプルアクセルよりも4回転トーループだったことは明らかです。
事実、昨シーズン以前も、4回転トーループをフリーで2回入れることはあっても、トリプルアクセルを2回入れることはありませんでした。

戦略を聞いてみたいという質問に対しては、単純に4回転トーループの方が彼女の得意ジャンプであり、怪我の影響でトリプルアクセルが間に合わなかったという返答になるものと思われます。

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この記事を書いた人

ただのフィギュアスケートファン。フィギュアスケート現地観戦し始めて10年前後。現在も日本国内の大会・アイスショーに出没しています。
このブログでは現地観戦の感想、日々感じたことをのんびり書いています。

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