はじめに
フィギュアスケートのオリンピック団体戦は、2014年ソチオリンピックから新たに始まった種目です。
2026年ミラノオリンピックでようやく4回目。意外とまだ新しい。
2年に1回日本でフィギュアスケート国別対抗戦が開催されていますが、国別対抗戦の結果からオリンピック団体戦の結果を占おうとすると大きく誤ります。
両者ともに団体戦ですが、それぞれルールが異なるためです。
今回は、2026年ミラノ・コルティナ五輪の団体戦について、SB(シーズンベスト)をベースに、「すべての国が合理的に動いたらどうなるか」をちゃんと計算してみました。
結果を先取りすると、多くのスケートファンの肌感覚に合った計算結果になったと思います。
出場国とルール
出場国
- アメリカ
- 日本
- イタリア
- カナダ
- ジョージア
- フランス
- イギリス
- 韓国
- 中国
- ポーランド
ルール
予選では、男子シングル、女子シングル、ペア、アイスダンスの各1選手が、ショートプログラム(アイスダンスはリズムダンス)を演技する。
各カテゴリごとに、1位10pt、2位9pt、3位8pt…10位1ptと順位点が与えられ、合計順位点が多い上位5か国が決勝に進出する。
決勝では、男子シングル、女子シングル、ペア、アイスダンスの各選手各1選手が、フリースケーティング(アイスダンスはフリーダンス)を演技する。
予選同様、各カテゴリごとに、1位10pt、2位9pt、3位8pt…5位6ptと順位点が与えられ、予選と決勝の順位点の合計で最終順位が決定する。
4種目中2種目まで予選と決勝で異なる選手を出場させることが可能。
国別対抗戦は、男女シングル2選手、ペア・アイスダンスが各1組出場。
オリンピック団体戦と同じく順位点の合計によって競われます。
国別対抗戦は、男女シングルに強い国が有利なルールになっているわけですね。
その点、オリンピック団体戦は全種目での総合力が求められます。
前提
今回の記事は分析なので、前提を示しておきます。
前提①:自国の成績を最大化する
前提①として、各国は自国が最も良い成績を残せるように行動すると想定します。
つまり、個人戦でメダルを狙わせたいから団体戦は温存する…ということはないものとします。
各国の出場資格がある選手の中から、最も強い選手を団体戦に出場することにしました。
ここでの最も強い選手は、最もシーズンベストが高い選手としています。
前提②以降にも、本前提が基本となるので頭の片隅に置いておいてください。
前提②:入れ替えは使えるなら使う
前提①では自国の成績を最大化するため、各国エース(=最もシーズンベストが高い選手)を投入するとしました。
とはいえ、メダルを狙う個人戦の直前に消耗は避けたいもの。
いい加減、団体戦と個人戦の開催順を入れ替えろという声をたくさん聞く一方、
スケート連盟やオリンピック委員会といった運営側からそうした声が上がることはありません。
(そろそろ問題意識を持ってほしいところではありますが…。)
話はそれましたが、各国はエースを投入したいけど消耗させたくないというジレンマに陥っています。
そこで、前提②として、予選と決勝で出場選手を入れ替えられるのであれば入れ替えると想定します。
予選と決勝での選手入れ替えは、4種目中2種目までしかできません。
ちなみに、日本はこれまで男女シングルで予選・決勝の選手を入れ替え。
ペアとアイスダンスは入れ替えなしとしています。
この選手入れ替えについては、エースと2番手選手の実力差を踏まえて、最も実力差が少ない種目から順に入れ替えるものと想定します。
ここでの実力差はシーズンベストの順位の差を見てみました。
エースと2番手の実力差が大きいのに予選と決勝で出場選手を入れ替えると、予選と決勝で獲得できるポイントが大きく減少してしまいます。
実力差が少ない方が、選手の負担を分散させつつも、より良い成績を上げられる…ということです。
前提③:五輪団体戦はSP・RDゲー
オリンピック団体戦の一番の特徴は、予選のショートプログラム・リズムダンスが持つ比重がかなり大きいということです。
予選の順位が決勝で入れ替わることはほぼないのではないでしょうか。
完全にSP・RDゲーと化しています。
なぜか。
オリンピック団体戦は予選でショートプログラム・リズムダンス、決勝でフリースケーティング・フリーダンスを演技します。
予選は10か国で、そこから上位5か国が決勝に進むわけですね。
これは完全にルールの欠陥だと個人的に思っている点ですが、団体戦のルールとして一番の特徴はこちらです。
- 予選の順位点が決勝に持ち越される。
- 予選は1位から10位まで10pt~1ptが、決勝は1位から5位まで10pt~6ptまで与えられる。
このルールだとどんなことが起こるのか。
決勝に進出さえすれば、種目内で最下位だったとしても5位で6ptもらえます。
予選では種目内最下位が10位で1ptという点を鑑みると、決勝はルール上、点差がつきにくい構造になっていることがわかるかと思います。
つまり、予選の順位が決勝で動くことは少ない。
予選でいかに上位につけるかどうかが鍵となります。
だからこそ、オリンピック団体戦はSP・RDゲーなんですね。
こう考えると、予選・決勝で選手を入れ替える場合でも、エースは予選に投入することになるだろうということです。
そのため、各国は合理的な判断として、エースを予選に投入すると想定しました。
シミュレーション
予選
総合順位
| 順位 | 国名 | 男子 | 女子 | ペア | アイスダンス | 合計pt |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | アメリカ | 10 | 9 | 5 | 10 | 34 |
| 2 | 日本 | 9 | 10 | 10 | 3 | 32 |
| 3 | ジョージア | 8 | 6 | 9 | 5 | 28 |
| 4 | イタリア | 7 | 7 | 8 | 6 | 28 |
| 5 | フランス | 6 | 3 | 4 | 9 | 22 |
| 6 | カナダ | 4 | 5 | 6 | 7 | 22 |
| 7 | 韓国 | 5 | 8 | 0 | 4 | 17 |
| 8 | 中国 | 3 | 4 | 7 | 2 | 16 |
| 9 | イギリス | 1 | 1 | 3 | 8 | 13 |
| 10 | ポーランド | 2 | 2 | 2 | 0 | 6 |
3位ジョージアと4位イタリア、5位フランスと6位カナダは順位点が同点です。
この場合、より高い順位点2種目の合計得点が順位が決まります。ジョージアが17pt、イタリアが15ptのため、3位ジョージア、4位イタリア。
フランスが15pt、カナダが13ptのため、5位フランス、6位カナダとなります。
男子ショートプログラム
| 国名 | 出場選手 | SB | SB順位 | 順位点 |
|---|---|---|---|---|
| アメリカ | イリア・マリニン | 108.87 | 1位 | 10pt |
| 日本 | 鍵山優真 | 108.77 | 2位 | 9pt |
| ジョージア | ニカ・エガゼ | 95.67 | 6位 | 8pt |
| イタリア | ダニエル・グラスル | 94.00 | 9位 | 7pt |
| フランス | ケヴィン・エイモズ | 93.56 | 11位 | 6pt |
| 韓国 | チャ・ジュンファン | 91.60 | 13位 | 5pt |
| カナダ | スティーブン・ゴゴレフ | 90.19 | 15位 | 4pt |
| 中国 | ボーヤン・ジン | 89.46 | 16位 | 3pt |
| ポーランド | ウラジーミル・サモイロフ | 85.08 | 24位 | 2pt |
| イギリス | エドワード・アップルビー | 69.35 | 89位 | 1p |
女子ショートプログラム
| 国名 | 出場選手 | SB | SB順位 | 順位点 |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 中井亜美 | 78.00 | 1位 | 10pt |
| アメリカ | アリサ・リウ | 75.79 | 4位 | 9pt |
| 韓国 | ジア・シン | 74.47 | 6位 | 8pt |
| イタリア | ララ・ナキ・グットマン | 69.69 | 14位 | 7pt |
| ジョージア | アナスタシア・グバノワ | 68.08 | 20位 | 6pt |
| カナダ | マデリン・シーザス | 66.57 | 30位 | 5pt |
| 中国 | ルイヤン・チャン | 62.78 | 49位 | 4pt |
| フランス | ロリーヌ・シルト | 62.45 | 53位 | 3pt |
| ポーランド | エカテリーナ・クラコワ | 58.08 | 82位 | 2pt |
| イギリス | クリスティン・スポウルス | 50.70 | 145位 | 1p |
ペアショートプログラム
| 国名 | 出場選手 | SB | SB順位 | 順位点 |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 三浦璃来/木原龍一 | 79.94 | 1位 | 10pt |
| ジョージア | アナスタシヤ・メテルキナ/ルカ・ベルラワ | 78.83 | 2位 | 9pt |
| イタリア | サラ・コンティ/ニッコロ・マチー | 77.22 | 4位 | 8pt |
| 中国 | ウェンジン・スイ/ツォン・ハン | 76.02 | 5位 | 7pt |
| カナダ | ディアナ・ステラート=デュデク/マキシム・デシャン | 74.26 | 6位 | 6pt |
| アメリカ | エミリー・チャン/スペンサー・アキラ・ハウ | 71.17 | 10位 | 5pt |
| フランス | カミーユ・コヴァレフ/パヴェル・コヴァレフ | 64.28 | 22位 | 4pt |
| イギリス | アナスタシア・ヴァイパン=ロ/ルーク・ディグビー | 63.98 | 23位 | 3pt |
| ポーランド | ユリア・シェチニナ/ミハル・ウォズニアク | 59.76 | 33位 | 2pt |
| 韓国 | エントリーなし | ― | ― | 0pt |
アイスダンスリズムダンス
| 国名 | 出場選手 | SB | SB順位 | 順位点 |
|---|---|---|---|---|
| アメリカ | マディソン・チョック/エヴァン・ベイツ | 88.74 | 1位 | 10pt |
| フランス | ロランス・フルニエ・ボードリー/ギヨーム・シゼロン | 87.56 | 2位 | 9pt |
| イギリス | ライラ・フィアー/ルイス・ギブソン | 85.47 | 3位 | 8pt |
| カナダ | パイパー・ギレス/ポール・ポワリエ | 85.38 | 4位 | 7pt |
| イタリア | シャルレーヌ・ギニャール/マルコ・ファブリ | 84.48 | 5位 | 6pt |
| ジョージア | ダイアナ・デイビス/グレブ・スモルキン | 80.35 | 9位 | 5pt |
| 韓国 | イム・ハナ/クァン・イェ | 76.02 | 19位 | 4pt |
| 日本 | 吉田唄菜/森田真沙也 | 69.69 | 31位 | 3pt |
| 中国 | シーユエ・ワン/シンユー・リウ | 67.59 | 40位 | 2pt |
| ポーランド | エントリーなし | ― | ― | 0pt |
決勝
総合順位
| 順位 | 国名 | 予選 | 決勝 | 総合pt |
|---|---|---|---|---|
| 1 | アメリカ合衆国 | 34 | 37 | 71 |
| 2 | 日本 | 32 | 33 | 65 |
| 3 | ジョージア | 28 | 33 | 61 |
| 4 | イタリア | 28 | 29 | 57 |
| 5 | フランス | 22 | 28 | 50 |
男子フリースケーティング
| 国名 | 出場選手 | SB | SB順位 | 順位点 |
|---|---|---|---|---|
| アメリカ合衆国 | イリア・マリニン | 238.24 | 1位 | 10pt |
| フランス | アダム・シャオ・イム・ファ | 196.08 | 2位 | 9pt |
| 日本 | 佐藤駿 | 194.02 | 4位 | 8pt |
| ジョージア | ニカ・エガゼ | 181.72 | 8位 | 7pt |
| イタリア | マッテオ・リッツォ | 168.37 | 20位 | 6pt |
女子フリースケーティング
| 国名 | 出場選手 | SB | SB順位 | 順位点 |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 坂本花織 | 150.13 | 1位 | 10pt |
| アメリカ合衆国 | アリサ・リウ | 146.70 | 3位 | 9pt |
| ジョージア | アナスタシア・グバノワ | 138.15 | 12位 | 8pt |
| イタリア | ララ・ナキ・グットマン | 135.26 | 17位 | 7pt |
| フランス | ロリーヌ・シルト | 126.86 | 34位 | 6pt |
ペアフリースケーティング
| 国名 | 出場選手 | SB | SB順位 | 順位点 |
|---|---|---|---|---|
| ジョージア | アナスタシヤ・メテルキナ/ルカ・ベルラワ | 148.07 | 2位 | 10pt |
| 日本 | 三浦璃来/木原龍一 | 147.89 | 3位 | 9pt |
| アメリカ合衆国 | エリー・カム/ダニー・オシェイ | 133.63 | 8位 | 8pt |
| イタリア | レベッカ・ギラルディ/フィリッポ・アンブロジーニ | 126.21 | 13位 | 7pt |
| フランス | カミーユ・コヴァレフ/パヴェル・コヴァレフ | 107.30 | 34位 | 6pt |
アイスダンスフリーダンス
| 国名 | 出場選手 | SB | SB順位 | 順位点 |
|---|---|---|---|---|
| アメリカ合衆国 | マディソン・チョック/エヴァン・ベイツ | 131.68 | 2位 | 10pt |
| イタリア | シャルレーヌ・ギニャール/マルコ・ファブリ | 125.86 | 5位 | 9pt |
| ジョージア | ダイアナ・デイビス/グレブ・スモルキン | 123.04 | 6位 | 8pt |
| フランス | エブジェニア・ロパレワ/ジェオフリー・ブリッソー | 122.34 | 8位 | 7pt |
| 日本 | 吉田唄菜/森田真沙也 | 103.35 | 40位 | 6pt |
オリンピック団体戦の展開を占う
優勝争い:アメリカの「総合力」vs 日本の「ペア・シングル」
総合力という観点から見ると、優勝争いはアメリカと日本になるでしょう。
アメリカはアイスダンス、日本はペアに強みがあり、
男女シングルでは差がさほどつかないのではないかと思われます。
アメリカは女子シングル、ペアが出場選手間の実力差(シーズンベストの順位差)が少ない一方、
男子シングルとアイスダンスはやや開きがあります。
そのため、予選と決勝の選手交代は女子シングルとペアで使用すると想定しています。
日本は、男女シングルが出場選手間の実力差が少ない。
ペアでは、ゆなすみ組(長岡/森口組)の急成長でりくりゅう組(三浦/木原組)に迫ってきましたが、
シーズンベストの順位差で見ると男女シングルよりはまだ開きがあるということで、
予選と決勝の選手交代は、男女シングルで使用すると想定しました。
全員が最高の演技をしたらの想定だと、
やはりアメリカが優位だと言わざるを得ません。
アメリカのアイスダンスは、世界選手権3連覇中のチョクベイ組(チョック/ベイツ組)の登場が予想されます。
日本のアイスダンスは、うたまさ組(吉田/森田組)が出場。
素晴らしいペアではありますが、チョクベイが相手となるとさすがに分が悪いです。
日本が優勝するためには、アイスダンスでのビハインドを、男女シングルとペアでいかに埋め、貯金を作れるかが鍵。
メダル争い:ジョージアVSイタリアの激戦
実は優勝争い以上に面白いのが、この3位争いです。 シミュレーションではジョージアが優勢となりました。
ジョージア・イタリアは、全種目において選手それぞれの実力差が非常に近いことが特徴的です。
ジョージアは全種目において、1選手の出場しかありません。
そのため、予選・決勝全て同じ選手が出場することになります。
現ヨーロッパチャンピオンであるペアのメチョベル組(メテルキナ/ベルラワ組)、男子シングルのニカ・エガゼ。
女子シングルのアナスタシア・グバノワは2023年のヨーロッパチャンピオンです。
アイスダンスのデイスモ組(デイビス/スモルキン組)も実力を伸ばしています。
イタリアは女子シングルとアイスダンスが1選手の出場。
ペアと男子シングルで2選手が出場するため、本種目では予選・決勝で選手の入れ替えが可能です。
アイスダンスのギニャファブ組(ギニャール/ファブリ組)は、2023年世界選手権銀メダリスト。
男子シングルのダニエル・グラスルは2025年グランプリファイナル4位、マッテオ・リッツォは2026年ヨーロッパ選手権銀メダリスト。
ペアのコンマチ組(コンティ/マチ―組)は2025年グランプリファイナル銀メダリスト。
優勝したりくりゅう組にあと一歩まで迫りました。
女子シングルのララ・ナキ・グットマンは、2026年ヨーロッパ選手権銅メダリスト。
こう見ると、ジョージア・イタリア共にかなり強いと思われますが、
双方のオリンピック代表が出場した2026年1月のヨーロッパ選手権では明暗が分かれました。
ジョージアはペアのメチョベル、男子シングルのエガゼ優勝。
女子シングルのグバノワはショートプログラム11位の出遅れが響いたものの、フリースケーティング2位と巻き返して5位に入りました。
また、アイスダンスのデイスモは過去最高順位の6位でした。
ジョージアチーム全体として、かなりの高成績だったわけですね。
一方、イタリアはチームのエースであるペアのコンマチが怪我で欠場。
男子シングルのグラスルは13位と彼の実力からすれば信じられないような順位に。
同じく男子シングルのリッツォが2位、女子シングルのグッドマンが3位に入りましたが、イタリアチーム全体で見るとやや不安が残る結果だったと言えます。
上記を踏まえると、ジョージアは直近ヨーロッパ選手権の勢いのまま、全選手がまとめた演技をしたい。
一方、イタリアはコンマチとグラスルが間に合うかどうかが鍵。
ここが間に合わないと、かなり厳しい戦いになります。
アイスダンスに関して言うと、イタリアのギニャファブがジョージアのデイスモに対してアドバンテージがあります。
しかし、出場選手の兼ね合いで両者の順位差がさほど開かない可能性が高い。
となると、実力差ほど獲得ポイント差が開かないことになります。
となると、アイスダンスでのビハインドを男女シングル・ペアで埋めることができればジョージアが銅メダル。
できなければイタリアが銅メダルという感じでしょうか。
イタリアは地元開催ということもあり、是が非でもメダルを獲得したいでしょう。
しかし、それはジョージアも同じこと。
白熱した戦いが今から非常に楽しみです。

