フィギュアスケートシーズンの始まりを告げるげんさんサマーカップ、木下トロフィーの2大会が関西で始まりました。この記事では、男子シングル(シニア)の結果と感想をまとめています。
競技結果
総合
三浦選手と本田選手は同日程で開催されているサマーカップにも出場しています。本田選手に至っては、追加でペア演技も披露していました。3日間で本田選手は5回、三浦選手は4回演技しています。
また、鍵山選手は2022年全日本選手権以来、8か月ぶりの競技会復帰。非常に見どころの多い大会となりました。
PL | 選手名 | 所属 | SP | FS | Points |
1. | 三浦 佳生 | オリエンタルバイオ目黒日大高 | 1 | 1 | 272.51 |
2. | 佐藤 駿 | 明治大学 | 2 | 2 | 235.78 |
3. | 鍵山 優真 | オリエンタルバイオ/中京大学 | 4 | 3 | 211.47 |
4. | 佐々木 晴也 | 京都大学 | 3 | 4 | 193.53 |
5. | 木科 雄登 | 関西大学 | 5 | 5 | 181.61 |
6. | 本田 ルーカス剛史 | 木下アカデミー | 6 | 6 | 172.53 |
ショートプログラム
PL. | 選手名 | 所属 | TSS | TES | PCS | CO | PR | SK | Deduction | StN. |
1 | 三浦 佳生 | オリエンタルバイオ目黒日大高 | 91.60 | 51.93 | 39.67 | 8.00 | 7.92 | 7.83 | 0.00 | #6 |
2 | 佐藤 駿 | 明治大学 | 78.07 | 40.92 | 38.15 | 7.67 | 7.50 | 7.67 | 1.00 | #7 |
3 | 佐々木 晴也 | 京都大学 | 73.68 | 40.00 | 33.68 | 6.75 | 6.75 | 6.67 | 0.00 | #5 |
4 | 鍵山 優真 | オリエンタルバイオ/中京大学 | 70.98 | 34.84 | 38.14 | 7.67 | 7.42 | 7.75 | 2.00 | #3 |
5 | 木科 雄登 | 関西大学 | 62.15 | 29.73 | 32.42 | 6.33 | 6.58 | 6.50 | 0.00 | #2 |
6 | 本田 ルーカス剛史 | 木下アカデミー | 60.83 | 28.53 | 32.30 | 6.42 | 6.42 | 6.50 | 0.00 | #1 |
フリースケーティング
PL. | 選手名 | 所属 | TSS | TES | PCS | CO | PR | SK | Deduction | StN. |
1 | 三浦 佳生 | オリエンタルバイオ目黒日大高 | 180.91 | 99.05 | 81.86 | 8.17 | 8.33 | 8.08 | 0.00 | #6 |
2 | 佐藤 駿 | 明治大学 | 157.71 | 83.35 | 74.36 | 7.42 | 7.33 | 7.58 | 0.00 | #5 |
3 | 鍵山 優真 | オリエンタルバイオ/中京大学 | 140.49 | 63.07 | 77.42 | 7.83 | 7.50 | 7.92 | 0.00 | #3 |
4 | 佐々木 晴也 | 京都大学 | 119.85 | 55.91 | 64.94 | 6.42 | 6.58 | 6.50 | 1.00 | #4 |
5 | 木科 雄登 | 関西大学 | 119.46 | 57.88 | 61.58 | 6.08 | 6.08 | 6.33 | 0.00 | #2 |
6 | 本田 ルーカス剛史 | 木下アカデミー | 111.70 | 48.72 | 62.98 | 6.33 | 6.08 | 6.50 | 0.00 | #1 |
感想
演技を見ていてとくに気になった選手の感想を書いていきます。
三浦佳生
ショートプログラム
4S+3T,3A//4T
三浦選手は、午前中に滋賀県のげんさんサマーカップでショートプログラムを演技してから、宇治に移動してきて本日2回目のショートプログラム。にもかかわらず全く疲れが感じられない。これが高校生の体力なのか。
冒頭4S+3Tは4Sで軸が斜めになりかけましたが力技で着氷までもっていきました。続く3Aは着氷乱れかけたのをイーグルでうまくごまかしていました。結果としてGOE+0.27となっています。イーグルを入れていなければ、おそらくGOE減点になっていたと思うのでナイスカバー!でした。後半の4Tは完璧でしたね。気持ち良いくらい完璧なジャンプでした。
本当にジャンプもスピンも暴れなくなりましたね。正確に言えば暴れてはいるんですが、暴れながらも自らをコントロールできるようになったという印象を受けます。「暴れないようにならないとね~」と思っていましたが、暴れながらコントロールできるようになるのは完全に予想外でした。
プログラム自体は既に完成度が非常に高いです。ブノワ・リショー×三浦佳生がどうなるか全く想像ができなかったですが、リショーが得意とするコンテンポラリーな振り付けが非常によく合っています。正統派路線で行くよりは、リショーが得意とするコンテンポラリーで行くのが彼に合っているのかもしれません。
リンクサイドで三浦選手と同学年の中村俊介選手らが演技を見ていましたが、中村選手らの歓声に応えて投げキッスを披露していて笑いました。
フリースケーティング:進撃の巨人
3A+1Eu+3S,4T,4S,3A//4T+3T,3Lo+2A+SEQ,3F
世紀の問題作。そしてフィギュアスケートの歴史を変えるかもしれないプログラム。
進撃の巨人をどのように表現するのか?リンク上で表現がそもそも適しているのか?と思っていましたが、シーズン初戦からこの完成度。恐れ入りました。この曲のパワーに負けずに演技できるのは三浦選手しかいないのではないかと思います。かなり曲が強いので、少しでも疲れが出れば曲に負けてしまう。全く曲が助けてくれないプログラムになっています。
中盤スローパートの表現も素晴らしかったです。この辺りは昨シーズン演じた「美女と野獣」の経験が活きているのではと感じました。
7月のドリームオンアイスでこのプログラムを初めて見たとき、「既存のフィギュアスケートの枠組みをぶっ壊しに来ている」という感想を持ちましたが、今回の演技を改めてみてその感想は確信に変わりました。その意味で、この「進撃の巨人」は問題作であり、歴史に残るプログラムではないかと思います。
スピンステップのレベル取りこぼしがありますし、ジャンプも着氷が伸びなかったところもありました。6分間練習で跳んでいた4Loも本番では回避しました。また、ローカル大会は採点が厳しい傾向にあります。これらを加味すると、今シーズン中にフリースケーティング200点は出してくるでしょう。
最後、ジャッジ席の目の前に行ってにらみつけるようなフィニッシュポーズが印象的です。演技後三浦選手は「ごめちごめち」とペコペコしていましたが、ギャップが面白過ぎて笑いました。
佐藤駿
ショートプログラム:リベルタンゴ
4T+2T,4F!<fall//3A
2020~21シーズンで当初フリースケーティングとして取り組んでいた「Battle of the kings」の衣装を着ていました。まだ衣装が完成していないんでしょう。
佐藤選手は、ジュニアグランプリファイナルで優勝した2019~20シーズンにも大きく表現面で化けましたが、今シーズンもさらに表現面が化けたのではないかと思います。今シーズンの演技見る限りだと、どちらかというと高橋大輔さんのようなセクシー路線に入ってきてません??その割に、目隠しチャンバラを考案したり、全日本の空き日に大阪城で木刀買おうとしたり、と子供っぽさと自由人っぷりを見せつけています。ギャップか?君もギャップ狙いなのか?
個人的にお気に入りなのは、4Fの助走に入る直前に右手で頭から首の辺りを右手で触った後ジャッジを指さす振り付けです。新路線を開拓しています。素晴らしいです。もっとやりましょう。
フリースケーティング:四季
4T,3A+1Eu+2S,4Fe,4T+3T//3A+2T,3Lo,3Lzot
ショートプログラムに引き続き過去の衣装が登場!2018~19シーズンのショートプログラムである「戦場のメリークリスマス」の衣装を着ていました。少し直しているのかもしれませんが、14歳のころの衣装をまだ着れるのか!とびっくりしました。
演技としては初戦にしてはよかったです。「どっかに行っている」4Lzは回避して代わりに4Fを投入。エッジエラーを取られましたが、見事に着氷させていました。その時「うお!」という歓声が入っていることが確認できますが、キスアンドクライでその声の主が佐藤選手のコーチである日下コーチであることが明かされています。
ジャンプもほとんど揃えてきたのですが、細かい減点やスピンステップのレベル取りこぼしがあり点数は思ったよりも伸びませんでした。スピンステップのレベル取りは昨シーズンから継続の課題ですね。あとはPCSアップのためにプログラムをどこまでこれから難しくしていくかというところでしょう。世界選手権代表争いをするメンバーと比べると、PCSが伸びにくい印象があるので、PCS出るようにするのか、とりあえず技術で殴るのか、何らかの戦略が必要かなと感じました。
プログラム自体はいろんな季節を行ったり来たりすることになるので少し心配していましたが、うまく四季でまとまっていて安心しました。
鍵山優真
ショートプログラム:Believer
4Sfall,3Lz+3T//3Afall
6分間練習で3Aをミスして焦ってしまったと話していました。この辺りは試合勘が薄れている影響があったんでしょう。冒頭4Sは飛び上がりは良かったですが、途中でやや軸が外れてしまったように見えました。3Aは助走から良くないときの助走になっていたのではないかと思います。が、パンクではなく、しっかり回転を絞めたということに意味があります。
焦りがジャンプだけではなく、演技全体にも出てしまったのではないかと思います。音が反響しているためか、演技開始冒頭の振り付けは音楽からずれているように見え(反響しているだけで、実際は合っていたかも)、それ以降の演技も彼が鍛えてきた表現の部分が出し切れていないように感じました。合宿中の映像を見る限り、もっと強弱をつけた素晴らしい演技をしていたので、その点は残念でした。
キスアンドクライでのパパちこと鍵山正和コーチとの反省会が懐かしいですね。2022年全日本選手権では、正和コーチがコーチの顔をしておらず、ずっと怪我を押して試合に強行出場する息子を心配する父親の顔をしていました。今回、正和コーチがコーチの顔になっているということは、もう本当に足は問題ないんでしょう。
フリースケーティング:Rain,in your black eyes
4S,4Tso,3Lo,3Aot+2A*+SEQ//3F+2T,3Lz2ft<,3F
復帰戦でしたが、4回転2本入れてきました。とくに4Tは昨シーズン負傷していた左足で踏み切るジャンプなので、彼が競技会でこのジャンプを跳ぶのは2022年世界選手権以来です。そう考えるとジャンプの状態は悪くないという印象を持ちました。冒頭4Sは少し軸が斜めになりかけましたが、うまく調整して着氷していますし、4Tもジャンプ自体は悪くなかった。あとはやや苦手意識がある3Aですね。
最後のスピンで足がつってしまい足を押さえながらスピンを止めたところを見て、全観戦者が血の気が引いたのではないかと思います。昨シーズンのほぼ全休があったところですし。パパちこと鍵山正和コーチも心配そうにしていましたが、キスアンドクライでは「足つっちゃった!」「あ、やばい(笑)と」と笑顔で語っていました。「かわいいから許すけど!私がどれだけ心配したか!」と勝手に怒っていたのは私です(本人からしたら知るかという感じ)。足がつった状態で無理し続けると怪我につながるので、演技中につらないような対策が必要ですね。
演技全体を見るとショートプログラムの何倍も良い演技でした。イタリアやアメリカで合宿を重ねて、プログラムをブラッシュアップしてきた、本人の演じ方もさらに良くなってきたということがわかる素晴らしい演技でした。一番の見せ場はどんどん力強さを増し、曲調も早くなっていくなかで演じるStSqですね。息をすることを忘れるくらい~とよく言いますが、こんな感覚なのかと。
一方で、正和コーチがキスアンドクライで語っていたように、やはり試合勘がまだまだ戻っていない印象があります。コンビネーションジャンプのリカバリーがあまりできていないことや、スピンステップのレベル取りこぼしが目立ちました。グランプリシリーズは後半戦から登場ですし、それまでにロンバルディア杯、東京選手権にも出場するので、そこで感覚を取り戻しながらといった感じになりそうですね。
怪我からの復帰戦、かつ本人がシーズン初戦はあまり得意でないことを考えると、まだまだこれから!今シーズンの活躍が楽しみです、
佐々木晴也
ショートプログラム:Gira Con Me
3A,3Lz+3T//3F!
予定していたジャンプ構成を完璧にこなしました。4回転2本を予定していてミスが出た佐藤選手とTESがほぼ同じになっていることから、いかにノーミスで演技することが大事かがわかります。また、スピンステップのレベルも他の選手と比べてレベルが取れていました。
7月のドリームオンアイスで彼のこのプログラムを見たときは、まだ全く仕上がっていないように感じましたが、1か月でかなり仕上げてきたという印象があります。ドリームオンアイスではゆっくり動くところで少し体が震えるようなところがあり、あまり見栄えが良くなかったですが修正してきました。しっとり系のプログラムを滑る佐々木選手があまり想像できなかったですが、結構似合っています。日焼けした肌と真っ白な衣装が対照的です。
キスアンドクライでの佐藤コーチとのやり取りに笑いました。
キスクラはね、静かにしないとね。自分のビデオ見返して喋りすぎててびっくりした!(佐藤コーチ「良かった気が付いて」)。
フリースケーティング:ロミオとジュリエット
4Tfall,3A+1Es+2S,3Lz+2A+SEQ,3F!//3A,2A+2T,1Lz
冒頭4Tは非常に惜しかったです。ほぼ着氷していましたが、その後に転倒してしまいました。ただ、この質でジャンプできるのであれば試合での成功は時間の問題でしょう。本来のジャンプ構成は以下のようになるのでしょうか?このジャンプ構成になるのであれば、4T1回、3A2回、3Lz2回とかなり基礎点は稼げると思うので、どこまでまとめられるかというところでしょう。
4T,3A+1Eu+3S,3Lz+2A+SEQ,3F//3A,2A+3T,3Lz
ロミオとジュリエットは、いわゆる「グバノワロミジュリ」を使用していました。ロミオとジュリエットとしてプログラムで使用されることが少ない楽曲を中心に構成されたイメージがあります。最後リンクに倒れこむところは、毒薬を飲んだロミオを表現しているのか印象的でした。リンクに倒れ込むフィニッシュを見るのはペトロシアンぶりでした。
キスクラで飲んでいるのは2Lペットボトルに入れられたオレンジジュース…?
まとめ
木下トロフィー男子シニアの結果とその感想をまとめました。全選手にとって、収穫と改善点の両方が見つかった有意義な大会になったのではないか?と思います。
先に投稿している木下トロフィー感想記事は以下になります。亀のような歩みですが、全カテゴリー投稿したいところです。
コメント