浅田真央アイスショーEverlasting33全プログラム鑑賞記②

この記事は、2024年6月に行われた浅田真央さんのアイスショー「Everlasting33」の全プログラム鑑賞記録です。全2回のうち2回目となります。1回目はこちらから。

現地観戦記はこちらです。

目次

全プログラム感想

エデンの東

柴田さんのソロ演技は「エデンの東」。柴田さんが自らこの曲を滑りたいと選んだそう。すごく似合うがゆえに、これを現役時代にやってほしかったという気持ちがあります。力強く、それていて優雅、ダブルアクセル(2A)を決めた後走り出して演技する姿は最高でした。とても感情がこもった演技でした。

ちなみに、エデンの東のあとに突然流れていた「G線上のアリア」。どうやら「エデンの東」がアーカイブ配信では権利上使用することが出来なかったらしく、柴田さんの「エデンの東」は「G線上のアリア」が上乗せされて放送されていました。なぜ「G線上のアリア」は演奏するだけなんだろう?と思っていたので、理由がわかって納得しましたし、アーカイブ配信で「エデンの東」を使えないという状態に対して最善の手は打っていたのがさすがでした。とはいえ、「エデンの東」としてまた観たいので、早く円盤で発売してください。

トッカータとフーガ

真央さんのスケートとSeishiro先生の陸上ダンスのコラボ。

演技開始してすぐ、「鼻から牛乳(の曲)やん!」その次に「その動き関節どうなってるの!?」と連続で謎の驚きをしていました。同じ振り付けをしながら、Seishiro先生の周囲を滑ったりと、氷上と陸上のコラボレーションは、この演出をしなければならない必然性が感じられる素晴らしいプログラムでした。また、足元のスモークもプログラムの凄みを演出する良い効果を果たしていましたね。

ザナルカンドにて

Seishiro先生の陸上ダンスのソロ演技。ゲーム「ファイナルファンタジーⅩ」の名曲「ザナルカンドにて」を演じました。通常フィギュアスケートで使用されるバレエやミュージカル、映画音楽だけでなく、アニメ・ゲーム音楽まで採用するとは恐れ入りました。演目だけ見ても、今までにないアイスショーだと言えます。

「ファイナルファンタジーⅩ」の舞台であるスピラは、巨大な生物『シン』によって定期的に文明が破壊され、多くの人命が失われてきました。この『シン』は通常の物理攻撃や魔法ではほとんどダメージを受けません。しかし、唯一『シン』を倒す手段が存在します。それが「究極召喚」です。「究極召喚」によって親しい人・愛しい人を供物にすることで、「究極召喚獣」を召喚し『シン』を倒します。

曲のタイトルにも入っているザナルカンドは、かつて栄華を誇った大都市の名前。しかし、1000年前に戦争によって破壊されて廃墟となっています。このザナルカンドこそが『シン』を倒すことが出来る「究極召喚」を習得できる地でした。

確かに、「究極召喚」により『シン』を倒すことはできるが、「究極召喚獣」が新しい『シン』になります。「究極召喚」では『シン』の恐怖から完全に逃れることはできないのです。人々を救いたかったがゆえの行動が、自ら『シン』を作り出すことになり、多くの人命を奪うことになるという救いようのない絶望感。「ザナルカンドにて」がゲーム音楽にしてはあまりに物悲しすぎる曲調なのは、これらゲーム背景を踏まえてのことでしょう。

Seishiro先生のダンスは、こうした「究極召喚」をめぐる不条理さ、怒り、悲しみ、絶望と言った感情そのものが具現化して漂い、舞っているような感覚を持ちました。

地球儀

真央さんとSeishiro先生が陸上ダンスでコラボ。曲は米津玄師さんの「地球儀」のオーケストラバージョン。

タップダンスの時と同じ感想になるんですが、普段であればフィギュアスケートを見に来たんだからスケートを滑るところを見たいと思うんですよね。でも、この完全に芸術として昇華された演技には感動しました。

「Everlasting33」のテーマは「永遠の愛」であり、そのことはアイスショーのタイトルである「Everlasting(=永遠)」という単語からもわかります。一方で、この「地球儀」は明確に「終わり」を意識した作品のように感じました。物事には「終わり」があるように、自らの人生にも「終わり」がある。だからこそ、自らの人生の「終わり」まで、陸上と氷上2人の天才がそれぞれの極めたい道を、これからも力強く歩み続けるという決意表明のように感じました。

アートオンアイス

田村さんとHideboH先生のコラボ。フィギュアスケートとタップダンスのコラボがこのような形で芸術として昇華するとは思ってもみませんでした。

スケートリンクで演技する田村さんと、アリーナ席1階で演技するHideboH先生。タップダンスの音をアートオンアイスの音楽を奏でる楽器の1つとして使用していたのは鳥肌が立ちました。一体どんな生活をすればこんな発想が生まれるんでしょうか。

そして、田村さんは見せ場のヤグディン(=アレクセイ・ヤグディン)ステップ。この曲はエフゲニー・プルシェンコの代表作なんですが、仲の悪いライバル関係にあったこの2人の要素を混ぜるという恐ろしい演目でした。一方で、彼らと同世代を争った1人でもある田村さんがこのプログラムを滑ってくれることはとても嬉しかったです。

ロミオとジュリエット

今井遥さんと中村優さんのペア演技。今井さんのジュリエット、中村さんのロミオは解釈一致が凄まじく、悲恋をしっとり演じてくれました。2人の息の合った動きと感情の表現力が見事に融合していました。ラストは動かなくなった今井さんを見て、嘆き抱きかかえるところで幕が閉じます。

こんなに息ぴったりなので信じられないですが、練習中は噛み合わず喧嘩にもなりかけたとのこと。2人ともシングルのトップスケーターだったので、難しさはあったでしょうが完璧な演技でした。

ところで、中村さんが今井さんを抱えてペアの技を披露していることに驚かされました。先日アップされた中村さんのYouTubeアカウントではジムに通っていたようですので、ペア演技に向けて鍛えていたんでしょうか…。どちらかと言うと線が細い印象だったのでびっくりしました。

ピアソラ タンゴメドレー(オブリビオン~リベルタンゴ)

真央さんと柴田さんのペア演技は2曲連続になります。

1曲目はオブリビオンです。椅子に座り俯く男性と、窓の外を見ながら佇む女性。女性から男性の方に行き、2人はダンスを始めます。現役時代タチアナ・タラソワの指導で陰のある陰鬱とした楽曲も演じてきた真央さん。さらに演技に深みが増していました。

紺色の衣装から真っ赤と黒の衣装に変わり、2曲目のリベルタンゴへ。

オブリビオンでは2人のスケートの深みに魅入ってしまいましたが、リベルタンゴでは2人の圧・迫力にただただ圧倒されました。まさにタンゴの静と動

アイスダンスのオリンピックメダリストであるマイア・シブタニ/アレックス・シブタニが振り付けたプログラムということもあり、アイスダンスの要素が多く散りばめられています。

エル・フラメンコ

真央さん以外の全員で演技。スケートと陸上ダンスとタップダンスのコラボが超豪華!そして柴田さんはタンゴメドレーで2曲演技してからの連続。ものすごい体力だと思いました。

様々な「エル・フラメンコ」の表現が楽しめます。男性スケーターの力強い表現、女性スケーターの力強くかつしなやかさを兼ね備えた表現、そして、Seishiro先生のダンスでのフラメンコの表現、HideboH先生のタップダンスでのフラメンコの表現です。どこを見れば良いのかわからないくらい豪華絢爛なプログラムでした。

ボレロ

真央さんのソロ演技。2つ目の新プログラムは、ファンが決める浅田真央に演じてほしいプログラム第1位である「ボレロ」でした。エル・フラメンコが終わるとすぐに、本当に小さな音でボレロのリズムが刻まれ始めると観客全員が息を飲みます。

浅田真央の「ボレロ」。このプログラムの面白さは、あたかも正統派ボレロのようなふりをしていますが、むしろボレロの表現としてはかなり異端なことでしょう。

冒頭コンパルソリーを行うようにして演技を開始すると、中盤以降の振り付けはフィギュアスケートで通常見られる振り付けはほとんど見られません。コンテンポラリーダンスを踊っているかのようです。そして、敢えて曲から外した動きが散見されます。この手法は完全にSeishiro先生の作品の手法なんですよね。それでいて、溢れ出るパッションはまるでフラメンコを踊っているかのよう。

初見ではパンフレットを見ずに演技を観てSeishiro先生振り付けだろうと予想しましたが、真央さんと彼女の姉・舞さん振り付けだということでとても驚きました。こんな作品を作れるのなら、今すぐに振付師になった方が良い。

まさに圧巻のパフォーマンスでしたね。拍手の音さえ出すことがためらわれるような凄みがあり、会場すべてが真央さんに支配されているような感覚さえありました。そして演技が終わると、観客席からはずっと堪えてきた大きな拍手と歓声が上がりました。

ローズ

「Everlasting33」のテーマのキーワードでもある「33本の薔薇」。最後に薔薇の花びらが舞う会場はとても美しく、この「永遠」に続くように思われた夢のようなアイスショーが終わることを否応なしに思い知らされました。

物事には始まりがあれば、終わりもある。それはこの「Everlasting33」も同じこと。ただ、出来るだけ多くの人の記憶に、記録にこのアイスショーが「永遠」に残り続けるようにと願わずにはいられませんでした。

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この記事を書いた人

ただのフィギュアスケートファン。フィギュアスケート現地観戦し始めて10年前後。現在も日本国内の大会・アイスショーに出没しています。
このブログでは現地観戦の感想、日々感じたことをのんびり書いています。

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