北京五輪に至るまで(2022年2月)
ロシア選手権におけるドーピング検査(2021年12月)
シニアデビューシーズンであり北京オリンピックシーズン。
シーズン序盤から他選手を圧倒する成績を出しており、ロシア選手権でも勢いそのままに優勝。
優勝者としてドーピング検査を受ける。
ヨーロッパ選手権優勝(2022年1月)
ヨーロッパ選手権でもSP・FSともに1位となり完全優勝を果たす。
ドーピング陽性発覚(2022年2月4日~7日)
北京オリンピック団体戦優勝(2022年2月7日)
北京オリンピック開幕。ワリエワは団体戦に出場。
出場選手は各カテゴリ個人戦出場選手から選ぶことができ、ロシアオリンピック委員会(ROC)は、女子シングルの選手として、アンナ・シェルバコワ、アレクサンドラ・トゥルソワ、カミラ・ワリエワの3人いずれかを出場させることが可能だったが、ワリエワを団体戦の出場者として選んだ。
全カテゴリのうち、2種目までは予選(SP)・決勝(FS)で選手を入れ替えることができる。しかし、ROCは選手入れ替えを行わず、予選・決勝ともにワリエワを女子シングルの出場選手とした。
最終結果としては、ROCが2位のアメリカに9ポイント差をつける圧勝で金メダルとなった。
ドーピング陽性結果の判明(2022年2月7日)
ロシア選手権(2021年12月)で実施されたドーピング検査の検体がストックホルムの研究所で検査された結果、禁止物質であるトリメタジンが検出される。
ただし、このドーピング検査の陽性結果が出るまでに通常よりも時間を要したことが、スポーツ仲裁裁判所(以下、CAS)、ロシア反ドーピング機関(以下、RUSADA)によって指摘されている。この点について、世界ドーピング防止機構(以下、WADA)は、ワリエワの検体を迅速に検査すべきと研究所は知らされていなかったという情報を得たと述べている。
※この時点では、ドーピング陽性情報は外部に漏れていない。
団体戦メダルセレモニーの延期(2022年2月7日)
ワリエワのドーピング陽性を受けて、2022年2月7日に予定されていた団体戦メダルセレモニーの延期が決定。
この時点でも、IOCからは「本日、問題が生じていると突然連絡があった。国際スケート連盟と法律相談が必要」になったという発言にとどまっていた。
ワリエワの北京五輪取り扱い決定(2022年2月8日~17日)
RUSADAによる暫定的資格停止処分と解除(2022年2月8日~9日)
ドーピング陽性結果を受けて、RUSADAはワリエワに対して在廷的に資格停止処分を出した。
ワリエワはロシア アンチ・ドーピング懲罰委員会(以下、DADC)に異議申し立てを行い、DADCはワリエワの暫定的資格停止処分を解除した。
このDADCの決定に対して、WADA、ISU、IOCからの異議が唱えられた。
RUSADAによる公式公表(2022年2月11日)
団体戦のメダルセレモニーの延期以降、メディアによる報道が続いていたことを受けて、RUSADAが現在のワリエワの置かれた状況について公式コメントとして発表。ここまでに記載の事項について発表した上で、現在も係争中であることを述べた。
CASによる暫定的出場停止処分を拒否(2022年2月17日)
DADCによるワリエワの暫定的資格停止処分の解除に対して、IOC、WADA、ISUの三機関は異議を申し立てCASに申請したものの、この異議申し立てはCASによって拒否された。結果として、ワリエワは北京オリンピックでの競技出場が継続できることが決定した。
CASがこの決定をした理由としては以下のとおり。
- ワリエワは15歳という「保護対象」者であること。
- 世界アンチ・ドーピング規程、RUSADAのアンチ・ドーピング規定において、「保護対象」者に対する暫定的な出場停止処分が明確に規定されていないこと。
- この状況下で、オリンピックでの競技を妨げられることが、ワリエワにとって修復不可能な損害を与えること。
- 2021年12月ロシア選手権でのドーピング検査の結果通知が遅れたという深刻な問題があり、これはワリエワの過失ではないこと。
ただし、ここでの決定はワリエワに対して、暫定的資格停止処分を課すかどうかという点に関する決定のみである。例えば、ワリエワがアンチ・ドーピング規定を違反したのか、団体戦の結果がどのようになるのか等については検討対象とはなっていない。
IOC 個人戦におけるワリエワの取り扱いを発表(2022年2月14日)
CASによる決定を受けて、ワリエワは女子シングル個人戦に出場することが可能となった。
IOCは個人戦におけるワリエワの取り扱いについて以下のとおり発表した。
- ドーピング検査におけるAサンプルが陽性であるが、アンチ・ドーピング規定違反が確立していない選手(=ワリエワ)が表彰対象となっているため、全選手に対する公平性の観点から、団体戦のメダルセレモニーを開催することは適切でない。
- ワリエワが女子シングル個人戦で3位以内に入った場合は、フラワーセレモニー、メダルセレモニーは開催しない。
- ISUに対して、公平性の観点から、ワリエワが女子シングル個人戦のSPで上位24以内に入った場合、FS進出者を上位24位以内の選手ではなく、25位以内の選手とするよう要請する。
- ワリエワの一件が決着した時点で、メダルセレモニー開催する。
北京オリンピック個人戦(2022年2月15日~17日)
個人戦に出場。SPではミスがありながらも首位発進するも、FSでは精彩を欠き5位となる。
本命視されていたが、総合でも4位となりメダル獲得を逃した。
なお、この順位は暫定順位とされている。
RUSADAによるワリエワの取り扱い決定(2022年3月~2023年1月)
RUSADA ワリエワの取り扱いについて機密扱いと公表(2022年10月21日)
RUSADAはワリエワが2021年12月ロシア選手権当時「保護対象」であることから、彼女の取り扱いの最終結果や、決定プロセスを含めてすべてが機密事項になるとした。
WADA、RUSADA・ワリエワに対して提訴(2022年11月14日)
WADAはRUSADAとワリエワに対して、以下の内容の提訴を行った。
- RUSADAに対して、ワリエワの一件について早期に決定を下すよう求めた。
- ワリエワに対して、2021年12月25日から4年間の資格停止処分+同日以降のすべての競技結果の失格を求めた。
RUSADAによるワリエワの取り扱い決定(日程不明)
2023年1月13日、WADAはRUSADA※によるワリエワの取り扱いについて、公表した上で批判。
RUSADA※の決定としては、ワリエワはドーピング陽性反応は出たものの、本人に過失はなかった。そのため、ドーピング検査を実施した2021年12月25日におけるロシア選手権の競技結果(=優勝)については失格となるが、その他の罰則は課さないことにした。
このRUSADA※の決定に対して、WADAはCASへの提訴も厭わないとした。
※のちのCASの文書から、ここでのRUSADAはDADCのことを指していると思われる。
公聴会と処分決定(2023年2月21日~現在に至るまで)
関係三機関による提訴(2023年2月22日)
2023年2月24日、RUSADA、ISU、WADAの三機関によって行われた提訴を登録したことをCASは発表した。
三機関による提訴内容としては以下のとおり。
- ISU:ワリエワに対して、2021年12月25日(ロシア選手権におけるドーピング検査日)から4年間の資格停止処分+期間中の競技成績の失格を求める。
- WADA :ISUと同様
- RUSADA※:過失はあるが重大な過失なしとして、軽微な罰則を求める。
※RUSADA懲戒委員会は過失なしにより罰則なしと判断しているが、RUSADAは当該判断に対して、過失はあるが重大な過失なしと判断している。
公聴会(2023年9月27日~29日)
CAS本部が設置されているスイス・ローザンヌで、2023年9月26日~28日に公聴会の開催。
本件に関係する三機関がそれぞれCASに対して提訴を行っており、その提訴に対する審議が行われる。
公聴会の延期発表(2023年9月29日)
2023年9月26日~28日の公聴会において、当事者(RUSADA、ISU、WADA、ワリエワ)、専門家、証人から聴取した結果、追加文書の提出を命じた。追加文書の作成・検討の時間確保のため、公聴会を2日間延長を決定。
追加公聴会(2023年11月9日~10日)
2023年11月9日~10日に、2日間延長された分の公聴会が開催された。
処分発表(2024年1月29日)
2024年1月29日にCASが処分が発表。内容は以下のとおり。
- ワリエワはアンチ・ドーピング規則違反が認められる。
- ドーピング検査陽性だった2021年12月25日から4年間の資格停止処分が課せられる。
- 2021年12月25日以降の競技成績はすべて失効する。ただし、その遡及失効については、各団体において今後検討することとする。
- 本判定が最終的な判断となる。
- 本仲裁裁判に不服がある場合は、30日以内にスイス連邦最高裁判所に対して上訴することが出来る。
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