2024年フィギュアスケート界にひっそりと大きなニュースが飛び込んできました。5回転ジャンプの基礎点がついに決定されたのです。この決定がどのようにして決定されたのか、競技会にどのような影響を与えるのかを詳しく考察します。
5回転ジャンプの基礎点
基礎点の発表
2024年7月に発表されたフィギュアスケートの各要素基礎点一覧には、これまで記載がなかった5回転ジャンプに関する記載が新たに追加されました(該当リンク)。5回転ジャンプはこれまで基礎点が決定されておらず、仮に競技会で成功させたとしても0点になるジャンプでしたが、2024-25シーズンから5回転ジャンプが競技会で解禁されることになります。
かなり大きな変更点ですが、国際スケート連盟(ISU)が、5回転ジャンプについて検討しているような素振りはこれまで見られませんでした。そして、今回の発表も5回転ジャンプについて大々的にアピールをしているわけではなく、毎年発表している資料にひっそりと5回転ジャンプの記載を追加するという発表でした。
基礎点の詳細
5回転ジャンプの基礎点は、全ての種類のジャンプで14.00点と設定されました。これは、以下2点で異例の基礎点だと言えます。
- 同一回転におけるジャンプの種類の難易度で基礎点に差をつけていない。
- 4回転アクセルの基礎点(12.5点)を鑑みると、さほど基礎点が高くない。
1回転~4回転ジャンプであれば、アクセル>ルッツ>フリップ>ループ>サルコー>トーループの順で基礎点が設定されています。同一回転であり、全種類のジャンプの基礎点が同じなのは5回転のみです。
また、1回転アクセル(基礎点:1.10点)と2回転トーループ(基礎点:1.30点)の基礎点差が0.2点、2回転アクセル(基礎点:3.30点)と3回転トーループ(基礎点:4.20点)の基礎点差が0.9点、3回転アクセル(基礎点:8.00点)と4回転トーループ(基礎点:9.50点)の基礎点差が1.5点です。これらを踏まえると、4回転アクセル(基礎点:12.50点)と5回転トーループ(基礎点:14.00点)の基礎点差は1.5点であり、5回転ジャンプの基礎点はそれほど高いとは言えません。
ISUの意図
この基礎点の設定には、ISUの意図が反映されていると考えられます。5回転ジャンプ基礎点の発表を大々的に行っておらず、基礎点自体もさほど高く設定していません。
アメリカのイリア・マリニン選手による4回転アクセル成功を受けて5回転ジャンプの基礎点を設定したものの、ISUは選手たちに5回転ジャンプへの挑戦を奨励しているわけではないようです。高難度ジャンプは選手の身体に大きな負担をかけるため、ISUは安全性を重視し、慎重な姿勢を取っていると思われます。
5回転ジャンプ解禁の影響
選手の身体的負担
5回転ジャンプはそれまでのジャンプとは一線を画す難易度の高さです。そもそも4回転アクセル自体が、成功者がイリヤ・マリニン選手しかいません。挑戦者もマリニン選手の他は既に現役を退いた羽生結弦さんくらいです。4回転アクセルですら難易度が非常に高く、身体への負担がとても大きいジャンプです。さらに半回転多く回転する5回転ジャンプの難易度が高く、身体への負担が大きいことは容易に想像できます。
競技会への影響
難易度の高さ、身体への負担の大きさを鑑みると、現在の世界トップ選手の多くは5回転ジャンプへの挑戦を視野に入れないものと考えられます。現在のノービス世代、さらにその下の年齢の世代の選手達が、中長期的な計画に基づいて強化してきた時に5回転ジャンプ挑戦者が登場するのではないでしょうか。しばらくは5回転ジャンプ解禁の影響はさほどないように思われます。
仮に、現在のトップ選手で5回転ジャンプの可能性があるのは、余裕を持って4回転ジャンプを回転しているイリヤ・マリニン選手、鍵山優真選手、佐藤駿選手、三浦佳生選手辺りでしょうか。
まとめ
フィギュアスケートにおける5回転ジャンプの基礎点の決定は、5回転ジャンプ解禁を意味します。しかし、5回転ジャンプ解禁を決定したISUは選手が5回転ジャンプを跳ぶことを望んでいるようには見えず、5回転ジャンプに挑戦するような選手が登場するような状況下にもありません。仮に5回転時代が訪れるとしてももうしばらく先のことになるでしょう。
しかし、10年前、ソチオリンピックの頃には、4回転アクセルはもちろんのこと、4回転ルッツ、フリップ、ループをここまで多くの選手が跳ぶことが出来るようになるとは誰も思わなかったでしょう。予想に反して、すぐに5回転時代が訪れることもあるかもしれませんね。