この記事では、男子シングルショートプログラムにおける歴代トップ10の選手のプログラムをご紹介しています。
第1位 ネイサン・チェン
- 氏名:ネイサン・チェン(アメリカ)
- プログラム:ラ・ボエーム
- 大会:2022年北京オリンピック
- 総得点:113.97
- 技術点(TES):65.98
- 演技構成点(PCS):47.99
2023~24シーズン終了時点、男子シングルショートプログラムにおける世界最高得点は、2022年北京オリンピックでネイサン・チェンが記録した113.97点です。
4年前の2018年平昌オリンピックでは優勝候補の一角として登場したものの、ショートプログラムでミスが続きまさかの17位。フリースケーティング1位と追い上げたものの、総合5位でありメダルに届きませんでした。世界最高得点を記録した2022年北京オリンピックでの演技は、まさに4年前の悪夢を完全に払拭する演技でした。
何と言ってもジャンプ構成の難易度の高さが目を引きます。演技冒頭に4回転フリップ、トリプルアクセルを跳び、演技後半に4回転ルッツ+3回転トーループのコンビネーションジャンプを跳びます。4回転アクセルを入れるか、コンビネーションジャンプを4回転ジャンプ+3回転ループにしない限り、彼のジャンプ構成を上回ることが出来ません。後述するイリヤ・マリニンが4回転アクセルを跳んでいるものの、常人には現実的ではありません。現実的に想定できる最高難易度のジャンプ構成がネイサン・チェンのジャンプ構成だと言えるでしょう。
ジャンプ以外にも、スピン・ステップもオールレベル4であり、GOEも最高の+5に近い評価を得ています。また、演技構成点も1項目を除き9点台後半でまとめています。あらゆる要素において隙が無い演技でした。
第2位 羽生結弦 2020年四大陸選手権
- 氏名:羽生結弦(日本)
- プログラム:バラード第一番
- 大会:2020年四大陸選手権
- 総得点:111.82
- 技術点(TES):63.42
- 演技構成点(PCS):48.40
男子シングルショートプログラムにおける世界歴代2位は、2020年四大陸選手権で羽生結弦が記録した111.82点です。
2019~20シーズンは他の曲を使用していましたが、この四大陸選手権から急遽変更し、かつて使用していた「バラード一番」に戻しました。彼はこのプログラムを非常に好んでおり、初めて採用した2014~15シーズン以降、度々自らのプログラムに採用しています。
彼は、2020年四大陸選手権で優勝したことにより、オリンピック、世界選手権、グランプリファイナル、四大陸選手権もしくはヨーロッパ選手権、世界ジュニア選手権、ジュニアグランプリファイナルの主要6大会すべてを制したスーパースラムを達成しました。なお、スーパースラムを達成しているのは、男子シングルでは彼のみ、女子シングルでは、キム・ヨナとアリーナ・ザギトワのみです。
ネイサン・チェンの世界最高得点と比較して見てみましょう。ジャンプ構成ではネイサン・チェンは基礎点36.27点、羽生さん32.20点と4点の差がついています。この差をその他の要素で埋めていき、最終的に技術点の差を2点差でおさえたのは驚異的です。また、演技構成点の高さも目を引きます。あらゆる側面から見て、質が非常に高い演技だったと言えるでしょう。
第3位 宇野昌磨 2022年世界選手権
- 氏名:宇野昌磨(日本)
- プログラム:オーボエ協奏曲ニ短調
- 大会:2022年世界選手権
- 総得点:109.63
- 技術点(TES):62.36
- 演技構成点(PCS):47.27
男子シングルショートプログラムにおける世界歴代3位は、2022年世界選手権で宇野昌磨が記録した109.63点です。
北京オリンピック直後の世界選手権であり、ネイサン・チェン、羽生結弦が不在の中、北京オリンピック銀メダリストである鍵山優真との一騎打ちを制して世界選手権初優勝を果たした大会です。
彼の武器となる4回転フリップはさることながら、コンビネーションジャンプのセカンドジャンプを3回転にできたことは非常に大きかったです。彼はコンビネーションジャンプのセカンドジャンプを、確実に跳ぶために2回転に抑えることが多く、伸びしろを残していました。今大会では、セカンドジャンプを3回転にすることが出来た点が非常に大きかったです。
第4位 鍵山優真 2022年北京五輪
- 氏名:鍵山優真(日本)
- プログラム:When You’re Smiling
- 大会:2022年北京オリンピック
- 総得点:108.12
- 技術点(TES):60.91
- 演技構成点(PCS):47.21
男子シングルショートプログラムにおける世界歴代4位は、2022年北京オリンピックで鍵山優真が記録した108.12点です。
オリンピック初出場。シーズン始めは笑顔をなくしてしまうこともありましたが、北京オリンピックではプログラム曲のタイトルのように笑顔が非常に印象的でした。キスアンドクライで点数発表された時のリアクションも、あまりにかわいすぎると話題になっていました。
何と言っても全要素を高い質で実施していることが目を引きます。また、ステップシークエンスがレベル3に留まっているため、まだ点数の伸びしろは残しています。ジャンプ構成についても、4回転ルッツ、4回転フリップを投入することは可能であり、今後世界歴代最高得点を更新する可能性は十分にあります。
歴代2位・3位の羽生・宇野両氏は現役引退を発表、歴代1位のネイサン・チェンも北京オリンピックを最後に競技会には出場しておらず、競技生活をストップさせています。鍵山のスコアは現役選手のパーソナルベストでは最も高得点となります。
第5位 イリヤ・マリニン 2023年グランプリファイナル
- 氏名:イリヤ・マリニン(アメリカ)
- プログラム:Malagueña
- 大会:2023年グランプリファイナル
- 総得点:106.90
- 技術点(TES):62.53
- 演技構成点(PCS):44.37
男子シングルショートプログラムにおける世界歴代5位は、2023年グランプリファイナルでイリヤ・マリニンが記録した106.90点です。
彼は歴史上で唯一の4回転アクセル成功者ですが、これまではフリースケーティングのみで4回転アクセルを跳んでいました。ショートプログラムに初めて4回転アクセルを入れたのが、2023年グランプリファイナルです。
男子シングルのショートプログラムでは、2連続のコンビネーションジャンプ、単独ジャンプ、単独のアクセルジャンプがジャンプの要件となっています。しかし、単独のアクセルジャンプとして認められるのは3回転もしくは2回転であり、4回転アクセルは認められていません。そのため、4回転アクセルをショートプログラムに入れることはできないというのが一般的な認識でした。
しかし、4回転アクセルを単独ジャンプとして、3回転アクセルを単独のアクセルジャンプとして跳ぶことで、男子ショートプログラムにおいて4回転アクセル投入が可能であることを証明した演技でした。
第6位 ドミトリー・アリエフ 2019年ネペラ・メモリアル
- 氏名:ドミトリー・アリエフ(ロシア)
- プログラム:Je Dors Sur Des Roses
- 大会:2019年ネペラ・メモリアル
- 総得点:101.49
- 技術点(TES):58.19
- 演技構成点(PCS):43.30
男子シングルショートプログラムにおける世界歴代6位は、2019年ネペラ・メモリアルでドミトリー・アリエフが記録した101.49点です。
4回転ルッツと4回転トーループ、2本の4回転ジャンプを成功させた上で、そのほかの要素も高いレベルで実施していることがわかります。彼にとって唯一のショートプログラム100点越えの演技となりました。
当時のフィギュアスケート界は、女子シングルでアレクサンドラ・トゥルソワ、アンナ・シェルバコワ、アリョーナ・コストルナヤの3人がシニアデビュー。表彰台を総なめにしていたため、ロシアの男子シングルは影が薄くなりがちでしたが、十分にレベルが高かったと言えるでしょう。
第7位 チャ・ジュンファン 2023年国別対抗戦
- 氏名:チャ・ジュンファン(韓国)
- プログラム:マイケル・ジャクソンメドレー
- 大会:2023年国別対抗戦
- 総得点:101.33
- 技術点(TES):54.70
- 演技構成点(PCS):46.63
男子シングルショートプログラムにおける世界歴代7位は、2023年国別対抗戦でチャ・ジュンファンが記録した101.33点です。なお、国別対抗戦の動画が見当たらなかったため、世界選手権の動画になっています。こちらも99.64点のハイスコアを記録しています。
ジュンファンは2023年国別対抗戦の直前に開催された世界選手権において、韓国男子史上初のメダルを獲得。その勢いのまま国別対抗戦に乗り込んできて素晴らしい演技を披露しました。
他の歴代10位以内の選手と大きく異なる点が、彼が4回転ジャンプを1本しか入れていないという点です。代わりに3回転ルッツ+3回転ループという、セカンドジャンプに3回転ループを入れる珍しいジャンプを跳んでいます。セカンドジャンプに3回転トーループを跳ぶ場合とは異なり、ファーストジャンプを着氷した足のまま即座にもう一度踏み切る必要があるので難易度が高く、あまり取り組んでいる選手はいません。
4回転ジャンプ以外のジャンプ、高く評価されている演技構成点でもスコアを伸ばし、100点越え、世界歴代7位のスコアを叩き出しました。
第8位 友野一希 2022年世界選手権
- 氏名:友野一希(日本)
- プログラム:ニューシネマパラダイス
- 大会:2022年世界選手権
- 総得点:101.12
- 技術点(TES):57.38
- 演技構成点(PCS):43.74
男子シングルショートプログラムにおける世界歴代8位は、2022年四大陸選手権で友野一希が記録した101.12点です。
2022年北京オリンピックと世界選手権の最終代表選考会である2021年全日本選手権では、友野一希は5位となり、オリンピック・世界選手権ともに第2補欠となりました。しかし、世界選手権では、代表に選出されていた羽生結弦が怪我の影響で出場辞退、第1補欠だった三浦佳生も怪我により出場辞退したことで、第2補欠だった友野一希まで世界選手権出場枠が回ってくることになりました。
第2補欠という立場であり、決して十分な準備ができたとは言えないと推測できますが、その状況下でパーソナルベストとなるスコアを叩き出す完璧な演技を披露。彼は代打での出場時に好成績を多く出していることから、「代打の神様」と呼ばれる所以にもなっています。(ちなみに、この翌年には代打ではない形で世界選手権の代表を掴み、「脱・代打の神様」を実現しました。)
彼は2018年世界選手権フリースケーティングで3位でありスモールメダルを持っていますが、今大会ショートプログラムでも3位となりスモールメダルを獲得することが出来ました。彼もまだ現役であり、次は総合でのメダル獲得が期待されます。
第9位 ボーヤン・ジン 2019年ロンバルディアトロフィー
- 氏名:ボーヤン・ジン(中国)
- プログラム:First light
- 大会:2019年ロンバルディアトロフィー
- 総得点:101.09
- 技術点(TES):60.44
- 演技構成点(PCS):40.65
男子シングルショートプログラムにおける世界歴代9位は、2019年ロンバルディアトロフィーでボーヤン・ジンが記録した101.09点です。
彼の武器である4回転ルッツはさることながら、ジャンプ先行型だったボーヤンが演技者としても成長してきていることが感じられる演技でした。演技構成点では1項目を除いてすべて8点台でまとめています。
最近は病気やケガにより精彩を欠いた演技が多くなり、なかなか彼の良い演技を観ることが出来なくなりました。しかし、今もまだ彼は現役生活を続行しています。競技生活を続けている限り、再びトップ争いに帰ってくる可能性はあります。復活を期待したいところです。
第10位 アダム・シャオ・イム・ファ 2023年グランプリシリーズフランス大会
- 氏名:アダム・シャオ・イム・ファ(フランス)
- プログラム:The Prophet
- 大会:2023年グランプリシリーズ フランス大会
- 総得点:101.07
- 技術点(TES):57.70
- 演技構成点(PCS):43.37
男子シングルショートプログラムにおける世界歴代10位は、2023年グランプリシリーズフランス大会でアダム・シャオ・イム・ファが記録した101.07点です。
2022~23シーズンもトップ選手の1人ではあったものの、さほど目立つ存在ではありませんでした。しかし、2023~24シーズンに一気に才能が開花。一気に世界の表彰台争いに入ってきました。とくに、4回転ルッツが安定したこと、ブノワ・リショーによる個性的なプログラムが大きくプラスになりました。
片手側転や、ショートプログラムでは実施していませんがバックフリップ等、アクロバティックな技とフィギュアスケートを融合させた演技を見せてくれます。今後が楽しみな選手です。
まとめ
本記事では、フィギュアスケート 男子シングルショートプログラムにおける歴代10位の選手とプログラムをまとめました。
男子シングルショートプログラムにおける100点越えの選手はあと3人おり、11位ケビン・エイモズ(フランス)の100.58点、12位ヴィンセント・ジョウ(アメリカ)の100.51点、13位ミハイル・コリャダ(ロシア)の100.49点です。100点越えの選手を国別で見ると、日本4人、アメリカ3人、フランス・ロシアは各2人、中国・韓国は各1人と、かなり偏りがあります。
今後、新たなルール改正までにネイサン・チェンの世界最高得点を更新する選手は現れるのか、注目したいと思います。