皆さん、こんにちは。
2025年世界選手権女子シングルは、復帰したアリサ・リウ選手の衝撃的な優勝をはじめ、見どころやドラマが満載でした。上位を占めたアメリカと日本の強さはもちろん、オリンピック代表枠争いも含め、今後の展開がますます楽しみになる大会でした。
ここでは各選手の感想、オリンピック代表枠の行方などをまとめています。ぜひ最後までご覧ください。
最終順位
Rank | Name | Nation | Points | SP | FS |
---|---|---|---|---|---|
1 | Alysa LIU | USA | 222.97 | 1 | 1 |
2 | Kaori SAKAMOTO | JPN | 217.98 | 5 | 2 |
3 | Mone CHIBA | JPN | 215.24 | 2 | 3 |
4 | Isabeau LEVITO | USA | 209.84 | 3 | 5 |
5 | Amber GLENN | USA | 205.65 | 9 | 4 |
6 | Wakaba HIGUCHI | JPN | 204.58 | 4 | 6 |
7 | Nina PINZARRONE | BEL | 199.43 | 8 | 7 |
8 | Niina PETROKINA | EST | 196.67 | 12 | 8 |
9 | Haein LEE | KOR | 194.36 | 7 | 10 |
10 | Chaeyeon KIM | KOR | 194.16 | 11 | 9 |
11 | Madeline SCHIZAS | CAN | 190.79 | 6 | 11 |
12 | Kimmy REPOND | SUI | 183.33 | 10 | 15 |
13 | Lara Naki GUTMANN | ITA | 181.97 | 14 | 12 |
14 | Sofia SAMODELKINA | KAZ | 181.36 | 13 | 13 |
15 | Lorine SCHILD | FRA | 177.90 | 15 | 14 |
16 | Mariia SENIUK | ISR | 167.10 | 19 | 16 |
17 | Olga MIKUTINA | AUT | 165.82 | 17 | 19 |
18 | Linnea CEDER | FIN | 165.50 | 20 | 17 |
19 | Julia SAUTER | ROU | 162.61 | 16 | 20 |
20 | Ekaterina KURAKOVA | POL | 162.49 | 21 | 18 |
21 | Alexandra FEIGIN | BUL | 158.55 | 18 | 21 |
22 | Kristen SPOURS | GBR | 153.75 | 22 | 22 |
23 | Livia KAISER | SUI | 146.90 | 23 | 23 |
24 | Meda VARIAKOJYTE | LTU | 139.81 | 24 | 24 |
Final Not Reached | |||||
25 | Nargiz SUELEYMANOVA | AZE | 50.97 | 25 | – |
26 | Vanesa SELMEKOVA | SVK | 49.55 | 26 | – |
27 | Xiangyi AN | CHN | 47.52 | 27 | – |
28 | Anastasiia GUBANOVA | GEO | 47.31 | 28 | – |
29 | Mia RISA GOMEZ | NOR | 46.43 | 29 | – |
30 | Sofja STEPCENKO | LAT | 45.93 | 30 | – |
31 | Ahsun YUN | KOR | 41.08 | 31 | – |
32 | Julija LOVRENCIC | SLO | 40.95 | 32 | – |
33 | Anastasia GOZHVA | UKR | 37.54 | 33 | – |
各選手感想
■優勝:アリサ・リウ
今大会最大のサプライズは、なんといってもアリサ・リウ(USA)の復活優勝です。
ノービス時代に史上最年少での全米選手権優勝。この全米選手権というのはノービスの大会でもなく、ジュニアの大会でもなくシニアの全米選手権です。いわば2階級飛び級で全米選手権に出場して優勝してしまいました。結果として、彼女がジュニアデビューする頃には「全米女王のジュニアデビュー」とかいう意味不明なワードが飛び交うことに。
その後、4回転ルッツとトリプルアクセルを武器にキャリアを重ね、2021~2022シーズンにシニアデビュー。2022年北京オリンピック出場後、2022年世界選手権では銅メダル獲得。ここからさらに!というタイミングで現役を電撃引退。その後はアイスショーにもほとんど出演せず、完全に普通の一般人としての生活を楽しんでいました。
その後、2024~2025シーズンに電撃引退からの電撃復帰には多くのファンが驚かされたでしょう。私も復帰するとは思いもしませんでした。そして迎えた2025年地元アメリカ開催の世界選手権。
周囲が坂本花織選手やアンバー・グレン選手、キム・チェヨン選手が優勝候補として注目される中、彼女は「ノープレッシャー」という言葉通りに、ショートプログラムからフリースケーティングまでひたすら大会を楽しんでいました。本人も「10位以内に入れれば良いかな~」と思っていたようですね。
今大会はオリンピック出場枠もかかっていたため、例年以上に順位に拘る選手が多いなか、順位を気にしている素振りも見せずスケートを楽しんでいたことが印象的でした。
そして、ショートプログラム、フリースケーティング共に1位の完全優勝で世界選手権初優勝。この展開を予想できた人はいなかったでしょう。彼女はどちらかと言うとジャンプの回転不足が多いタイプでしたが、今大会はどのジャンプも完璧。文句なしの優勝でした。
■2位:坂本花織
日本のエース、坂本花織選手(JPN)は惜しくも銀メダル。
2022年から続く世界選手権4連覇という偉業に挑んだものの、ショートで3回転フリップ+3回転トーループが2回転フリップ+3回転トーループになる痛恨のミス。フリーでも得点源のジャンプでいくつか回転不足(UR、q)を受けてしまいました。
何よりも、彼女の爆走スケートが良い時よりも抑え目だったように感じました。特にショートで顕著でしたが、普段の8割くらいの出力で滑っているような印象を受けました。
これはおそらくですが、北米リンクということもあり、通常の競技用リンクよりもサイズが小さかったことが影響しているのでしょう。普段通り滑ってしまうとリンクの壁にぶつかってしまうので、調整しながら滑っているようにも見えました。ただ、その分だけ演技構成点(PCS)のジャッジ評価も普段より抑え目になりました。
今シーズンの坂本選手は、ジャンプ構成を難しくしただけでなく、プログラム構成の難度を一気に上げ、「これはステップ? それとも要素間の繋ぎ?」とツッコミたくなるほど、どの場面を切り取っても見ごたえのあるプログラムに仕上げています。
当然ながら難易度も上がるので、ミスや取りこぼしも増えてしまいますが、来シーズンもこの路線を継続してほしいと思います。昨シーズンまでのジャンプ構成、プログラム構成だと比較的安定して230点前後のスコアは出せるでしょう。
ただ、来シーズンはミラノオリンピックにロシアから1名が出場する可能性があります。そして、その選手は何らかのトラブルがない限り、現ロシア女王のアデリア・ペトロシャン選手でしょう。国際大会に長く出場していないため評価はわからないところはありますが、彼女なら240~260点は出してくるはずです。
となると、坂本選手も取れる点数に波はあるかもしれないけれど、完璧に演じることが出来れば240点オーバーを出せる確率がより高い今の路線で勝負してほしいと思います。
■3位:千葉百音
千葉百音選手(JPN)が初の世界選手権メダルとなる銅メダルを獲得。
ショート2位という好スタートから、フリーでも最後の最後まで集中力を切らさないパフォーマンスを披露しました。演技終了後、「もしかして逆転優勝もあるのでは?」という空気が漂いましたが、細かい回転不足の判定などが重なり、結果的には3位。
ジャンプの回転という点は彼女の長年の課題ですね。個人的には、両手を上げてジャンプを跳ぶタケノコ化はしない方が良いと思います。これをすることでジャンプの軸をより細くするという技もありますが、彼女は元々ジャンプの軸が細いので、タケノコ化することで普段よりもジャンプの軸が若干太くなり、結果として回転速度が落ち回転が足りなくなっているように見えるためです。
とはいえ210点台を安定して出せる千葉選手の強みは、今大会でも十分に発揮されました。全体として大崩れしないメンタルと技術は今後の大きな武器になるでしょう。世界の頂点が視野に入った大会になりました。
これは余談ですが、彼女は今シーズン4回転トーループについて度々言及しています。4回転を跳ぶなら、折れ線で跳びましょう。
■4位:イザボー・レビト
今シーズンはグランプリシリーズ1戦目に出場したあと、2戦目を棄権し、さらに全米選手権も棄権という苦しい展開が続きました。そんな中、2026年ミラノオリンピックのプレ大会で何とか復帰し、そこからぎりぎりの調整で世界選手権に臨むという、まさに綱渡りのシーズンとなりました。
しかし、最終的には世界選手権で4位。昨年の世界選手権銀メダリストではありますが、昨年の銀メダルよりも価値のある4位だったのではないでしょうか。
スケーティングスキルや表現力の高さは折り紙付き。フリーでは冒頭いきなりの転倒でかなり動揺したと思いますが、その後は転倒なんかなかったかのように立て直しました。本当にさすがの一言です。
■5位:アンバー・グレン
今シーズンはグランプリファイナルで坂本選手を破って金メダルを獲得。全米選手権でも優勝。25歳にして最も充実したシーズンを送っており、勢いに乗っていた選手のひとりでした。本人も当然、地元開催の世界選手権で優勝を狙っていたことでしょう。
しかし、ショートプログラムではトリプルアクセル転倒。まさかのミスが出てしまい、9位発進。その悔しさをフリーのトリプルアクセル成功で取り返すという気迫の演技を見せ、順位を一気に5位まで上げてきたのはさすがです。
とはいえ、細かな取りこぼした散見され、表彰台にはあと一歩届きませんでした。これが優勝候補の一人として挑む世界選手権の恐ろしさでしょうか。
それにしても、長洲未来さん、そしてアンバー・グレン選手と、アメリカ女子は20代中盤からでもトリプルアクセルを習得する例がちょこちょこ見られるのが興味深いですね。しっかりとフィジカルを鍛えれば、年齢を重ねても大技に挑戦できるというのは、アスリートにとって大きな希望になるのではないでしょうか。
■6位:樋口新葉
6位入賞は樋口新葉選手でした。今回は大会を通じて“良いオーラ”を放ち続けているように見え、個人的にはメダル獲得を期待していた選手でした。実際、彼女の演技は本当に素晴らしいもので、メダル級の演技だったとも言えるでしょう。まあ、それはここまで名前があがった選手全員に言えることでもありますが。
今大会では、ショートとフリーの両方に気迫と集中力がみなぎっていたように感じます。特にステップシークエンスでの演技力は圧巻で、彼女の表情を見て鳥肌が立ちました。
一方で、細かなミスや取りこぼしが積み重なってメダルには届きませんでしたが、彼女のプログラムはジャンプの配置やプログラム構成の巧妙さが見事です。
音楽構成的に、ここにこのジャンプを配置すると表現が良く見えるという構成を組んでいます。だからこそ、彼女の演技はプログラム全体のストーリーが観客に伝わりやすいのです。
ただ、メダルを獲得した3選手に比べると、ややプログラムそのものの構成が単調に感じられ、演技構成点に差が出てしまったのかもしれません。ここは来シーズンに向けて、彼女の長年の課題でしょうか。
■13位:ソフィア・サモデルキナ
かつてロシア代表として4回転ジャンプやトリプルアクセルを複数跳んでいたことで知られるソフィア・サモデルキナ選手。今シーズンからカザフスタン代表として活躍しています。
身長がかなり伸びた影響で、ロシア代表当時のように4回転やトリプルアクセルをバンバン決めるところまではまだ戻っていませんが、それでも元々のポテンシャルが非常に高いため、アクセル以外の3回転ジャンプは本当に簡単そうに跳んでいます。これは彼女の大きな強みでしょう。
今シーズンはスピンのレベルを大きく落としてきましたが、今大会ではしっかり修正してきました。着実に状態を戻してきています。
この様子を見ていると、来シーズンには4回転サルコーを復活させてくるでしょう。アメリカで名コーチ ラファエル・アルトゥニアンの指導を受けられるようになったのも大きなプラスです。ミラノオリンピックに向けて、まさに“ダークホース”になる存在ではないでしょうか。
■28位:アナスタシア・グバノワ
ショートプログラムでの大崩れが響き、フリーに進めませんでした。
実は世界選手権のショートとの相性が非常に悪く、今大会で4年連続出場ですが、4大会全てでショート終了時点で二桁順位となっています。残念ながら今大会も、全てのジャンプでミスが出てフリー進出が叶いませんでした。ヨーロッパ選手権では相性が良く金メダルと銀メダル2個を獲得していますが、世界選手権ではなかなか報われません。
グバノワ選手を長年応援する我々からすれば「ショートでジャンプ全ミス…見覚えが…。うっ頭が」という気持ちもあるでしょう。2017年ジュニアグランプリシリーズでも同じことがありました。いわゆる「ザルツブルクの悪夢」です。この経験があるからか、個人的には精神的ダメージは避けられました。とはいえ、こんな耐性はいらない。
オリンピック代表枠を確保することができず、来シーズンは予選会にまわることになってしまいました。ただ、シーズン初めのB級大会ではいつも調子が良いという傾向がありますし、普通に滑れば枠は確保できます。
ジョージアは4月の国別対抗戦に出場することになったので、国別対抗戦で名誉挽回したいところでしょう。
オリンピック代表枠:気になる各国の行方
今大会を終え、2026年ミラノオリンピックの女子シングル代表枠はほぼ確定しました。結果は下記の通りです。
- 3枠:
USA(アメリカ), JPN(日本) - 2枠:
KOR(韓国), SUI(スイス) - 1枠:
BEL(ベルギー)*
EST(エストニア)*
CAN(カナダ)
ITA(イタリア)
KAZ(カザフスタン)
FRA(フランス)
ISR(イスラエル)
AUT(オーストリア)
FIN(フィンランド)
ROU(ルーマニア)
POL(ポーランド)
BUL(ブルガリア)
GBR(イギリス)
LTU(リトアニア)
*印の国は予選会で追加枠獲得の可能性あり
アメリカと日本はトップ6を独占し、余裕をもって3枠を確保。韓国は2枠にとどまりましたが、来シーズンはシニアデビュー予定のジア・シン選手も加わり、イ・ヘイン選手、キム・チェヨン選手との代表争いが熾烈化する見込みです。
ベルギーは、エースのルナ・ヘンドリックス選手が棄権する中でニーナ・ピンザローネ選手が大健闘し、1枠+予選会枠を確保。
また、ロシア勢がオリンピック予選会に出場する見込みとなっています。おそらくロシア女王アデリア・ペトロシャン選手が出てくることになるでしょうが、ペトロシャン、ヘンドリックス、グバノワで予選会からの3枠は固いのではないでしょうか。実際としては、残る3枠を争うオリンピック予選会になりそうです。
ここから来シーズンに向かっていく…と思いきや、4月には最終戦である国別対抗戦があります。今大会で良い成績を残した選手は勢いを加速させ、良い成績を残せなかった選手は来シーズンに向けて良いイメージを作るためにも、国別対抗戦が良い大会になることを祈っています。