2022年ISU財務諸表を読む

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はじめに

先日、2022年のISU決算報告が行われ、財務諸表が公表されました。今後のフィギュアスケートのスポーツとしての展開にも関係してくる興味深い内容が含まれているので、今回の記事ではISU決算報告の文書の概要と気になる事項をピックアップしてみていきましょう。

公表された文書の原本はこちらです。

損益計算書

運営利益

2022年2021年前年比
TV放映権収入19,135,12215,062,4484,072,674
広告収入6,144,2461,157,3314,986,915
その他の収入374,993497,418△ 122,425
ユース五輪収入6,03506,035
オリンピック収入9,863,29011,058,135△ 1,194,845
合計35,523,68627,775,3327,748,354

単位:スイスフラン

2021年はコロナ禍真っ只中であり、グランプリファイナルをはじめとした複数のISU競技会が中止となりました。そのため、テレビの放映権収入や広告収入は減少したとのこと。コロナ禍以前のものと比較する必要がありますが、むしろ2022年が通常の収入といえるかもしれません。

また、オリンピック収入についてもコロナに影響が見られます。オリンピック収入は4年に分割して現金化していくようですが、ここでもコロナによる影響が出ており、2018年平昌オリンピックでの収入よりも年間約120万スイスフラン分の減となるようです。

後でも触れますが、本記事執筆時点で、1スイスフラン=154日本円となっているため、平昌~北京の4年間と比較して、北京~2026年ミラノオリンピックまでの4年間は、毎年日本円にして2億円近くの減となる予定です。北京オリンピックでは一般の観客が入ることができず、チケット代を稼ぐことができませんでした。そのほか、ほぼ無観客なのでスポンサーも減少していたでしょう。コロナによる影響がこんなところにも及んでいます。

運営費用

2022年2021年前年比
ISU選手権9,928,7605,715,4094,213,351
その他のISUイベント2,844,0973,912,822△ 1,068,725
ISU選手権の賞金2,137,7741,192,161945,613
その他のISUイベントの賞金2,138,1901,912,800225,390
ISU開発プログラム7,640,4498,376,649△ 736,200
その他の経費8,084,0295,205,1622,878,867
ISUオフィスビル164,260162,5111,749
ISU事務局費用4,516,2753,898,754617,521
合計37,453,83430,376,2687,077,566

単位:スイスフラン

運営利益の前年からの増加と同じ理由(=2021年のコロナによる競技会の中止)により、運営費用も前年から増加しています。2021年に中止となっていた大会が2022年に開催されたということで納得感のある結果となっています。

経営成績

2022年2021年前年比
収支△ 1,930,147△ 2,600,936670,788

単位:スイスフラン

経営成績としては、2021年に引き続き赤字となっています。

2021年と比べれば赤字幅は小さくなっているので、まあ…という感じでしょうか。

 

その他の特記事項

ロシア勢不在による影響

現在、ロシアのウクライナ侵攻により、ロシア・ベラルーシの競技者はISU競技会への参加が認められていません。この点について、2つの意味で負の側面があると指摘しています。

1点目は、トップスケーターの不在というスポーツ的な側面。とくにロシアは、女子シングル、ペアについてはオリンピック・世界選手権で複数メダルを獲得することも多かったため影響は大きかったでしょう。

2点目は、ロシアのスポンサーやメディアからの広告・放映権収入減という経営的な側面。これら収入が基本的に0となったため、2023年中に、損益計算書に100万スイスフランのマイナスが発生する見込みと述べています。本記事執筆時点で、1スイスフラン=154日本円となっているため、約1億5千万円の収入減が見込まれているということがわかります。

観客数減少に付随する影響

スポーツに対する広告・スポンサーの支出は今後鈍化することが予想され、またそれらの支出も一部のトップスポーツに集中する傾向があると指摘しています。つまり、スケートに対するスポンサー収入が増加する見込みが立たないということでしょう。

また、広告費は、テレビ放送局からソーシャルメディア/デジタルやゲーム業界へと明らかにシフトしており、広告収入の最大シェアを占める大手テック企業(GAFA:Google、Apple、Facebook、Amazon)による支配力が高まっていることを指摘し、「ISUにとっての主要な市場」と評される日本でも上記と同じ傾向が加速していることにも留意する必要があると述べています。この傾向は、「最も人気のある日本人スケーター」(羽生結弦さんのこと)が競技会から引退したことで、さらに深刻になるだろうと指摘しています。

このような傾向は、当然現在のスケートに対するスポンサーも理解しており、ISUにとって最も価値のあるテレビパートナーも、最近の視聴率の低下について懸念を表明していると述べています。

短期的には、現在契約しているメディアや企業との収入により利益を得ることは出来るだろうが、中長期的には同じように利益を得ることができるとは限らない。ISU競技会の観客やテレビでの視聴者を増やすために、スケートファンがどのように動機づけられて競技会を観戦・視聴するのか深く理解した上で施策を打つ必要がある。

また、若い観客を引き付けるための方法を継続して考えねばならないと冒頭で述べています。

ISU競技会の観客減・TVでの視聴者減が、スポンサー・放映権収入の減に直結していくため、何らかの対策を行わねばならないという危機感を持っていることがわかります。

AIの活用について

ISUでは、AIとデータ分析の活用検討プロジェクトを行っているとのこと。以下3点を目的として、活用方法を検討していると述べています。

  • フィギュアスケートのルールを正しく適用し、最も公平で公正な方法で演技要素を評価するための技術支援を行うこと。(=運営の視点)
  • スケーターとコーチに測定・分析ツールを提供し、パフォーマンスを評価・向上させること。(=選手の視点)
  • マルチメディアの視聴者を拡大し、スポーツをさまざまなプラットフォームで楽しめるようにし、瞬時に統計やグラフを表示することで、主要選手やそのチームと一般市民やファンをつなげること。(=ファンの視点)

検討した結果、ジャンプの回転計測等についてはAI等を活用することで上記目的を達成できることが確認できた一方で、実現には多額の費用が必要であることも同時に明らかになったと述べています。今後、より費用がかからない方法で実現できないか検討していくとのこと。

スケートファンの間には、ジャッジのAI化を望む声がしばしば聞かれます。そもそも当初の検討プロジェクトの目的としても、ジャッジをAI化するというよりは採点時のジャッジの支援を目的としていることから、ジャッジの完全AI化という点については実現はまだまだ先、もしくはジャッジとAIの共存のみということになりそうです。

おわりに

今回の記事では2022年ISU決算文書のうち、とくに損益計算書とその他言及されていた事項について取り上げました。貸借対照表、キャッシュフロー計算書もあるんですが、「見方がわからん!!!」ということで損益計算書のみの紹介になりました。(まあ、損益計算書の見方もあんまりわかってはいないんですが…)

どちらかというと、財務諸表よりもその他言及されていた事項の方が興味深い内容が多いのではないでしょうか。コロナやロシア勢不在による影響、AIの活用等、今後の展開を含めて注視していきたいところです。

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この記事を書いた人

ただのフィギュアスケートファン。フィギュアスケート現地観戦し始めて10年前後。現在も日本国内の大会・アイスショーに出没しています。
このブログでは現地観戦の感想、日々感じたことをのんびり書いています。

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