氷面鏡書評「マイムとは何かー鉄の女とマイムー」

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この記事の概要

私は氷面鏡(×こおりめんかがみ〇ひもかがみ)というフィギュアスケートファン(スケオタ)が作成している同人誌に数回寄稿しています。この度、氷面鏡Vol.3が近日中に刊行するにあたり、過去に私が執筆した記事について、書評という形で紹介してみよう!というのがこの記事です。

2021年4月1日発行の氷面鏡Vol.1に掲載されている「マイムとは何かー鉄の女とマイムー」について紹介します。

 

目的ー何を明らかにしたのか?

フィギュアスケートにおける「マイム」に注目が集まっている!ということで、マイムの使い方に規則性があるのではないか?プログラムで使用されるマイムにどのような意味が付与されているのか?という問題意識から、マイムがどのように使用されているのかを調べました。

タイトルに「鉄の女」と入っていることからもわかるように、調べる対象事例として選んだのは「鉄の女」ことエテリ・トゥトベリーゼ(エテリちゃん)門下生のプログラムです。

明らかになったこと

マイムが使用される場所として、①プログラム冒頭、②プログラム最後、③その他任意の場所に分けられることが明らかになった。そして、①と②はセットとして使用されることが非常に多い。

①と②をセットで使用した例として、非常に特徴的だったのがソチオリンピックが行われた2013-14シーズンのユリア・リプニツカヤである。彼女はSP「愛はまごころ(Не отрекаются любя)」、FS「シンドラーのリスト」において、プログラム冒頭と最後において、ほとんど同じ振り付けのマイムを行った。

SPであれば、彼女はしゃがみ込み、スケートリンクにハートマークを描いた後、雷鳴に天を仰いで演技を始める。そしてプログラム最後には、冒頭と同様にスケートリンクの上にハートマークを描いた後、削れた氷を空に放つ。

 

 

FSであれば、彼女は冒頭で少し歩みを進めた後、一度振り返る。そして、プログラム最後でも同様にスピンを後ろ向きで終えた後に振り返る。映画「シンドラーのリスト」はほとんどがモノクロで描かれているが、このモノクロの世界の中で赤いコートを着た少女が登場する。プログラム冒頭・最後ともに振り返るというシンプルな振り付けのマイムではあるが、当時15歳と少女であったリプニツカヤが少女と同様に赤いコートを身に着けて見せたマイムには、観客の心に強く訴えかけるものがあった。

これら、①プログラム冒頭、②プログラム最後をセットとして使用されるマイムは、明確にプログラムの世界観や物語性を表現するために行われているマイムと言えよう。そのため、本稿ではこれらマイムを「物語表現としてのマイム」と名付けた。

 

それでは、プログラム冒頭・最後以外で行われるマイムにはどのような特徴があるのだろうか?まず使用される場所であるが、プログラムの中盤~終盤に向けて使用されることが多く、とくにStSq(ステップシークエンス)前後、もしくはStSq途中にて行われる様子が見られる。

これらマイムの使用のされ方だが、特徴的な音に合わせて行われることが多い。例えば、エフゲニア・メドベージェワは2017-18SP「ノクターン第20番『遺作』嬰ハ短調」のStSq途中において「カンウェン…」という謎の掛け声に合わせてマイムを披露している。(なお、「カンウェン…」は「Come back…」と言っているらしいが全然そうは聞こえない。)

そのほか、エテリ門下生のプログラムではよくあることではあるが、ガラスが割れる音に合わせてマイムを行うことがある(いわゆる「ガッシャーン」である)。例えば、アリーナ・ザギトワ 2018-19SP「オペラ座の怪人」では、その編曲の酷さから見落とされがちではあるが、StSq直前にガラスが割れる「ガッシャーン」の音に合わせて右手でガラスをたたき割るようなマイムを見せる(その直後に「Think of me~♪」とにっこりするまでがお約束である)。

これらマイムについては、先の「物語表現としてのマイム」としての側面ももちろんあるだろうが、効果的な音に合わせてマイムを行うことでプログラムに抑揚をつけるという側面がより強いようである。以上のことから、これらマイムを「アクセントとしてのマイム」と名付けた。

 

 

 

批判的考察

以上が本稿にて明らかにされたことだった。それでは、本稿で明らかになったことについて、どのような批判が考えられるのか?どのような方向で今後のマイム研究が想定されるのかについて考えてみたい(マイム研究とはなんぞやという突っ込みは受け付けていない)。

1.そもそもマイムとは何か?

今回はマイムを「2秒以上の、移動を伴わない上半身のみの表現手法」と定義して分析を進めた。しかし、この定義自体が適切だったかどうかは議論の余地がある。例えばジャンプ前の助走中に行った振り付けはここではマイムには含まれていない。一般的なマイムやパントマイムの定義を使用すると「台詞ではなく身体や表情で表現する演劇の形態」となり、定義が広すぎるため今回は前途の定義を使用したが、そもそもフィギュアスケートにおけるマイムとは何か?を明らかにする必要があるのではないか。

2.エテリ以外ではマイムの使用方法は異なるのか?同じなのか?

今回はマイムコーチことエテリ・トゥトベリーゼ門下生のプログラムを対象としたが、マイムはエテリちゃんの専売特許ではない。日本でも古くは、村主章枝さんが超絶マイムプログラムを滑っている。今回はエテリ門下生のみが対象となったが、対象を広げていき、今回明らかになったマイムの特徴がエテリ以外でも当てはまるのかどうか、異なるのであれば何が異なるのかを明らかにする必要があるのではないか。

https://www.youtube.com/watch?v=IOTgdkCbcW0

3.マイムの事例選定の偏り

原稿提出締切の数日前に執筆を始めた(おいおい)という関係で、事例対象としたマイムに偏りがあった。今回選定したマイムがエテリを代表するマイムなのかどうかという点の疑問が残る。

おわりに

本稿はフィギュアスケートにおけるマイムについて取り扱った初めての論稿(と勝手に思っている)という点で非常に意義がある(と言いたいところ)。

氷面鏡はVol.1、Vol.2ともに完売御礼だったので、次回発売となるVol.3も完売となれば良いなと思っています。次回の目次と購入方法は以下の編集長のツイートからどうぞ。

 

 
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この記事を書いた人

ただのフィギュアスケートファン。フィギュアスケート現地観戦し始めて10年前後。現在も日本国内の大会・アイスショーに出没しています。
このブログでは現地観戦の感想、日々感じたことをのんびり書いています。

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