皆様、アナスタシア・グバノワはご存知でしょうか?
「スーパースター」「ファンが過激」「国会議事堂前でデモ」等のイメージが先行して、あまり知られていないのではないか?と思ったので、この記事では、ジョージアの女子フィギュアスケート選手アナスタシア・グバノワについてご紹介します。
プロフィール
- 誕生日:2002年12月2日(2023年8月 現在20歳)
- 出生地:ロシア連邦トリヤッチ
- 現住所:ロシア連邦サンクトペテルブルグ
- 代表国:ロシア連邦(~2021)、ジョージア(2021~)
- コーチ:エフゲニー・ルカヴィツィン
- 元コーチ:アレクセイ・ウルマノフ、アンゲリーナ・トゥレンコ、エレーナ・ブヤノワ
- 主な実績:2023年ヨーロッパ選手権優勝、2016年ジュニアグランプリファイナル準優勝、フリースケーティング(FS)元ジュニア世界最高得点保持者
- あだ名:たん様、ナースチャ、スーパースター(それを言うのはお前だけ)
グバノワはノービス~ジュニア~シニアと、長年ロシア代表選手として活躍していましたが、北京オリンピックシーズンである2021年8月にジョージアに代表国を変更しています。オリンピックに出るにはその国の国籍を有している必要もあるので、ジョージア国籍は確実に有しているはず。おそらく現在はロシアとジョージアの二重国籍状態なのではと思われます。
ちなみに、エカテリーナさんという妹がいて、彼女もフィギュアスケートをやっていました。
軌跡
2014~15シーズン(ノービスA1年目)
戦績
- ロシアカップ第1戦(ジュニア) 1位(188.40)
- ロシアカップ第2戦(ジュニア) 2位(186.42)
- ロシアジュニア選手権(ジュニア) 6位(178.44)
- NRW杯(ノービス) 1位(120.96)
- 全ロシアノービス選手権(ノービス) 1位(234.17※)※SPとFSでは179.81
プログラム
シーズン所感
このシーズンのハイライトはロシアカップ第1戦での優勝でしょうか。この大会には、ポリーナ・ツルスカヤ、アリサ・フェジチキナ、ソフィア・サモドゥロワだけでなく、現在ポーランド代表として活躍しているエカテリーナ・クラコワ、GPSにも出場したワレリヤ・ミハイロワ、JGPSで活躍したアリサ・ロスコ、アナスタシア・グリャコワ、エテリ・トゥトベリーゼの娘であるディアナ・デイビスといった強豪揃いでしたが、2位のツルスカヤと1点差の優勝でした。
SPのサムソンとデリラより「あなたの声に私の心は開く」は2013~14シーズンから継続のプログラム。ゆったりとしたメロディーにのせてディープエッジと優雅な上半身の動きを魅せつけるという素晴らしい演技。既にシニアの世界選手権最終グループで演技していても全く違和感がない風格がありました。
FSで演じたのは42番街。グバノワの過去のフリースケーティングの中でも、ファンの間でこのプログラムの評価は非常に高いです。中盤のスローパートはもちろん彼女の得意分野ですが、冒頭と終盤の明るいパートを軽やかに茶目っ気たっぷりに演じる姿はまさしく神童でした。
2015~16シーズン(ノービスA2年目)
戦績
- ロシアカップ第1戦(ジュニア) 1位(200.78)
- ロシアカップ第2戦(ジュニア) 2位(186.42)
- ロシアジュニア選手権(ジュニア) 12位(156.73)
- ロシアカップファイナル(ジュニア) 6位(171.84)
- ロシア年長選手権(ジュニア) 4位(184.70)
- ガルデナスプリング杯(ノービス) 1位(128.91)
- NRW杯(ノービス) 1位(139.96)
プログラム
シーズン所感
2014~15シーズン後半から入れ始めた3Lz+3Loを引き続き構成に入れ、卓越したスケーティング技術と高難度のジャンプ構成で天才の名をほしいままにしました。
なんといっても、このシーズンはSPで演じた「ロマンス」が素晴らしかったです。グバノワのベストプログラムとして「ロマンス」を上げる声も多々聞こえてきます。ベスト演技となったロシアカップ第1戦の動画をわれらが久田さんがアップしてくれていますので是非見てみてください。あまりの上手さに驚愕するはずです。
このシーズンは、シーズンのスタートこそノービスの選手ながら200点オーバーを記録するなど、完璧な素晴らしいスタートを切りましたが、徐々に調子を落としてしまい、翌シーズンのJGPS派遣に影響があるロシアジュニア選手権、ロシアカップファイナルで実力を全く出すことができませんでした。
シーズン前半と後半で明暗が分かれるシーズンとなりましたが、シーズン最終盤には状態は悪いながらも復調の兆しが見えており、首の皮一枚つながったという印象でした。
2016~17シーズン(ジュニア1年目)
戦績
- JGPSチェコ大会(ジュニア) 1位(185.59)
- サンクトペテルブルグ杯第2戦(ジュニア) FS棄権(SP1位 69.05)
- JGPSドイツ大会(ジュニア) 1位(194.57)※FS世界最高記録更新
- ボルボオープン(ジュニア) 1位(191.18)
- ジュニアグランプリファイナル(ジュニア) 2位(194.07)※FS世界最高記録更新
- ロシア選手権(シニア) 7位(197.26)
- ロシアJr.選手権(ジュニア) 7位(185.79)
- ロシア杯ファイナル(ジュニア) 1位(197.72)
- ロシア学生スパルタキアード(ジュニア) 2位(208.73)
- エーニャスプリング杯(ジュニア) 1位(174.99)
プログラム
シーズン所感
迎えたジュニアデビューシーズン。前シーズンである2015~16シーズンは、シーズン後半の重要大会で精彩を欠いたため、ジュニアグランプリシリーズに派遣してもらえるのか…と多くのファンが心配していました。しかし、そんな心配は杞憂だったようで、ジュニアグランプリシリーズに派遣が決定。
JGPSチェコ大会では、明らかに緊張していましたが紀平選手を抑えて優勝。ちなみに、同じジュニアグランプリシリーズに日本から派遣されていた須本選手は「グバノワうめ~」とTwitterでツイートしていました。続くドイツ大会でも優勝(FSではジュニア世界記録を更新)し、ランキングトップでジュニアグランプリファイナルに進出しました。
迎えたジュニアグランプリファイナルでは、SPでコンビネーションジャンプのファーストジャンプで転倒する痛恨のミス。ジュニアではリカバリーができないので要素抜けとなってしまい、大きく出遅れました。
しかし、FSで自身の持つジュニア世界記録を更新する演技を見せる怒涛の追い上げで準優勝となりました。この時最後のジャンプである3Sを成功させた後のぶんぶん手を大きく振るうガッツポーズはいわゆる「大根ぶった切りガッツポーズ」と呼ばれました。ちなみに、この試合でグバノワがFS世界最高記録を出した数十分後に演技を行った、SP1位のアリーナ・ザギトワがさらにFS世界最高記録を更新していきました。
ジュニアグランプリファイナル銀メダリストだったため、世界ジュニア選手権代表選出の期待がかかりましたが、代表選考会であるロシアジュニア選手権のSPで出遅れ、FSでも巻き返すことができず7位に終わったため代表を逃しました。ちなみに、このロシアジュニア選手権のFSで突然今までのジャンプ構成から大きく構成を変えていたので、一か八かFS巻き返しに勝負を仕掛けてきたんだと思います。
ところで、このシーズンから彼女の悪い癖が出ることになります。それは、音楽を完全無視して演技しやすいように勝手にプログラムを作り変えてしまうことです。SPのThe Swanは名プログラムでしたが、ミスが多く嫌になったのかロシア選手権からプログラムを作り変えてしまいました。結果として、中盤は頓珍漢な振り付けになってしまっているのですが、彼女は上手すぎるので、それでもそれなりに見えてしまうのが恐ろしいところです。
2017~18シーズン(ジュニア2年目)
戦績
- サンクトペテルブルグ杯(シニア) 2位(212.59)
- JGPS ザルツブルク大会(ジュニア) 4位(160.75)
- ロシアカップ 第1戦(シニア) 2位(189.31)
- ニースカップ(ジュニア) 優勝(188.30)
- ロシアカップ 第3戦(シニア) 第3戦 2位(199.95)
- CS タリン杯(ジュニア)優勝(189.31)
- ロシア選手権 6位(206.60)
- ロシアジュニア選手権 4位(205.92)
- ロシアカップファイナル 2位(206.29)
プログラム
※ここの本当に良かった時の演技がYouTubeからなくなっていて悲しみ
シーズン所感
ジュニアグランプリファイナル銀メダリストとして迎えたシーズン。シーズン初戦は練習拠点サンクトペテルブルグでの大会となりました。ここでの演技はライブ配信、後日の動画も一切なかったのですが非常に良い演技だったとの情報がありました。
しかし一転して、ジュニアグランプリシリーズ第2戦のザルツブルク大会では、ショートプログラムでほぼ全てのジャンプをミス、フリースケーティングでも転倒2回と精彩を欠きまさかの4位。この試合は「ザルツブルクの悪夢」とファンの間で呼ばれています。このシーズン、ロシア勢は過去最高クラスにレベルの高い選手が多数集まっており、ジュニアグランプリシリーズでは1戦目に優勝できないと2戦目はないという狂気っぷり。1戦目銀メダルのアナスタシア・グリャコワですら2戦目派遣がない状況だったので、1戦目4位のグバノワには2戦目が回ってくることはありませんでした。
そして、この「ザルツブルクの悪夢」の直後に「私には安定感が必要だということに気がついた」という謎コメントをして多くのファンからツッコミを受けました。「いや、今気が付いたの?」と。グバノワ天然疑惑はここから始まっています。
「ザルツブルクの悪夢」以降は安定した演技を披露し続けました。おそらくジュニアグランプリの代わりに派遣されたであろう国際大会2戦では2戦ともに優勝。年末シニアのロシア選手権では過去最高の6位(そして現在彼女はジョージアへ移籍しているため、これから先もこの成績を超えることはないでしょう)。
世界ジュニア選手権代表がかかったロシアジュニア選手権では、ショートプログラムで完璧な演技を披露して2位発進。最終滑走で迎えたフリースケーティングでは、途中かなり曲に遅れる部分もありましたが、大きなミスなくまとめきりました。プレッシャーがかかる試合で実力を発揮できないことが多い印象がありましたが、その彼女の弱点を乗り越えた瞬間でもありました。しかし、他選手からの猛追を受けて、アレクサンドラ・トゥルソワ、アリョーナ・コストルナヤ、スタニスラワ・コンスタンチノワに次ぐ4位。世界ジュニア代表を逃しました。この時、キス&クライで自らの得点と順位が発表され、最終滑走なので自らの最終順位4位が確定した表示を見て、手で顔を覆った瞬間はあまりに悲しくて私もあまり思い出したくありません。
このシーズンはブノワ・リショーにプログラムの作成を依頼しており、非常にレベルの高いプログラムを2つ揃えてきました。ショートプログラム”Summertime”では気だるい雰囲気を見事に表現した演技を披露。実はこのシーズンも彼女の得意技「音楽を無視してプログラムの順番を変更する」をやっており、「ザルツブルクの悪夢」以降プログラムを改悪しています。しかし、その後シニアのロシア選手権前にリショーの手直しを経て再び素晴らしいプログラムに戻りました。毎回、プログラムを自分で弄るんじゃなくて、振付師に修正を依頼してくれ。
また、フリースケーティングでは、Abel Korzeniowskiの楽曲を複数組み合わせて、プログラム曲を”Hope”と勝手に名乗っていました。当時、後半ジャンプ固め打ちがトレンドだったので、グバノワも後半6ジャンプ構成としています。”Hope”がすごいのは、後半のジャンプを固めている印象がなく、プログラムのジャンプ配置に必然性があることでしょうか。もちろんジャンプ以外の表現も非常に素晴らしい、後世に残すべき名プログラムです。
2018~19シーズン(ジュニア3年目、シニア1年目)
戦績
- モスクワオープン(ジュニア) 3位(190.85)
- ロシアカップ第1戦(シニア) 3位(194.48)
- ロシアカップ第4戦(シニア) 3位(211.24)
- CSタリン杯(シニア) 4位(180.73)
- CSゴールデンスピン(シニア) 2位(198.65)
- ロシア選手権(シニア) 9位(203.76)
- ロシアカップファイナル(シニア) 5位(206.22)
プログラム
Take Fiveは音ハメを重視するか、身体のキレを重視するかどちらをより重要視するかといった宗教上の違いがあるので、両者をベスト演技としてあげています。
シーズン所感
このシーズン彼女は一大決心を下しました。長年指導を受けてきたアンゲリーナ・トゥレンコの下を離れ、CSKAのエレーナ・ブヤノワの下へ移籍します。サンクトペテルブルグを愛していると話す彼女がサンクトペテルブルグを離れ、モスクワへ練習拠点を移すということは並々ならぬ覚悟があったことでしょう。このころブヤノワ門下には、エレーナ・ラジオノワ、マリア・ソツコワ、ポリーナ・ツルスカヤ、そしてアナスタシア・グバノワとビッグネームが勢ぞろいとなりました。
ちなみに、グバノワは以前ファンからの「エテリ・トゥトベリーゼからの指導を受けたいか?」といった趣旨の質問に”No”と答えています。彼女は自らがエテリと合わないと思っていたのでしょう。私もそう思います。絶対にケンカします。スケートで勝負を仕掛けるためにモスクワ上京を決意、しかしエテリはおそらく自分には合わない…ということでCSKAを選んだんでしょう。
このシーズンからシニア移行が可能な年齢となりますが(当時)、グバノワは当初ジュニア残留を予定していました。しかし、新しく変えたスケート靴が合わず足の怪我をしてしまった影響で、ジュニアのテストスケートを欠場します。ジュニアのテストスケートは言わばジュニアグランプリシリーズ代表選考会。ジュニアグランプリシリーズのエントリーから外れてしまいます。
ジュニアグランプリシリーズ出場をかけたラストチャンスであるモスクワオープンに出場するも、カミラ・ワリエワ、ダリア・ウサチョワに次ぐ3位となり、ジュニアグランプリシリーズ派遣を完全に逃します。その後は、ジュニアに見切りをつけたのか国内外問わずシニアに活動の場を移しました。
それ以降は調子を徐々に上げ、シニアで出場したロシアカップでは2戦ともに3位、同じくシニアで出場したCSゴールデンスピンではアメリカのブレイディ・テネルとほぼ互角の優勝争いを繰り広げて銀メダルを獲得しています。
一方で、ロシア選手権は9位、エフゲニア・メドベージェワ、エリザベータ・トゥクタミシェワと世界選手権代表最後の1枠を争ったロシアカップファイナルでは5位と勝負所で実力を発揮できないことが多かったように思われます。
このシーズンはジャンプの調子が良く、フリースケーティングでは冒頭に3Lz+3Lo、後半にも3+3を跳ぶ非常に難易度の高いジャンプ構成となっていました。動画として残っている公式練習でもノーミス演技を披露しており、調子の良さをアピールしていました。ちなみに、3Lz+3Loは「どういう原理で跳んでいるのか全く分からない」と話題になりました。気になる人はぜひ見てみてください。本当に意味が分かりません。
そして、このシーズン生まれた名プログラムがショートプログラム”Take Five”です。ジャズのけだるい雰囲気を完璧に表現した演技、特に見せ場のStSqでは彼女がTake Fiveの音そのものでした。いまだにファンからはTake Five再演を希望されるほどとてつもないプログラムとなっています。
しかし、彼女の悪い癖である「音楽を無視してプログラムの順番を変更する」ことをシーズン初戦のモスクワオープン後に行ってしまいます。彼女の天才さがゆえに、プログラムが変わった後でも素晴らしく良いプログラムでしたが、それでも変更前の方がプログラムとしての完成度が高かったことは言うまでもありません。
難しいことは、プログラムの完成度以外、つまり本人の体のキレや動き自体はモスクワオープン以降の方が抜群に良かったことでしょう。動きの良さを取るのであればロシアカップファイナルもしくはロシア選手権、プログラムの完成度を取るのであればモスクワオープンと、ベスト演技がファンによっても分かれることになりました。ちなみに、モスクワオープン以外認めない立場のファンを「モスクワオープン過激派」と言います。私は本人の動きが良かったロシアカップファイナル派です。
また、フリースケーティング「愛の夢」は、曲名を聞いたとき誰もが「え…、これ神プロ確定じゃん…」と思いましたが、落とし穴がありました。スクール水着のような衣装に、中盤突如始まるビート音、「愛の夢だったのに悪夢に…」と嘆きの声が多く聞かれました。
2019~20シーズン(シニア2年目)
戦績
- サンクトペテルブルグ杯 3位(188.57)
- ロシアカップ第2戦 3位(178.05)
- ロシアカップ第3戦 2位(197.09)
- サンクトペテルブルグ選手権 優勝(214.03)
- ロシア選手権 10位(190.06)
- ロシアカップファイナル 2位(208.81)
プログラム
シーズン所感
2019年7月にCSKAを1年で離れて、サンクトペテルブルグを拠点とするエフゲニー・ルカヴィツィンの下に移籍することが発表されました。しかし、その経緯がエレーナ・ブヤノワによってCSKAを除名されたとの報道がなされ、物議を醸しました。グバノワが話すところによると、ブヤノワと2人で話しをCSKAを離れることを決めたのに、なぜ除名なのかと。いずれにしても、確実なことは彼女がブヤノワの下を離れてルカヴィツィンの下に移籍したということです。
結果としてこの移籍は大正解だったでしょう。グバノワはジャンプの軸が暴れがちになることが多かったですが、ルカヴィツィンの指導によって少しずつジャンプの癖が矯正されていき、質の良いジャンプを跳べるようになっていきました。
ちなみに、前シーズンにSB24位以内に入っていたため、GPS出場に期待するファンが多かったですが、国別人数制限に引っかかってしまいGPS出場することは叶いませんでした。
このシーズンはロシア選手権の2週間前に出場したサンクトペテルブルグ選手権の演技が非常に良かったです。非のつけようがないショートプログラムでは75点近い得点をたたき出し、久しぶりにキス&クライでガッツポーズをして喜んでいる彼女の姿を見ることができました。
2020~21シーズン(シニア3年目)
戦績
- サンクトペテルブルグ選手権 2位(192.83)
プログラム
シーズン所感
このシーズンはほとんど大会に出場しないシーズンとなりました。通常、グランプリシリーズに出場しないロシア選手は9月頃から数戦にわたって開催されるロシアカップに出場します。ロシアカップには2戦出場することができ、2戦の試合結果で上位の選手からロシア選手権に出場が可能となります。
しかし、このシーズン、グバノワはロシアカップにエントリーが1戦もありませんでした。その他の国内大規模大会には一切参加せず、このシーズン出場したのは拠点のサンクトペテルブルグでの大会のみ。ロシアの選手は引退宣言をせずに競技を去る選手が非常に多いため、ロシアカップへのエントリーがなかった時点で多くのファンが「現役引退」だと思っていたことでしょう。私自身もその1人でした。
その一方で、12月に1試合だけ出場した大会では、昨シーズンとさほど力が落ちていない姿も見せてくれていました。その時に語っていたこととしては、家族友人等周囲の人々が何人もコロナ陽性が出たため自らは何ともないがロシアカップに出場ができなかったとのこと。しかし、今思えば、ロシア選手権やロシアカップファイナルといったロシア国内の大規模大会はあえて出場せず、移籍の準備と時間稼ぎを行っていたように思われます。
2021~22シーズン(シニア4年目)
戦績
- CS フィンランディア杯 5位(203.91)
- CS ゴールデンスピン 優勝(184.29)
- ヨーロッパ選手権 7位(188.17)
- 北京オリンピック団体戦 予選・SP4位(67.56)
- 北京オリンピック個人戦 11位(200.98)
- 世界選手権 6位(196.61)
プログラム
シーズン所感
2021年8月にロシアからジョージアへの代表国変更を発表。ちなみに、当時は情報が錯綜しており、当初アルメニアに移籍すると報じられていました。2018~19シーズン以降はロシア代表として国際大会に派遣がなかったため、ちょうど移籍した2021~22シーズンから国際大会への出場が可能に。人生何が功を奏すかわからないものですね。
国際大会への復帰、そしてジョージア代表デビュー戦だったフィンランディア杯ではいきなりショートプログラム・フリースケーティングでほぼノーミスの演技を披露。国際大会での総合パーソナルベストをたたき出しました。
彼女が少しあとにジョージアに移籍が決まったころの話をしていますが、国際大会に出場ができるという喜びから非常に良い練習を積めたと語っていました(とはいえ、このシーズン前に彼女は足の手術をしていますが)。久しぶりに国際大会のスケートリンクに立つ姿は、自信にあふれており明らかにここ数年とは違う彼女でした。ロシア国内の激しい競争から逃れて国外に移籍した選手は、競争のなさから競技力を落とすことが多いとしばしば言われますが、彼女はその定説をいきなり打ち破ることに成功したのです。
復帰2戦目のゴールデンスピン前後にコロナ感染したこともあり、一時調子を落としますが北京オリンピックのジョージア代表に選出されます。北京オリンピックの代表枠は、2021年世界選手権ジョージア代表として、ジョージアの北京オリンピックの代表枠1枠を勝ち取ったアリーナ・ウルシャゼと争うことになりましたが、国際大会での成績等からグバノワが選ばれることになりました。余談ですが、オリンピックの代表になるには、代表国の国籍を有している必要があるので、グバノワがジョージアの国籍を有していることは確実です。
そして迎えた北京オリンピック。彼女は団体戦含めて3回演技を行いましたが、3回ともに素晴らしい演技を披露。とくに個人戦フリースケーティングは彼女の国際大会フリースケーティングのパーソナルベストのスコアでした。彼女が最後のジャンプであるダブルアクセルを着氷した後に見せたガッツポーズ、ジュニア時代と全く変わらないガッツポーズに涙したファンも多いことでしょう。
そして、続く世界選手権でも、ショートプログラムの出遅れを取り戻すフリースケーティングでの会心の演技を披露。同じくダブルアクセル後にガッツポーズが飛び出しました。余談ですが、このガッツポーズを見た某解説者さんは「演技中ガッツポーズはプログラムの雰囲気が乱れるからちょっと…」と苦言を呈していますが、私も全くの同意見です。これまでの経緯があるから感動していますが、その辺りの知識がなければ私も苦言を呈しているでしょう。
何はともあれ、世界選手権ではショートプログラム14位からフリースケーティングでごぼう抜きして6位に飛び込みます。エキシビションにも呼ばれ、「グバノワが世界選手権エキシビションにいる世界線…」と多くのファンが涙しました。
2022~23シーズン(シニア5年目)
戦績
- CS フィンランディア杯 3位(197.56)
- GPS イギリス大会 3位(193.11)
- GPS フィンランド大会 7位(166.57)
- ヨーロッパ選手権 優勝(199.91)
- 世界選手権 14位(184.92)
プログラム
シーズン所感
何と言ってもこのシーズンのハイライトは、ヨーロッパ選手権でジョージアの女子選手として史上初優勝でしょう。フリースケーティング演技後、感極まってリンクに倒れこんだ姿は多くのスケートファンの涙を誘ったことでしょう(ちなみに私はあまりのうれしさに、日本時間深夜にジョージアワインを開けて祝杯をあげました)。ジョージア女子選手の同大会表彰台は、2012年のエレーネ・ゲデヴァニシヴィリの銅メダル以来でした。
また、グランプリシリーズ イギリス大会で銅メダルを獲得し、ジョージア女子選手初のグランプリシリーズメダリストにもなりました。
一方で、このシーズンはジョージアへの移籍前に見られた彼女の不安定さが時折顔をのぞかせるシーズンでもありました。2位以上であればグランプリファイナルがほぼ確定する状況下で迎えたグランプリシリーズ フィンランド大会ではショートプログラム・フリースケーティングともに精彩を欠き7位、またヨーロッパ女王としてメダルが期待された世界選手権でも本来の演技ができず14位となりました。
プレッシャーがかかる「次」がかかっている試合で本来の力を発揮できないという元々の彼女の弱さが所々で見えましたが、ヨーロッパ選手権ではショートプログラム1位からフリースケーティングではリカバリー3F+3Tを行って優勝を勝ち取るというこれまでの彼女の弱さを打ち切る活躍を見せたシーズンとなりました。
2023~24シーズン(シニア6年目)
戦績
- CS ロンバルディア杯 1位(185.60)
- CS フィンランディア杯 3位(179.61)
- GPS フランス大会 6位(187.66)
プログラム
- SP:Mojo
- FS:Caruso
シーズン所感
まだまだ伝説は始まったばかり!!!
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