浅田真央アイスショーの進化論【サンクスツアー・BEYOND・Everlasting33】

浅田真央といえば、フィギュアスケート界のスーパースターの一人。現役時代には、2010年バンクーバーオリンピック銀メダル、世界選手権優勝3回の輝かしい成績はもちろんのこと、彼女の代名詞とも言えるトリプルアクセルと高い芸術性を兼ね備えた演技は多くのファンの心を掴んで離しませんでした。彼女は2016年12月の全日本選手権を最後に翌年4月に現役引退を発表すると、アイスショーの世界へと入っていきました。

2017年8月に当時、座長を務めていたTHE ICEに出演した以降、彼女は自らアイスショーを企画する方向へと舵を切りました。浅田真央サンクスツアー(2018~2021)、BEYOND(2022~23)、そしてEverlasting33(2024)と、それぞれ異なるコンセプトの新しい3つのショーを開催し、スケートファンだけでなく、一般の観客を魅了してきました。この記事では、それぞれのショーを比較して見ていきます。

アイスショーの概要

まずは、それぞれのアイスショーの概要を見ていきましょう。

浅田真央サンクスツアー

浅田真央が初めて企画したアイスショーが浅田真央サンクスツアーです。

現役引退後、2017年8月に出演したTHE ICEでは、彼女がスケート靴を脱いだ写真がありました。彼女の現役引退は突然の発表であり、現役最後の大会とファンが認識して彼女を見送ることが出来ませんでした。そうした経緯から、当時の彼女はTHE ICEを最後の別れの舞台として選んで出演しました。

しかし、その後スケートから離れる生活を送るうちに、スケートが好きで、自らの軸はスケートであることを再認識すると、アイスショーの企画を構想するようになりました。従来のアイスショーのような限られた公演日、大きな会場、多数のキャスト・スタッフと共に開催するアイスショーではなく、もっと幅広い地域で、スケートファンだけでなく、スケートを見たことがない人も見に来ることが出来るようなアイスショーが作れないか…。そんな想いから生まれたのが浅田真央サンクスツアーでした。

「浅田真央が全国に感謝を届けます」というキャッチフレーズからもわかるように、アイスショーが開催されることがほぼない都道府県でも公演を行い、これまで応援してくれた人々への感謝を伝えるというコンセプトのアイスショーでした。2018年5月から2021年4月まで約3年間という長期間にわたって開催され、日本全国のスケートリンクで公演を行う。しかも、チケット料金は従来のアイスショーの価格の3分の1程度でした。

BEYOND

2021年4月に浅田真央サンクスツアーを終えて、自らのスケート人生はまだ終わりではないと感じた真央さん「過去の自らを越えて進化する」という想いから、BEYONDと名付けた新たなアイスショーを企画します。アイスショーのキャッチフレーズは「これは、私たちの進化の物語」です。

2022年9月から2023年7月という約1年間開催され、浅田真央サンクスツアーと同様に日本全国で公演を行いました。真央さんを追ったドキュメンタリー番組では、BEYOND開催に至るまで多くの困難を乗り越える必要があったと述べられていました。何度も開催が延期され、開催自体を諦めそうになったこともあったとのこと。しかし、開催にこぎ着けて、最終的には浅田真央サンクスツアーに続き大成功を収めることになります。私は浅田真央サンクスツアーの大千秋楽公演、BEYONDの初回公演のいずれも観戦しましたが、BEYONDの初回公演でいきなり浅田真央サンクスツアーを越えるクオリティが披露され非常に驚かされました。

Everlasting33

2024年6月に開催されたEverlasting33では、開催期間をある程度設定して日本全国を巡回した過去2作品とは対照的に、立川ステージガーデンにおいて約2週間のみ開催されました。当時33歳だった浅田真央。自身の年齢である33という数字、そして33本の薔薇の花言葉(=生まれ変わってもあなたを愛する)からインスピレーションを得てショーのタイトルをEverlasting33と名付けました。本作では、“永遠の愛”がコンセプトとなっています。

Everlasting33の会場となった立川ステージガーデンは劇場であり、スケートリンクではありません。今作は劇場型アイスショーという新たなジャンルを確立しただけでなく、全曲オーケストラによる生演奏というプレミアムなアイスショーとなりました。

3つのアイスショー比較

ここでは、3つのショーをさまざまな側面から比較してみましょう。

コンセプト

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サンクスツアーBEYONDEverlasting33
コンセプト感謝進化永遠の愛

3作品では全く異なるコンセプトにより、アイスショーが作られました。

浅田真央サンクスツアーでは、これまで応援してくれたことに対する「感謝」を観客に届け、BEYONDでは自らの「進化」を観客に見てもらう。そして、Everlasting33では「永遠の愛」を観客に見てもらうだけでなく、真央さんの母に届ける。スケートそのものへの「永遠の愛」を届けるアイスショーであるように感じました。

特徴

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サンクスツアーBEYONDEverlasting33
特徴敷居の低さ映像との連動劇場型

浅田真央サンクスツアーの特徴は、何と言ってもアイスショー観戦の敷居を下げたことでしょう。3年間かけて日本全国を巡回、しかもチケット料金は通常のアイスショーの1/3程度の価格でした。「近くに真央ちゃんが来るから見に行こう!」という気持ちにさせてくれます。都会ではない地域のサンクスツアーを観戦したことが数回ありますが、「また、〇〇に来てね~!」と観客が真央さんに向かって叫んでいたのが非常に印象に残っています。

続く、BEYONDではリンク内にモニターを複数台設置し、非常に美しい映像とスケートが一体となるアイスショーを見せてくれました。大型モニターだけでなく、小型モニターもリンクを取り囲むように設置されており、リンク内のどこを見ても映像が目に入り、世界観に没入することが出来ました。

そして、Everlasting33では、劇場でアイスショーを開催するという誰も考えなかったであろうアイディアを実現させました。エアリアルの使用、オーケストラの生演奏による演技は劇場ならではの演出でした。

演目

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サンクスツアーBEYONDEverlasting33
演目浅田真央現役時代の楽曲浅田真央現役時代の楽曲新たに選曲

浅田真央サンクスツアーでは、浅田真央が現役時代に演じた楽曲を使用しました。とくに、印象的だったのはツアーキャストメンバーで繋ぐラフマニノフ ピアノ協奏曲です。

ラフマニノフ ピアノ協奏曲は2014年ソチオリンピックのフリースケーティングで演じた伝説のプログラムであり、浅田真央と言えばこのプログラム!と言うものです。男性メンバーのリレー形式で演技を繋いでいき、最後大トリで登場した浅田真央が現役時代と全く変わらないステップシークエンスで魅せます。普段からフィギュアスケートを見に来ているわけではない観客が多いことから、THE 浅田真央とも言うべきプログラムをまとめてきました。

続く、BEYONDでも浅田真央現役時代の楽曲ですが、浅田真央サンクスツアーで使用しなかった楽曲に限定されました。また、サンクスツアーでは、先に述べたラフマニノフ ピアノ協奏曲の他にも浅田真央の現役時代のプログラム再現が多かったですが、BEYONDでは全く異なるプログラムに作り直して演じたことも非常に印象的でした。

Everlasting33では、新しく演目を選曲しました。スケートファンへのアンケートのほか、劇場型アイスショーにより合致した楽曲を選定したのでしょう。多様なジャンルから選曲していたのがEverlasting33の大きな特徴であり、バレエ音楽から、ゲーム音楽まで様々な楽曲が使用されていました。特に印象的だったのが、アニメ「天空のエスカフローネ」より「Dance of Curse」、そして、ゲーム「ファイナルファンタジーX」より「ザナルカンドにて」でしょうか。これら楽曲がアイスショーで使用される日が来るとは夢にも思いませんでした。

比較分析

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サンクスツアーBEYONDEverlasting33
コンセプト感謝進化永遠の愛
特徴敷居の低さ映像との連動劇場型
演目浅田真央現役時代の楽曲浅田真央現役時代の楽曲新たに選曲

3つのアイスショーを比較して見ると、どのようにしてショーを作り上げることでコンセプトを最も表現できるのかが考えられていることがわかります。

浅田真央サンクスツアーのコンセプトは「感謝」でした。これまで会場に足を運んで応援してくれたファンはもちろん、テレビを通して応援してくれた人も含めて、より多くの人に自らの演技を観てもらい、直接「感謝」を伝えたいという想いから始まった浅田真央サンクスツアー。3年にわたる全国巡回チケット料金の安さなど、多くの人が観戦できるようアイスショーの敷居を下げました。そして、演目はTHE 浅田真央で盛り上げました。

BEYONDのコンセプトは「進化」でした。自らを越える、前作浅田真央サンクスツアーを越えるという想いから、演目は真央さんが現役時代に使用した楽曲でしたが、プログラム構成はかつて滑っていた内容から大きく変えています。そして、サンクスツアーにはなかった新しい取り組みとして映像を駆使したアイスショーを作り上げます。チケット料金はサンクスツアーから僅かに上がったものの、それでも通常のアイスショーと比べれば破格の値段であり、BEYONDの特徴である映像を活用するための映像機器代と考えれば必要経費と言えるでしょう。

Everlasting33のコンセプトは「永遠の愛」でした。また、特徴にあげた「劇場型」もコンセプトと言えるかもしれません。劇場だからできる取り組みを詰め込み、タップダンスや陸上ダンスとのコラボレーションは非常にスペシャルなアイスショーでした。構成がスペシャルであるがゆえに、チケット料金もスペシャルになりましたが、内容を考えればまだ安いでしょう。アイスショー全体のクオリティは浅田真央サンクスツアー、BEYONDを上回る内容でしたが、サンクスツアー、BEYONDと比較するとショーの敷居はかなり上がりました。見る人を選ぶアイスショーだったと言えるかもしれません。過去2作のような全国巡回に適した内容ではなく、1会場で限られた短い期間実施するアイスショーとして適していたように思います。

こうして比較すると、BEYONDは最もバランスが良いアイスショーだったかもしれません。手作りで温かみのある浅田真央サンクスツアー、圧倒的芸術性の高さを持つEverlasting33、両者の要素を持っていました。とはいえ、これは浅田真央サンクスツアー、Everlasting33がBEYONDに劣っているというわけではありません。別の尺度ではBEYONDを上回る良さを浅田真央サンクスツアー、Everlasting33は持っていました。全く異なるアイスショー3部作を作り上げた浅田真央の凄さを物語っていると言えるでしょう。

まとめ

浅田真央が現役引退後に開催した3つのアイスショーは、それぞれに異なる魅力を持っていました。浅田真央サンクスツアーBEYONDEverlasting33と、作品が進むにつれてアイスショーのクオリティは格段に上がりました。しかし、ショー自体のコンセプト・方向性が異なっていることから、3部作はそれぞれがオンリーワンで素晴らしい作品だったと言えるでしょう。

彼女は、新たなアイスショーの企画に取り掛かっており、次回作を見るのが今から非常に楽しみです!

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この記事を書いた人

ただのフィギュアスケートファン。フィギュアスケート現地観戦し始めて10年前後。現在も日本国内の大会・アイスショーに出没しています。
このブログでは現地観戦の感想、日々感じたことをのんびり書いています。

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